福本 清三

オレがこの人のことを意識して追い始めたのはいつの事だろう。皆さんの中でも東映京都製作の時代劇を観た事がある方なら一度はこの顔に出会っているはずだ。

オレの場合、物心がついた時からテレビにはいつもこの顔があった。悪代官が、悪徳商人が主人公に追い詰められて「先生!お願いします!」というと必ずこの顔が出てきたような気がする。この人の名は福本清三。オレも少し前までは名前は知らなかった。昔の資料だと「福本清二」と書かれているものもある。いわゆる東映大部屋俳優の人で、代表作は『仁義なき戦い/頂上作戦』、『柳生一族の陰謀』、『伊賀忍法帳』、『極道の妻たち』あたりになるだろうか。日本映画(特に少し昔のモノ)は最後に役名と俳優名が併記されてクレジットが流れるというのがほとんどないため、その存在を意識していてもこの人の名前は知らない人も多いだろう。とにかくそのガイコツのような風貌から悪役の中でもとにかく目立つ。小林稔侍や川谷拓三のように大騒ぎするような演技をしなくてもそこにいるだけで目立ってしまうのだ。だからかどうかは知らないが、演技はかなり控えめである。そこが災いしたのかそれほどの重要な役を演じている映画はない。しかし、主役を食ってしまうような大胆な演技で映画をブチ壊すようなことがないため脇役としては重宝がられているのか現在でも映画、ドラマなどのジャンルをとわず、かなりの作品に出演して斬られまくっている。

この人はどんな作品でも最後の敵ではない。台詞も一番下っ端のチンピラよりも少ないかもしれない。しかし、製作サイドがそれを狙っているのかは知らないが、その寡黙さがこの人の演じる役を「なんだか分からないが、デキる奴」として我々に認識させるのである。ただ、本人がその台詞の少なさをどう思っているのかは知らないが、『遠山の金さん』で最後の御白州のシーンで「金さんを出せ!金さんを!」という数少ない台詞をやたらと張り切って大声を出しているのを観ると、もっと喋りたいのかなあとも思ってしまう。

最近のいわゆる個性派脇役たちは、いるだけで「お!また出てるな」と自分が映画通になったように思わせてくれる役者ではない。少なくともこの人にはそういう風に感じる何かがある。それだけで十分価値のある俳優であることは間違い無い。ちなみに現在でも松平健の『暴れん坊将軍』シリーズにはレギュラー出演(斬られ役)していて、オレを楽しませてくれている。