田中庸介の詩の仕事

Poetry Works by Yosuke Tanaka




みかん狩

みかん園の入口は
県道のトンネルを背にいただいて
吠えないから余計に恐ろしい、
くらい眼をした犬がつながれている。
丘の農園は家族経営で
男っぽい顔の娘さんのライトバンと
蛍光イエローのベストを着たお父さん
のマイクロバスが東海道線の駅前から
お客さんたちを運んでくる、

みかんは自由に食べてくださいねえ
つかんで回すともぎとれますから
それからほれ、お土産のみかんは
こちらで用意して
人数分だけ袋に入れときましょうか
皮ですか、
皮だったらそこいら辺、地面に投げておいて

うっそりと植えられているみかんの林、
その林をかきわけかきわけ入っていくと
枝がぴんと跳ねて顔をひっかく、
みかんの実(重い、)が頭にごんごん、
邪魔になる、通せんぼ、
うるさい、大入道、許せ、ゆるさない
ゆるさないんだから、あっ石垣。石垣の向こうにも
こっちにもみかんがある、落ちたらけがをする
崖とジャングルだ、緑のみかんの樹に
あきらかに、オレンジのみかんがごんごん実って
丘の斜面に散開して。散開して。

今の時期はワセですよね、
品種はえーと三種類、にぎわっています。
南向きの、ということは太平洋を一望する
丘の斜面
だんだんと高くなっていく急斜面に
石垣を組んで
栽培される。クリスマスツリーの星みたいに
オレンジ色のみかんの実が、遠目にもはっきりと
ちかちか光っている。

寝不足のときには頭がよく働かない、
同じ樹でも、陽の当たり方でずいぶん実の色に
差があるみたい。黄色いほど甘いのよ。緑色だとまだまだ
すっぱいよ。みかん太郎は枝の先端でよくよく熟し、
だいだい色に漲っていた。全身でみかんの樹に抱きつくように、
両腕で抱きしめるように強く引きよせ、
みかん太郎をもぎ取った。

皮と身との間にくっついているところがある、
そこに指をいれ、無理やりはがして
皮をむく。皮は
肥料になるから木の根方へ返そう。
すじを取ったり袋を剥いたりしないで、
二つ割りにして、そのまま口へ放り込め。
そして残りを放り込め。
ちかちかちかちか、
ぎゅぎゅっとみかん太郎をつかんで回すと
するどい香りが鼻をつき刺す。
ごっつい南風が吹いて葉がふれ合って、
バーベキューの煙が吹き上げている。
みかん猫が二つ、コンクリートの上でまるまる太って。
真鶴岬を遊覧船がまわる、
そして帰っていく。

海のように、海の波のように、
寄せてはまた返す
運命のみかん狩り。口にほおばって
も一つ余計に欲張って。あとになって
何といわれてもいい、
もうぎらぎらと心の底まで精油にまみれ、
黄金のみかん太郎とたわむれよう。

(「ミて」91号)




イベントのお知らせ

2025.7.22 東京文化会館小ホール「新作歌曲の会」野澤啓子作曲・田中庸介詩「六月・ロック」世界初演 こちら

2025.8.27 鞆の津ミュージアム 田中美子作「お弁当ふろく」についてギャラリー・トーク こちら



 

詩集

1.      山が見える日に、 [中原中也賞最終候補作] こちら

2.      スウィートな群青の夢 こちら

3.      モン・サン・ミシェルに行きたいな こちら

4.      ぴんくの砂袋 [37回詩歌文学館賞受賞] こちら こちら

5.      空気の日記 [共著] こちら

 

詩誌「妃」(主宰)

1989〜現在、26

バックナンバー こちら

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評論など

「わたしの茂吉ノート」連載 俳句誌「ににん」

Jung Journal Culture and Psyche誌 日本現代詩特集 [ゲストエディター] こちら

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2018.1 インド全国詩祭 招待朗読 [コルカタ市、New Town Mela] こちら

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出演など

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バイオサイエンス @ 東京大学

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訳してもらった詩 Works Translated into English

Poetry International Web こちら

These Things Here and Now こちら

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Tokyo Poetry Journal Vol. 4 こちら

Madness こちら

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The Best Asian Poetry 2021-22 こちら

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作曲してもらった詩

あなんじゅぱす こちら

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書いてもらった評論・記事

斉藤倫 ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集  こちら

横山裕一とのコラボ こちら

Poetry co-translation and an attentive cosmopolitanism こちら

Ariel Resnikoff interviews Yosuke Tanaka こちら

すぎなみ学倶楽部 こちら

暮しの手帖 こちら

 

受賞

1989年「ユリイカの新人」 吉増剛造氏選 こちら

2023年「第37回詩歌文学館賞」 伊藤比呂美氏・小池昌代氏・佐々木幹郎氏選 こちら

 


Yosuke Tanaka’s Poetry Works

田中庸介の詩の仕事

mailto:fd6y-tnk(atmark)asahi-net.or.jp

July 2025 更新