揺れ動く看護婦たち 永井明「看護婦ヒロタの場合」他

 最近、看護婦さんたちが注目されている。人手不足が表面化したことや、看護婦を主人公にしたテレビドラマが評判になったことなどもあるが、やはりこれは時代の流れというものだろう。
 医療の中核ともいうべき診断と治療は、基本的に医師の役割である。ところが現代の医療では、それ以外の部分が大きくなってくる。
 末期ガン患者や高齢者などを考えてみればいい。医療に求められるのは、治療というよりは身体面・精神面での援助や世話、英語でいえばケア、要するに看護である。看護婦の役割は、ますます大きくなるはずだ。
 永井明著「看護婦ヒロタの場合」(平凡社・一四〇〇円)は、そんな看護婦たちの実像を描いたノンフィクション・ノベル。登場するのは十人ほどの看護婦と少数の医師、そして患者たち。やや男性の視点に偏った印象を受ける部分もあるが、医療現場を熟知した著者だけに描写はとてもリアルで、医療現場に立ち会ったような気にさせる。
 著者が登場人物たちの口を通じて繰り返し問いかけるのは「看護とは、看護婦とは何か」である。医師の補助者、病院の雑用係としての役割と、看護の専門職としての役割。看護婦たちは両者の間で揺れ動き、アイデンティティーの拡散に悩んでいる。
 しかし著者は、そんな彼女たちに今後の医療の可能性を見い出している。現代医学にどっぷり浸かり、「科学的」であることにがんじがらめになった医師ではなく、看護婦たちこそが医療の閉塞状況を打ち破ってくれるのではないか。そう著者は問いかける。
 宮子あずさ著「看護婦泣き笑いの話」(講談社・一三〇〇円)は、大学中退の後に看護学校を卒業し、物書きと看護婦の二足のわらじを履く著者が、看護婦たちの日常をありのままに描きながら、あなたも看護婦になりませんか、と語りかける。「看護婦」という言葉につきまとう変な思い入れを吹き飛ばす、楽しい本である。

(1994.6月配信)

女性・家族

書評ホームページ