素直に語る韓国体験 松尾孝雄「韓国女学生人間学」他

 ソウル五輪当時のようなブームは去ったものの、相変わらず韓国への関心は高い。韓国に関する本の出版も盛んである。今回はその中から、実際に韓国に住んだ体験録を二つ取り上げよう。
 一冊目は、松尾孝雄著「韓国女学生人間学」(亜紀書房・一七〇〇円)。著者は、釜山で一番美人が多いと評判の専門大学(日本の短期大学にあたる)に勤務する日本語教師である。
 着任した頃から「松尾先生」は、純真で暖かい女学生たちの姿に感激することばかり。授業態度はきわめて熱心。写真を撮るときには親しげに腕を組んでくる。祖国に誇りをもち、日本製の教科書に差別的な表現を見つけて涙ぐむ。先生はそんな女学生たちが可愛くて仕方がない。
 韓国は男性優位の社会である。企業は女性をマスコットとしか考えない。就職には「容姿端麗」が重要条件であり、女学生たちもそれに格別の疑問をもたない。結婚退職は当然であり、丈夫で頭の良い男の子を生むことが、女の務めだとされる。適齢期を過ぎれば「老処女」とさげすまれ、追いつめられて日本への留学を考える者もいるという。
 そんな女学生たちの将来に、「松尾先生」はひとり心を痛めている。文章はお世辞にも熟達とは言いかねるが、その素直さが何とも微笑ましい。
 姜信子著「私の越境レッスン・韓国編」(朝日新聞社・一四〇〇円)は、在日韓国人三世の著者が家族とともに初めて韓国に渡り、二年間を過ごした記録。最新の流行歌を縦糸に、同じ公務員住宅に住む人々の生活、そして色々な機会に知り合った少女たちとのふれあいを描いていく。
 韓国には、アジア各国の映画や音楽に関する情報が集まってくる。電波によってアジアは結ばれる。アジアのブロック化が進行しているのだ。しかし日本だけは、こうした交流から閉ざされている、と著者はいう。アジアの一部でありながら、厳として存在する距離感。「在日」の感性が、それを鮮やかに描き出す。

(1993.12月配信)

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