シングルは生活の典型 松原惇子「ひとり家族」他

 「家族」という言葉を聞いて私たちが思い浮べるのは、夫婦と子どものいる核家族、あるいはこれに祖父母の加わった三世代同居の家族だろう。
 しかし、こうした家族は今や、決して現代の日本人の生活のかたちを代表するものではない。非婚化の傾向は著しいし、若い頃や老後に一人暮らしを経験するのはごく普通のことだ。一人暮らしは人々の生活の、ひとつの典型的なかたちになったのである。
 松原惇子著「ひとり家族」(文藝春秋・一四〇〇円)は、シングルを通してきた人々を中心に、一人暮らしの人々を訪ね歩いた記録である。登場するのは、三〇才前後のキャリアウーマンから、八〇代の男女まで。それぞれが個性的に、自分の生活や思いを率直に語っている。
 彼女ら・彼らがきまって訴えるのは、日本の社会に根強い「ひとり者」に対する差別である。会社では昇進が難しい。アパートもなかなか貸りられない。近所ではありもしないうわさをたてられ、親は結婚しろとせき立てる。年を取ればさらに「老人差別」が加わり、住み家を確保するのは絶望的だ。
 「ひとりで暮らす。こんなあたり前のことが、この国ではとても難しい。」ところが彼女ら・彼ら自身、自分に後ろめたさを持っているから、なかなか声を上げようとしない。「もっと自分の生き方に自信を持って生きましょうよ。」著者はこう呼びかける。
 落合恵子著「愛、まさにその名のもとに」(岩波書店・一五〇〇円)は、手紙の形式を取ったエッセイ集。フェミニズムとは、性別や民族、年齢や生まれによって、人々が分断されたり等級づけられたりしない社会をめざすものだと、穏やかに語りかける。誰のものでもない、身体そのものからあふれ出る言葉で語られるフェミニズムは、すがすがしく心を動かす。
 この本、実は日教組の機関誌に一年間連載された文章をまとめたもの。お堅い岩波と日教組の組み合わせとは思えぬ、魅力的な本である。

(1993.11月配信)

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