けれどもこれは恋






「目標?」
突然の言葉に首を傾げると目の前で頷くマイケルとアキを見た。何の冗談を言って
いるのかと思ったが、少なくともマイケルが本気らしいことは表情を見れば
一目瞭然だ。
「そう、目標。何か目標ってある?」
「…目標って言われてもなぁ…。うーん…」
コーヒーをすすりながら、妙に楽しそうなアキを不審に思いつつ、マイケルの
真面目な質問の答えを探す。とりあえず今、思いつくのは一つしかない。

「そうだな、とりあえずはの戦果を抜くことかな。んで、出来れば
認められるくらいのパイロットになりたい」
「そっか…うん、確かにの戦果、今凄いもんね」
自分の答えに満足したように頷くマイケルとは別にアキは先程よりも一層
楽しそうに鼻歌まで歌っている。
「…何だよ、アキ。何か言いたそうだけど」
「ん?いや、そう来たかと思ってな」
コーヒーを飲み干すとニヤリと笑うアキに眉を顰めた。
「そう来たってどういう意味だよ」
「そのままさ。いやー、いいよな」
何を言いたいのかわからないが、からかうような雰囲気を醸し出しているのは
確かだ。こういう時は触れずにさっさとこの場を去ってしまうに限る。
「じゃあ、俺、機体調整しなきゃなんないから」
そう言って立ち上がると何か言いたそうなままにやつくアキを横目に歩き出す。
口笛なんか吹いている辺りとても感じ悪い。マイケルは別に普段通りで自分の答えに
満足し、更に自らの目標を再確認しているような様子だ。食堂を後にしながら
気持ちを切り替えるために大きく息を吐き出す。

そう、自分の今一番身近な目標は目の前の希望号に乗り込む彼女の戦果を
追い抜くこと。多分それは身近な目標でありながら達成するのはとても難しい
ものだ。それだけ彼女の戦果はずば抜けており、総軍のエースである父でなければ、
太刀打ち出来ないような…そんな大きな壁である。そして口にしなかった目標の
もう一つは自分の父を追い抜くことだった。



そうさ、目標はあくまで目標。大きければ大きい程いいに決まってる。
パイロットとしてに認めてもらいたいと言えば、もうとっくに認めてるよって
言いそうだけど、そうじゃない。何て言っていいのか、わからないけど…そういう事
じゃないんだ。戦場をが一人で駆けずり回るんじゃなく、俺も同じように、
同じ土俵で居たいって思う。今は?今はが殆ど一人で担っている。俺はその
お零れに預かってるだけだ。俺は対等でいたいんだよ。こっちは引き受けるから、
そっちはお願いって言ってくれるくらいにね。

それを…何だよ、アキの奴。まるで馬鹿にしたみたいで感じ悪い。ああ、絶対
馬鹿にしてるんだ。お前の場合、それだけじゃないんだろ?って顔が言ってた。
ああ、そうだよ。俺はに対してパイロットとして認めて欲しいと思う以外にも
思ってることがあるさ。仕方ないじゃないか。男として認めて欲しいって思うのは
悪いこと?そうじゃないだろ?そりゃあ、この気持ちは俺がにだけ思うものだから
特別だよ。だけど、それを茶化すなんて酷いだろ。昔アキだってそういう気持ちを
抱いていたことあったんだろうからさ。

認めて欲しい。
自分を見て欲しい。
冷やかされたって、どれだけ否定したって無駄。

うん、だってこれ、恋心って奴だもん。
微妙な男心って奴。

これを認めるのって結構勇気いるんだなって思った。
目標って目の前にぶら下げてたものが恋なんだ、って言われたって驚きもするさ。



「でも…ホント、これだけぐるぐる考えて出した結果が…なぁ」
そう呟きながら髪の毛を混ぜ返すと足元を見ながらハンガーへと足を踏み入れた。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
誰かとぶつかりそうになって声をあげる。足元から見たってわかる。総軍の女子
制服姿なんて一人だけだから。
「ご、ごめん!俺、考え事してたから…大丈夫だった?」
「うん、大丈夫」
顔を覗き込むとくすりと微笑む彼女。さらりと髪が流れ、ほんのり甘い香りが鼻を
くすぐった。たったそれだけの事なのに心臓が五月蝿いし、頬が緩んでいくのが
わかる。
「気を付けなきゃ駄目だよ?いつ誰が出てくるか、わからないんだからね」
そう言うと肩を軽く叩いて連絡通路の方へと歩き出す。後ろ姿をぼんやり見送りながら
いつの間にかにやけていた顔を引き締めるべく頬を抓った。
「…ったく、我ながらどうかと思うよ」
完全に消えた青い制服姿に今度は指で鉄砲を撃つ真似をする。
「アンタは俺の目標」

目標…けれどもこれは恋。
もういいじゃん、どっちだって。

「どっちにしたって変わらないよ。俺がアンタを好きだってことは」




<あとがき>
改めて見返してみるとこのシリーズはタキガワの独壇場過ぎて殆ど
会話してません。お題の内容からして流石に次回以降は普段通りの
会話量になりそうですが。

目標の中にあった父を越えたいという部分、実はたくさんコンプレックスを
盛り込むつもりでした。ただ本筋から脱線しそうだったのであれだけで
留めましたが…。ご先祖が結構コンプレックスの塊だったのに対し、この子は
どこまでそういう感情を持っているんでしょうね。…別のところで書いて
みようかな…。

TVさまの君を想う5つのお題3より「けれどもこれは恋」をお借りしました。