男の側から「男」問う 梶谷雄二「男と女 すれ違う幻想」他

 最近まで、少なくとも文科系の学問の大部分は、「男の、男による、男のための学問」と言っても言い過ぎではなかった。研究対象は政治や経済など男の支配する領域が中心だったし、研究者もほとんどが男。その結果、男の支配を前提とし、また正当化するような研究が多かった。
 これに異議を唱えたのがフェミニストたちであり、彼女たちの努力から生まれたのが「女性学」である。女性学は、女性差別の実態や原因を明らかにするとともに、女性の視点からこれまでの学問を、そして社会を問い直していった。
 ところがこうなると、男たちも今まで通りではいられなくなってくる。差別される側ではないとしても、「女」という枠にはめられた女たちと同様、男たちも「男」という枠にはめられた存在であることに変わりはないからだ。
 梶谷雄二著「男と女 すれ違う幻想」(三元社・一八〇〇円)は、男の側から「男」を問い直す刺激的なエッセイ。著者は、男性心理の研究で知られるヴィークの著書の翻訳者でもあり、彼の議論を紹介しながら現代日本における男のあり方、そして男女の関係を解き明かしていく。
 著者によると男たちは、男らしさの理想に縛られて自分の感性や感情を抑圧し、他者と心から関わることができなくなっている。しかも、人間としての生存を支えるこまごました部分は女性に依存するばかり。この意味で男は、非人間的で不安定な存在なのだ。
 ところが近年、女たちは「女」の枠から解放され始めた。そうなると「女」に依存してきた男の側も変わらざるをえない。男たちも「男」という鎧を捨て、枠に縛られない一人の人間として生きていくべきだ、と著者はいう。
 「恋をしまくれ」(徳間書店・一二〇〇円)は、女性学をお茶の間に広めた功労者、田嶋陽子センセイの恋愛論。その華々しい恋愛遍歴もさることながら、あくまで自分に忠実に、愛し合いながらも妥協せずに生きるその姿は壮快。田嶋ファン必読の一冊である。

(1994.8月配信)

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