室田 日出男

この人は知らない間に大物になってしまった。それってこの人が髭を生やし出してからだと思うんだが。髭を生やしてみたらそれがこれ以上ないほど似合ってしまって、威厳のある役がハマってしまったのではないだろうか。

しかしこの人は東映のAプログラム、Bプログラムの両方で大活躍をしていた珍しい人である。これは当時の東映の俳優人の層の厚さから考えても尋常なことではない。それほどまでにこの人の演技力が優れていたことの証明であろう。

一般にこの人が川谷拓三等と結成した『ピラニア軍団』は川谷、室田が主要メンバーと考えられがちだが、俳優としての実力・キャリアなどどれをとってもこの人が軍団の中で頭一つ抜け出していた実力者だった。この人のキャリアの中でも特に『仁義なき戦い』シリーズの早川役と『0課の女・赤い手錠』の悪徳刑事役での名演は邦画史上に残るものであった。この両作品での役の共通点は、どちらもセコい下衆野郎の役だという事だ。しかもどちらも結構実力がある人物であり、物語のキャスティングボードを握る人物である。この人はこういった役をやらせると実に上手い。しかも周りの状況によって自分の立場が無理矢理決められてしまって酷い目に会ってしまうのだが、それが主人公の怒りをかって……という役を実にいやらしく演じるのだ。しかしそういった我々が押し付けるカテゴライズにとどまらず、『前略おふくろさま』での猪突猛進的演技や『柳生一族の陰謀』でのお家再興の野望に燃える根来衆のリーダー役など幅広い演技で確実にその実力を我々に知らしめてくれていた。

オレは最近のこの人の重厚な演技はかなり好きだ(かなり痩せ細ってきてしまっているが)。だけど何か物足りないような気がしてならない。それは何かと考えた時に、この人が本来持っていた表情の豊かさが無くなってしまった点ではないかと思えてならない。最近のこの人の演技はしかめっ面ばかりで、昔のようにコロコロと表情の変化する役はやっていないように思う。できれば野心家で実力を持っていながらもその実力が中途半端なために大組織に翻弄されながら主人公にブチ殺される役をまたやってくれないかなあ、と思ったりしています。もう歳だから無理だとは思うけど。