息が、つまるほど
気がついたら何かが違っていた。 出逢った時と何も変わっていない筈なのに何かが違う。 向こうが変わったんじゃなくて、多分変わったのは自分自身。 何が原因かわからなくて、ただ『気楽』ではなくなった事しか自分にはわからない。 彼女と出逢った頃はこんな風ではなかった。気楽に話せて、一緒にいると居心地が 良かった。なのに最近は一緒にいると妙に緊張したり、つまらない事が気になったり して落ち着かない。 自分の中の変化についていけなくて、ただ彼女との接触を避けようと試みたりもした。 もっとも、その試みは同じ艦の中でパイロットとして登録されている以上、全く 無意味だ。訓練すれば向かいのRBに相手は居るし、自分が休憩時間の時は相手も 休憩時間。部屋にでも篭もればいいのだろうが、それこそ息が詰まるので艦内を 歩き回る。いくら大型の艦とはいえ、行動範囲は限られており、結局そこかしこで 彼女を見かけることになる。 気がつくとため息をついてしまっている自分に更にため息をつく。原因不明の もやもや…何だか息が詰まりそうで全く快適ではない。そんな日が続くと自然に 精神状態も悪くなってくる。苛々の解消とばかりに訓練に励んでは体力を消耗させ、 疲労という薬で眠りにつく。今の自分にもっとも必要なのは何も考えない時間。 夢を見ることもなく眠れるようにと以前よりものめり込むように訓練に取り組んだ。 「ねぇ、大丈夫?」 訓練を終え、RBの前に降り立つと心配そうにが声をかけてくる。 本当は平気ではないのだが、自分が変に彼女を避ければ誤解を招いてしまう。 苦笑いしながら適当に誤魔化そうとすると眉を顰められてしまった。多分 バレてしまったのは体力を消耗していることで精神状態のことまではわかって いないだろう。 「そうやって誤魔化したって駄目だからね」 「いや、疲れてることは疲れてるんだけどさ…うん、まぁ、休めば大丈夫だよ」 疑ってかかる彼女の視線に曖昧に笑うと突然手を引っ張られる。 「ちょ、ちょっと、!?」 「笑ったって駄目。このまま訓練なんかしてたら、倒れるわよ」 怒ったように歩く彼女に引っ張られてハンガーを出る。多分、医務室へと連れて行く つもりなんだろう。 「いいよ、俺、大丈夫だから」 大丈夫でないのは自分でも分かっている。だけど、この状況は駄目だ。 …だって、息が、つまるんだ。 何をしていいのか…何て言えばいいのか、わからない。 が掴んでいる、手が熱くて、心臓が五月蝿いくらいドキドキしてる。 これじゃ、本当に熱が出そうだ。 「タキガワ、最近変だよ」 疑うような眼差しでこちらをじっと見つめている。流石にも自分が おかしいことには気付いていたらしい。 「前はもっと普通に話せてたのに、最近は何か避けられてる感じがするのよ。…私、 タキガワに何かした?」 「…何もないよ」 自分でもわからない事を話せる訳がないじゃないか。 分かってるのはが原因なんだって事だけ。何でこんなに息がつまりそうなのか 俺の方こそ教えてもらいたいよ。 沈黙が流れ、が大袈裟にため息をつく。掴んでいた手を放すと、ただ 階段の上を指して医務室には行くのよと言い残してハンガーへ戻って行く。後ろ姿を 見送った後、こっそりため息をつくと、のろのろ階段を上りだす。 「…何なんだよ、一体」 苛立ったように呟くと再びため息をつく。 何でと居ると息がつまるのか、わからない。 だって変じゃないか。少し前までは寧ろ一緒にいた方が落ち着いてたのに。 どうして、急に緊張するようになったんだか…。 自分のここ最近を思い出しながらエレベーターホールへと足を踏み入れる。重い体を 引きずるように歩きながらエレベーターに乗り込み大きく息を吐き出した。 すぐに分かるようなら、こんなに悩まないよな…。 …ったく、自分の事だっていうのにさ。 D3フロアにつくと、一応医務室へと歩き出す。の言葉を無視すれば すぐにバレて怒られるのはわかっているし、疲れているのも本当だから恵に言って 休ませてもらおうと思っている。 寝てる間にでも解決しちゃえば、いいんだけどな…。 …まぁ、そんな簡単に解決するわけないか。 「…糸口、見えかけてるんだけどな」 「はい?何か言いましたか?」 医務室にいた恵が振り返って不思議そうにこちらを見ている。頭の中で呟いて いた言葉を口にしていたと気付いて慌てて笑って誤魔化した。 「ごめん、ちょっと疲れててさ…休ませてもらっていい?」 何となく、なんだけど、もうすぐ峠を越える気がする。 そうしたら…多分もっと変わるんじゃないかな、今の状況から。 <あとがき> 自分の気持ちに気付くまでの間、何故か気まずくて避けている…絢爛プレイ中に 仲よくなってきたのにあんまり話しかけてこない時期はそういう事かも しれませんよね。…というかそうだといいなぁ(苦笑) TVさまの君を想う5つのお題3より「息が、つまるほど」をお借りしました。 |