女性を支配する「美の神話」 ナオミ・ウルフ「美の陰謀」他

 ベティ・フリーダンの「女らしさの神話」が出版されたのは一九六三年のことだった。幸せそうに見える主婦たちの心に潜む虚脱感、「夫や子どもや家のほかに、私はもっと何かが欲しい」という心の叫びを描いたこの本は多くの女性の共感を呼び、女性解放運動に大きな影響を与えた。
 それから三〇年、女性たちの状況は大きく改善され、多くの女性が社会進出を果たした。ところが今でも女性たちは、思うように自由を楽しんでいるとはいえない。なぜか。
 ナオミ・ウルフ著「美の陰謀」(TBSブリタニカ・二〇〇〇円)によると、それは「女らしさの神話」に代わって、「美の神話」が女性たちを支配し始めたからである。「美の神話」は女性たちに、女は美しくなければならないし、美しさによって判断されるのが当然だと呼びかける。その効果は絶大である。
 この神話は女性たちを互いに競わせ、連帯感を希薄にしてしまう。女性たちは慢性的な自己嫌悪や不安にとらわれる。拒食症が激増し、美容外科には「患者」が殺到する。こうして女性たちは、男性社会に抵抗する力を奪われる。「美」は、女性を支配するための最強のイデオロギーだ、と著者はいう。日本でも事情は基本的に同じだろう。
 豊富なデータや実例を示しながらの記述には迫力がある。それだけに米国での女性差別の深刻さばかりが印象づけられ、例えば日本よりはるかに進んだセクシュアル・ハラスメント対策などが知られないままに終わるのが心配になった。もともと米国人向けの本なのだから、訳者解説の形での説明が欲しかったところである。また原題名の「美の神話」を表題のように意訳した意図は分かるが、これから長く読まれていくはずの本だけに疑問も残った。
 蔦森樹著「21世紀恋愛読本」(学陽書房・一四〇〇円)は、恋愛相談に答える形で、男女の枠を超えた新しい性のあり方を説く。女装者である著者の、中性的やや女性寄りの語り口が魅力である。

(1994.4月配信)

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