とどかない






──届きそうで、届かない。
モニタを見ながら敵影を睨み付けるが、そんな行為に意味はない。冷静に考えながら
ただ視線を固定していただけである。ほんの数秒の間に出した答えは現在自分の
位置取りで一気に片を付けるのは無理だという結論。既に機雷・魚雷も自機に
搭載された数は少なく、残存する相手の数を思うともう少し温存しておきたいところだ。
ならば、残る攻撃手段は白兵攻撃。そう考えながら手はもう動いていた。
RBカトラスを振るいながら速度を上げていくと敵の旗艦からいくつもの小さな影が
飛び出てくる。無数のボムガードとRB2機だ。
「やっと…お出ましですよっと」
自然と笑いながら操縦桿を巧みに操る。敵RBからの魚雷をカトラスで叩き切ると
シールドへの出力を上げた。シールドの出力が全開へとなるその瞬間に通信が入る。
その声はやや焦ったような声だった。

「タキガワ!エネルギー残量!」
「え?」

シールドへの出力でエネルギー残量は残り僅か。自分の位置から夜明けの船まで
移動することを考えると既にギリギリだ。このままシールドへとエネルギーを
割いていれば行動不能になり…敵の的にもなる。更に水圧での圧壊もあり得る。
舌打ちをしてシールドへの出力を通常のものへと切り替えると夜明けの船に
補給のために戻るべく移動を始める。すれ違いざまに目の前を横切った白い機影。
地球から自分が運んできた希望号が剣鈴で邪魔なボムガードと機雷を
叩き切った。既に一旦帰投していたのか機雷をばらまきながら踊るように
…だけど着実に敵の攻撃をかわしていた。

夜明けの船に帰投し、補給が終わったと同時に飛行長のヤガミから通信が入る。
「水測が不審な音源をキャッチした。夜明けの船のすぐ近くだ」
「了解!…は?」
「アイツのことは気にすることもない。いつも通りだ」
そっけないヤガミの声に聞きたいことはそういう事じゃないと言おうとして
口をつぐんだ。確かにヤガミの言う通りだろうことはわかっている。

はいつも、そうなのだ──

夜明けの船から出撃すると目視できるほどの距離に敵影を確認する。
先程のヤガミの声を思い出しながら眉をしかめると魚雷の発射スイッチに
手をかけた。

つかめそうな届きそうな距離にいても、その距離は一向に近づかない。
それはパイロットとしての彼女も、私人としての彼女も同じだ。

パイロットとしての天性の勘も経験も全て彼女の方が上だ。そんな彼女は
自分に敵わないと言うが、こっちに言わせれば気の迷いだ。現に戦績を見れば
明らかである。彼女の言う才能とやらがあるのなら、戦績にそんなに差が
つくこともなかっただろう。

私人としての彼女は年上であることはもとより、精神的にも落ち着いて
いる。きっと自分のように考えても仕方ないことを延々と考えることも
ないだろう。時折見せる子供っぽさも普段の落ち着いた部分があるからこそだ。

何故、だろう。

パイロットとしてのも私人の女性である
時々すごく遠くに感じる。すぐ近くで見ているにも関わらずだ。
何故、そう思うのかわからない。掴めそうで掴めない。
「…わかるもんか」
ぽつりと呟きながら敵RBの白兵攻撃をかわすと、RBカトラスを振るった…。

パイロットのアンタは雲の上の存在。身近な奴にあんな戦い方をする奴
なんていない。ハリーだって、ドランジだって、死神の異名をとる
ヤガミだってあんな風には出来ない。航空学校の一生徒でしかない俺が
まだまだなんだって、そんなことくらいはわかってる。でも同級の奴等に
比べれば、ずっと早く実戦に身を置いているし、操縦に関しては自慢
できるレベルだって思えた。

だけど、アンタは理屈も何もかもを越えてる。希望号の前の持ち主のレコード
だっていつか塗り替えてしまうだろう。起動準備の操作が早いからって
何だって言うんだよ。それだけじゃ駄目だろ。…それだけじゃ駄目なんだよ。

俺はアンタに認めてもらいたいんだ。パイロットのアンタと私人のアンタに。
肩を並べるパイロットだって、隣を歩いてもおかしくない男だってね。

…今はとどかないよ、アンタは遠い。
だけど、俺は立ち止まらない。ずっと前をアンタよりも先を見てやる。
いつも前を見て、走るよ。
見ててよ、あっという間にアンタを追い越してやる。

俺を見ずにはいられない、そんな風にしてやるよ。
子ども扱いなんてさせてやるもんか。
今だけだよ、そんな余裕。だから、覚悟してて。

俺はとどかないものにも手を伸ばす。
努力を諦めたら終わりだって、知ってるから。

「ご苦労、旗艦の制圧に成功した。残存敵勢力全て制圧済みだ」
飛行長のヤガミからの事務的な声が聞こえてくるが、意識の外にあった。
「タキガワ、お疲れー!」
からの通信に晴れ晴れとした笑顔で頷いてモニタを見た…。




<あとがき>
大抵どのお話でもそうですが、パイロットとしても私人としても
認められたがってますね、ウチのタキガワって。不安になる気持ちが
多分そうさせるのでしょうけど、何かちょっとワンパターンになって
きた気がします。

TVさまの君を想う5つのお題3より「とどかない」をお借りしました。