綺麗な言葉
戦闘が終了し、ハンガーデッキへ降り立つと目の前の希望号からもが 降りてくる。その表情は何処か不機嫌であからさまにいつもと雰囲気が違っていた。 いつもの彼女であれば戦闘終了後は悲しげで、更に疲れているような表情をしている。 声をかけようかと口を開きかけると、彼女の瞳がかつてない程、強く見開かれた。 こちらに気付いた訳でなくハンガーデッキの入口に現れた人物を見ての事である。 「…ヤガミ、あなた本気で言ってるの?」 「本気でなければ何だというんだ」 の声は普段のものと違っており、何処までも静かで落ち着いた声だった。 それはきっと最小限までに怒りを殺した結果の声だ。 「綺麗事を言うのは簡単だろう」 「試してもいない内から諦めるのね」 会話の内容がみえてこないが、2人の意見が食い違っている事は分かる。そして どうやらそれは戦闘終了後の通信中から続いているという事も。 「成功の確率が低いものを試すか…。それこそギャンブルだな」 「確率で全てが決まるの?違うでしょう」 2人の間に流れる空気は重く冷たい。ハンガーデッキの入口で言い合っているので ここから出て行きたくともそれは叶いそうになく、堪りかねて彼女の方へ歩み寄ると こちらに気付いて表情が変わる。 「タキガワ、お腹空いてない?私お腹空いちゃった。ご飯食べに行こうよ」 「…いいけど」 ちらりとヤガミの方を見るが、何も言わずに整備パネルをチェックしていた。 の方はいつものように笑顔を見せると既に歩き始めている。2人の様子を 見比べながらも慌てて追いかけ、ハンガー連絡通路でようやく彼女に追いつく。 「ごめんね、あんな所で喧嘩しちゃって」 「…いや、別にいいけどさ。…どうしたんだよ、急に」 「…うん…ちょっとね…」 声が沈むとともに表情に影が落ちた。立ち止まり振り返ったは 少し悲しげに笑う。ちくっと痛む胸を片手で押さえながら階段を一段だけ登ると 彼女をそっと抱き寄せた。ほぼ無意識の行動に自分自身で驚きながらも少しだけ 腕に力を込める。 「…何があったのか知らないけど、気にすんな。アンタはアンタの道を行けばいい。 綺麗事だとか関係ない。決めたらそれに向かって進むのがだ。いいか、誰に 何を言われても曲げるな。…大丈夫、少なくとも俺はずっとの味方だ。 が何を言ったって、俺は信じて付いて行くよ」 返事の代わりにの手が背中にまわされ、腕の中で頷く。 「俺はさ…何があっても突き進むアンタだから…好きなんだよ」 顔を上げたがいつものように微笑んで見せると笑って頷き返す。 「んじゃ、食堂行くか」 「うん」 綺麗な言葉は確かに並べるのは簡単だ。 だけど、白鳥が水面下で必死に水をかくように、その言葉の裏は決して綺麗じゃない。 綺麗な言葉の裏に何があるか、考えれば簡単だ。 だからは敢えて言葉を選んだ。 自らが裏で見難く抗う事を前提として綺麗な言葉を並べる。 ヤガミはそれに気付いていない訳がない。 恐らくを心配しての言葉だと分かる。 そしてそれは彼女自身も分かっているだろう。 の選択は誰にも邪魔できない。いや、させない。 彼女がその道を選ぶのならば、それを助けられるように自分は動くだけだ。 が綺麗な言葉を並べるのならば、共に裏で足掻けばいい。 信じるというのはそういう事だと、自分は思う。 <あとがき> 綺麗事というのはやはり実力が伴っているからこそ、言える訳で そうでない人が言う物ではないと思います。(真剣に) タキガワはやっぱり友誼からも恋慕からも協力してくれると思いますが、 ヤガミはやっぱり冷静に考えた上で、裏でPC達が成功するようにサポート するのが似合いますよね。 |