Love, needing






「お前、何やったんだ?」
カオリに突然そう言われたのは休息時間もあと一時間ぐらいで終わろうかという
時だった。食堂で遅い昼食をとっていたのだが食べるの中断して、カオリを
見上げる。
「何がだよ」
見上げたカオリは少し不機嫌そうに顔を顰めている。
が探してた。それもかなり焦ってな」
が?俺を?」
「とにかく、悠長にメシ食ってないでの所に行け」
「…何処に居るんだよ」
カオリの機嫌悪い時は素直に従わなければ鉄拳が待っているだけだ。こういう時は
すぐに従うに限る。それに何よりもが焦って自分を探しているという事も
気になった。ただ探しているだけならそこまで気にしなかっただろうが焦っている
という言葉がやけに引っ掛かった。頭に過るのは何故か悲しそうな
闇雲に自分を探す姿。
「自室に居ろって言ってある」
「わかった」
皿を縦にして残っていた料理を全て口にかき込むと席を立つ。向かう先は中甲板に
あるの自室だ。

中央階段を駆け上がって目的の部屋の前に立つと声をかける。中からの返事はない。
首を傾げながら小声で勝手に部屋に入ってごめんと呟くと彼女の部屋へと足を
踏み入れた。目の前に広がる視界に部屋の主の姿はない。おかしいともう一歩足を
進めると入口の階段の所で何かに引っ掛かった。慌てて下を見るとうずくまった
彼女がそこに居る。
「何やって…うわっ!ちょ、ちょっと!?」
声をかけた途端顔を上げたがしがみついてくる。バランスの崩れそうな
身体を何とか支えながら天井を見るとMAKIに向かってこの部屋だけ隔壁ロックを
してくれるよう頼む。

『では指示があるまで隔壁をロックします』

MAKIの言葉に胸を撫で下ろすと隔壁に体重を預ける。これで何とか
押し倒される可能性はなくなった。自分の不名誉、そして当然彼女の不名誉の
ためにも押し倒される訳にはいかない。ぎゅっと腰にしがみつく彼女を見ながら、
小さく深呼吸をするとそっと背中を撫でてやる。どうやら泣いているらしい彼女から
何故泣いているのかと理由を聞き出すには少し時間が必要なようだ。
どれくらいそのままで居たのか、時間を計るつもりもなかったが流石に勤務時間が
近づいている事は気にかけていた。それでも現在の航海状況からして突然の奇襲でも
ない限りはまだ余裕がある筈である。

「気ィ済んだ?」
ようやく泣きやんできたにそう声をかけると言葉もなくただ首を横に振った。
「なぁ、何があったんだよ。アンタらしくない」
普段の彼女は気丈で明るく周りを引っ張っていくような女性だ。だが、今の
彼女はどうだろう。自分に縋ってに泣いているだけだ。
、何があったか言ってくれないと俺も何もしてやれないよ」
そう言っても離れようとしないに少しだけため息をつく。
「何があったのか知らないけど、泣いてるだけで解決するモンなの?」
その言葉にようやく彼女が顔を上げた。未だに涙が頬をに伝っている。涙を拭って
やりながら自分にしがみついている腕をほどくと視線を合わせる為にしゃがんだ。
「解決しないよな。分かってる筈だ。アンタはいつもこの手でそれを解決
してきた筈だろ」
左手をとって静かに笑うと再び彼女は涙をその瞳にたたえる。
「ご先祖も、俺もそんなアンタだから付いて行くんだよ」
大きな瞳から流れた涙をもう一度拭うと握っていた手に唇を落とした。
「…タキガワ」
「ん?」
ようやく口を開いた彼女に静かに笑いかける。
「もう少し、こうしてちゃ駄目?」
「もうすぐ勤務時間だってわかってる?」
拗ねたように口を尖らせた彼女を笑うといいよ、と頷く。

正直、彼女がどうして泣いていたのか気にならない訳じゃない。
本当だったら、何で泣いていたのか問い詰めたいくらいだ。
でも話したくないのに無理やり聞くのも嫌だ。

だから、こうやって曖昧に慰める事しか出来ない。

きっと自分じゃ解決出来ない事なんだ、とは分かってる。
話しても無駄なんだと、自分の力では何も手助け出来ないんだと思うしかない。

彼女のような大きな力は、影響力はないから。

「…嫌」
「ん?」
ぽつりと呟いた彼女の言葉に首を傾げた。
「そんなの私は認めない」
?」
自分の腕の中で唇をきゅっと噛んだは何かを否定する。
身体を起こしたかと思うと自分の頬に手をあて、悲しそうに何処かを見ていた。
「……?」
呼びかけると悲しそうな表情のまま笑う。10cm、5cmと距離が近づいていき
唇と唇が触れた。自分の頬を包む、彼女の手は優しく温かい。
「理由、聞かないの?」
「聞いて欲しい?」
そう言うと静かに笑った はもういつもの彼女に戻っていた。
「どうかな…聞いて欲しくない気もする」
「じゃあ、いいよ。無理に聞いても仕方ないし」
「タキガワって時々、変」
「何だよ、変って」
くすりと笑う彼女はもう完全に何かから立ち直っているようだった。お互いに
いつもの距離に戻ると向き合ったまま軽く会話を続ける。
「時々、格好良くなるね」
「…嬉しいような、嬉しくないような…。俺、複雑なんだけど」
「一応褒めてるのに」
「一応が余計だよ、一応が」
先程までとはうってかわった様子に少しだけ胸を撫で下ろしつつ、MAKIに
向かって隔壁の解除を頼む。笑いながら通路へと歩き出すとタイミング良く
変わった勤務交代のアナウンスにエレベーターホールへと走り出した…。




<あとがき>
これだけ読んだら単なるいちゃいちゃじゃない、と思われるでしょう。
まぁ、それが書きたかったのも本音ですが、本当はプレイ日記中もあった
タキガワ戦死をリセット、ですね。あとはタイミング的に公式で小カトーの
生死についてちょっと発表があったものですから(2/4時点)
私の中ではこの子はご先祖と違ってちゃんと甘えさせてくれそうな感じ
なんですよね。オトコマエ、だと思いますよ小カトーは。
子供っぽいのも好きですけどね。