瞳を閉じて
「なぁ、見なかった?」 下甲板前方通路を走っていたタキガワはヤガミとアキを見つけると慌てた 様子でそう言った。アキは首をふり、ヤガミもまた見ていないと簡潔に答える。 2人の反応にため息をつくと再び通路を走り出し、クルーに出会う度同じ言葉を 繰り返していた。 「タキガワの奴、何をそんなに必死になってるんだ?」 「さあな…」 そう2人が話ながらカフェに入ると丁度MAKIのアナウンスが流れた。日付が 変わったのかと思いながらコーヒーを手にすると、続いて流れたアナウンスで 先程のタキガワの焦っていた理由の謎があっさりと解けた。…と言っても ヤガミはさほど気にしていなかったし、アキも深入りして世話を焼く気もない。 もっと言ってしまえば、あの2人の間に入ろうものならそれこそ馬に蹴られて 死んでしまう。いや、馬に蹴られずともなりタキガワに蹴られそうである。 「…誕生日ね…。お前はに何かやるのか?」 「まさか。どうして俺がそんな事をしなければならないんだ?」 「いや、お前だって仲は良いだろう」 「…仲が良い?少なくとも俺はそんな風には思っていないし、にそんな事 言ってみろ。嫌な顔するぞ、間違いなく」 「…あー、否定は出来ないな」 「それにはアイツが居ればそれで十分だろうさ」 カフェでそんな会話が繰り広げられているとは知らずに、タキガワは未だに艦内を 走り回っていた。かれこれ休息時間になってから2時間は経っている。入れ違いに 部屋に戻っているだろうかと彼女の部屋に行ってみたが、戻った形跡はない。 トレーニングルームも書庫にも予備BALLS室にだって気配はなかった。どうしたら 限られた空間で姿を消せるのかと不思議で仕方ない。 「…どこ行ったんだよ…」 ポケットに忍ばせた小さな箱に視線を落とす。小さな箱の中には綺麗な石のついた ネックレスが入っている。先日の都市船でマイトとイイコにつき合ってもらって 買った物だった。自分1人ではきっと何を買っていいのかわからなくなるからと 2人に付いてきて貰ったのである。その甲斐があって、シンプルながらも綺麗で 可愛いものが買えたと自分でも思っていた。なのに肝心の渡す相手がいなければ 折角のプレゼントも意味がない。 がしゃがしゃという機械音に振り返るとそこには何もない。視線を徐々に下ろすと グランパがじっとこちらを見ている所だった。 「… が見つからないのかね?」 「うん、全然」 一気に疲れが押し寄せてきて、ついため息を吐き出してしまう。 「全く、 を尊敬しちゃうよ。どうやったらこんな風に忽然と姿を消せるんだか」 「別に姿は消していないと思うが…本当に隅々まで探したのかね?」 「探したよ。全部のフロアをね。俺、走りっぱなしで疲れてきた…。あーあ、一度 寝てから改めて探した方がいいかな…」 「ふむ、寝るのはどうかと思うが、自分の部屋に戻るのは良い案だ。一度全てを リセットしてみるといい。そうすれば、きっと を見つけられるだろう」 「?」 再びがしゃがしゃという機械音をまき散らしながら、グランパが歩いて行く。 当直勤務に就いているグランパの後ろ姿を見送ると欠伸を噛み殺し、自分の 部屋へと入った。ポケットから小さな箱を取り出すと机にそっと置き、 ベットへと体の向きを変えた時だった。 「…はぁ!?」 ベットには何故か先客がいる。驚いて部屋を飛び出すが、やはりこの部屋は 間違いなく自分の部屋だ。恐る恐る部屋に入り、ベットの傍に行く。自分の ベットには何故か安らかに眠っている がそこに居た。 「…何で、俺の部屋で寝てるんだよ…」 力が抜けて床に座り込むと寝顔を覗き込む。疲れているのか、傍で呟いているのに 何の反応も返ってこない。 「…アンタの部屋、隣なんだけど」 ベットの端に手と顎を乗せると、彼女のおでこにかかる前髪を手で梳く。 さらさらと指をすり抜けて落ちる。その感覚が気持ちよくて何度も繰り返しながら、 じっと寝顔を見つめた。長い睫毛と桜色の頬に見惚れながら、静かに笑う。 「 …起きてよ」 「…」 前髪を触るのがくすぐったいのか、丸くなっていく彼女に肩を揺らしながら、声を 殺し笑う。立ち上がって机から小箱を手にすると再びベットへと戻り、今度は 腰掛けるともう一度彼女を呼んだ。 「 、起きて」 「…」 彼女の枕元に小箱を置くと肩を優しく揺らし、顔を近づけると耳元で名前を呼ぶ。 流石に身じろぎをする彼女にもう一息かと肩をすくめた。 「…全く、もっと危機感持って欲しいよな。無防備過ぎだって、いつも言ってるのに 警戒も何も全然ありゃしない。…ほら、俺にまだ余裕がある内に起きてよ。 じゃないと知らないからな。…って起きてるんだろ、 」 「…起きてないよ?」 瞳を閉じたまま笑う に吹き出すとおでこを人さし指ではじく。 「ばーか、起きてないなんて言う奴が寝てる訳ないだろ」 「もう…普通、女の子にデコピンなんかしないわよ」 「普通の女は人の部屋で勝手に寝たりしないよ」 そんな言葉に少しだけ口を尖らせると桜色の頬のまま、彼女が笑う。 「…だって、ここなら絶対タキガワに逢えるだろうと思って、待ち伏せ してたんじゃない」 「で?何で待ってる筈が寝てるわけ?」 笑って誤魔化そうとする に仕方ないと笑って何度か頷くと、彼女の表情が 明るくなる。そして体を起こした所で指先に触れた小さい箱に気付く。それを 手に取ると桜色だった頬は薔薇色へと更に色を変えた。 「ね、ね、これ、タキガワから?」 「わざわざ俺の部屋に他の奴からのプレゼントなんて置かないよ。 …もし俺に無断で置いてあったとしたら、速攻で部屋の外に放り出すね。 んで、なかったことにする」 「ふふ、酷いなぁ」 「当たり前じゃん。アンタの部屋ならともかく、わざわざ俺の部屋に置く方が 悪いんだよ。…まぁ、そんな馬鹿な奴なんていないだろうけどさ」 改めて彼女の手から小箱をつまみ上げた後、手のひらにそっと置く。 「ハッピーバースディ、 」 真正面から見つめると、笑って顔を近づける。薔薇色に染まった頬にキスをすると もう一度おめでとうと言う。 「ありがと」 「ん、そうだ。開けてみてよ。多分、気に入ってもらえると思うんだけどさ。 やっぱり実際に見てもらわないとわかんないし」 「あら、タキガワがくれる物なら何でも嬉しいよ?」 「…ってその合図、何」 唇に人さし指を軽く当てて、何かをせがんでいる。もちろん意味はわかるのだが、 そんな風にせがまれるとやりにくい。 「うん、だから、もっと欲しいなーって」 「…そういう風にされるとやりにくいんだけど…ほら、目、瞑っててよ」 彼女に負けないくらい頬を染めながら、大きく息を吐き出すと優しく微笑んだ後、 顔を近づけた…。 <あとがき> どうしても今の私はラブラブモードで書いてしまうようです。何なんだ。 この手慣れたタキガワは(笑)いいんだ、いただきますなタキガワならいつか これくらいするでしょう。うん、そうに違いない。 しかし、一度で良いから、ゲーム内で誕生日プレゼントを貰いたいです。 今までくれたのってMPKくらいですよ…(泣) |