女性文化人のしなやかな関係 尾形明子「『輝ク』の時代」他

 「輝ク」とは、昭和初期から太平洋戦争開戦のころまでほぼ一月に一回の割合で発行され、多くの女性たちに支持されたリーフレットである。
 発行者は文学者の長谷川時雨。内容は随筆、評論、短編小説、詩歌、近況報告など。執筆者は与謝野晶子、岡本かの子、宮本百合子、野上彌生子、平塚らいてう、高群逸枝、山川菊栄など、当時の文壇や言論界で活躍していた主要な女性たちをほぼ網羅している。女性文化人たちの一大サロンだったわけだ。
 尾形明子著「『輝ク』の時代」(ドメス出版・三〇九〇円)は、このリーフレットの成り立ちから終焉までを、時代状況や女性たちの生き方と重ね合わせながら追っていく。
 掲載された文章の紹介が中心だが、泊りがけでピクニックに出かけ、夜中まで大声でおしゃべりをしていたら「時雨先生」に安眠妨害だと叱られた、など、楽しいエピソードも多い。そこから感じ取れるのは、当時の女性文化人たちの、同志愛というほど堅苦しくはない、いわば「姉妹愛」とも言うべきしなやかな関係である。
 しかし彼女らも、時代の流れと無縁ではありえなかった。戦争の進行とともに、「輝ク」は「銃後運動」の担い手となっていく。かつては左翼運動に傾斜していた時雨は、迷うことなくその先頭で働きはじめる。非常時をも利用して女性の地位向上を果たそうとするうち、時代の巨大な渦に巻き込まれることになったのだ、と著者はいう。
 多田淳子他「女たちの本屋」(アルメディア・二二六六円)は、全国各地で本屋を営む女性たちの記録。著者としての女性、読者としての女性への注目はこれまでもあったが、出版物の供給者としての女性というのは珍しいテーマである。絵本の専門店、女性・家族問題の専門店など、ユニークな書店を営む女性たちの姿を見ていると、書店経営は案外、女性に適した職業なのではないかという気がしてきた。新しい出版文化の担い手たちに、声援を送りたい。

(1993.10月配信)

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