会社主義と家族を考える ニッセイ基礎研究所「日本の家族はどう変わったのか」他

 最近、「会社主義」とか「企業中心社会」といった言葉がしばしば使われる。簡単に言うと、企業が従業員を高度に統合し、企業への献身を強制するとともに、家族や地域社会までが企業に従属させられている社会のあり方を示すものである。
 問題の中心は企業だが、もうひとつの中心は家族である。家族はいつから、どのようにして、企業に従属するようになったのか。こうした家族のあり方に変化の兆しはないのか。専門的な研究はないわけではないが、このあたりを分かりやすく示してくれる一般向けの書物は少なかった。
 ニッセイ基礎研究所「日本の家族はどう変わったのか」(NHK出版・一五〇〇円)は、この現代的な問題を扱った好企画。この企業研究所の若手四人が執筆している。 戦後の日本では、学校を出て企業に就職し、その後で結婚するのが標準的なライフコースになった。このため職場関係で結婚相手と知り合い、職場関係者中心の結婚式を開くカップルが増えた。
 その先にあるのは企業中心社会に適応した家族生活である。男性中心の年功制の下では、夫が仕事中心に生きることが家族を支え、生活を安定させる最善の方法である。反面、妻は家事・育児に専念することが求められる。企業中心社会を支えたのは、こうした性役割分業家族であった。
 しかし、雇用システムは変化し始めている。働き続けることを望む女性も増えた。加えて情報機器の発達が、家族の新しい関係を可能にするとともに、性役割分業の必要も小さくしてきた。これから望まれるのは自立する個人の集合体としての家族ではないか、著者たちはこう提言する。
 吉武輝子編「日本の家族を考える」(ミネルヴァ書房・一八〇〇円)は、編者が福島瑞穂・残間里江子・宮子あづさという元気印女性三人と、日本の家族と女性について対談したもの。対談相手の顔ぶれなどなかなかの好企画だと思うのだが、余りに教科書然とした装丁が惜しまれる。

(1994.10月配信)

女性・家族

書評ホームページ