弱い立場に与えた衝撃 ウィメンズネット・こうべ編「女たちが語る阪神大震災」他

 阪神大震災は、日本社会の格差の構造をあらわにしたとよく言われた。劣悪な木造住宅が密集する地域で、低所得の人々、特にお年寄りが多数亡くなった。
 しかし、それだけではなかった。犠牲者の約六割、七〇歳以上の高齢者に限れば三分の二以上が女性だった。彼女たちの多くは、低賃金の中で何とか自活し、あるいは夫を亡くして細々と生きる女性たちだった。つまり大震災は、性別による格差の構造をもあぶり出したのである。
 ウィメンズネット・こうべ編「女たちが語る阪神大震災」(木馬書館・一二〇〇円)は、多くの女性たちの手記とインタビューから、阪神大震災が女性たち、特に弱い立場の女性たちに与えた衝撃を余すところなく描き出している。
 真っ先にクビになったパート女性たち、震災を口実に解雇された女性社員、夫たちが会社にはせ参じたあと、すべての家庭責任を負わされた妻たち、そしてレイプと暴力。
 地震の被害が一段落ついても、女たちの受難は続く。夫の親族が押しかけてきて、世話を要求する。子どもが情緒不安定になると、母親のせいだと言われる。復興の過程でよく「家族愛」が強調されたが、実際にはその多くは、女性たちに一方的な献身を要求するものだった。マスコミの流した「美しい『家族幻想』からこぼれ落ちた女性たちの思いを拾い集めた」という本書の問いかけは、重い。
 篠塚英子著「女性と家族」(読売新聞社・二〇〇〇円)は、他の先進国に比べて地位が低く、経済的自立も遅れていると言われる日本の女性の状況を歴史的にあとづけたもの。女性の社会的地位には戦前と戦後の連続性が強いこと、その中で女性たちは一貫して、近代化を担う男性たちの背後で家族責任を負う影の功労者だったこと、が強調されている。著者は女性問題の研究者としてはいわば「穏健派」と言っていいだろう。その意味での物足りなさはあるが、男性諸氏にも抵抗なく読めるというメリットがある。

(1996.1月配信)

女性・家族

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