観劇日記
| 木曽義仲と三人の女・唄う絵草紙2000
2000年9月 東京・明治座 原作・吉川英治「新・平家物語より」 脚本・古田 求 演出・水谷幹夫 音楽・甲斐正人 琵琶・上原まり キャスト 木曽義仲・松平健 巴・杜けあき 山吹・岡まゆみ 冬姫・喜多嶋舞 伯父行家・遠藤太津朗 西浦七郎・篠塚勝 太夫坊覚明・大山克己 信松尼・藤間 紫 ショー演出・酒井澄夫 振付・藤間勘吉郎 音楽・寺田瀧雄 衣装・有村 淳 あらすじ 1幕 平清盛の死に乗じて各地の源氏が平家追討を目指す。中でも義仲は木曽で挙兵し破竹の勢いで都に迫っていた。そんな義仲の勢力に危機感を持った頼朝は義仲の嫡男・義高を養子に迎えたいと使者を立てる。それは人質同然だった。頼朝と義仲の間は頼朝と不仲の伯父行家を義仲が匿っていることもあって緊張をはらんでいた。御曹司を人質には出せぬと義仲や腹心達が話し合う中、義仲の妻・巴は義高には覚悟させていると我が子を伴う。義仲も頼朝も親に別れて強くなったのだと語る巴の姿に義仲も心を決めるが、2度と屈辱を受けぬ為にも戦に勝ち続けると決意する。 平家が火を放った都から比叡山に逃れた後白河院を上洛した義仲は訪ねる。公家達は義仲に伴われた巴の意外な美しさに感嘆する。しかし院に対面できると思っていた義仲は、宮廷のもったいぶった雰囲気に怒りを感じた。しかし老獪な後白河院は「朝日将軍」という実権のない肩書きを義仲に与える。政治に疎い義仲はそれを喜び後白河院に忠誠を誓うのだった。 陰で嘲られているとも知らず「朝日将軍」の名称に有頂天の義仲は関白元房の酒席で都一の美女と言われる元房の娘・冬姫を所望する。一計を案じた元房は侍女の山吹を身代わりに差し出すが、そうとは知らぬ義仲は感激する。山吹は義仲の素朴な男らしさにときめきを覚えるのだった。 乱暴狼藉を働く木曽軍のため都は荒れ果てていた。怪我や病の人々を助ける信松尼の庵を高価な薬を持って山吹が訪ねた時、折悪しく都を巡視中の義仲がやって来る。そこに山吹を見て義仲は冬姫というのが偽りであったことを知り激怒する。 山吹を引き連れ元房邸に乗り込む義仲。怒る義仲に対面した冬姫は自分の命を思うがままにと静に言うのだった。 2幕 冬姫を手に入れた義仲には姫といる時だけが心休まる時間だった。冬姫は義仲のあこがれる都そのものだった。そして妻の巴と顔を合わせることは人質に出した義高を思いさせ、義仲を苦しめていた。そんな義仲に冬姫も愛情を感じていた。 都の義仲は次第に周囲を敵に囲まれ始める。ある日、頼朝の密偵を捕らえてみると伯父行家の頼朝にあてた裏切りの密書を持っていた。頼朝と後白川院は手を結び義仲追討を画策していたのだ。密偵は義高を鎌倉へ誘った西浦七郎だった。巴は七郎に義高の鎌倉での様子を尋ね、頼朝の妻・北条政子への手紙を託して解き放した。 義仲の腹心達は行家の行状を義仲に暴き、義仲と巴の眼前で行家を惨殺する。初めて目の覚める思いの義仲だった。 上洛より半年、義経率いる頼朝軍は京に迫っている。そんな中でも冬姫の身を案じた義仲は姫の元に通っていた。義仲の家臣は冬姫が義仲をたぶらかし、巴御前の悲しみの元凶であると憎んでいた。木曽軍の命運を賭けた一戦を前にして、冬姫を殺そうとする。しかし冬姫の身代わりとなって死んだのは山吹だった。死の時になって義仲と冬姫は山吹の義仲への思いを初めて知らされる。 総崩れとなった木曽軍に義仲は死を決意する。そして巴に「女のお前は落ちのびよ」と告げる。戦とはいえ女は殺さぬ習い、巴は生きさせたいという義仲の思いだった。しかし共に死ぬ覚悟の巴は聞き入れなかった。「冬姫のこともじっと耐えた。共に戦うことが夫のためと思った。今更巴を女というなら、女として慈しんで欲しかった」という巴の血を吐くような言葉に、初めて巴の苦しみを知った義仲だった。しかし義仲は心を鬼にして「義仲は女と共に死んだと言われては恥だ」と去っていく。 残された巴を頼朝方の兵士が囲む。力の限りと戦う巴に西浦七郎は義高のためにも生きろと説得するのだった。 四天王と呼ばれた義仲の腹心達も次々命を落とし義仲もついに討たれる。義仲の夢は果たされなかった。そして、それが何故なのか、ついに義仲には理解できなかった。 ショー 祝歌 深川・大川端(芸者) 山寺の和尚さん 民謡メドレー 歌う松平健 オランダ万歳(太夫) 花の宝船 さくらボレロ(踊る女) フィナーレマツケンサンバ 感激日記 『木曽義仲と三人の女』 今回は自分でも「あらら…」と思うくらい泣いてしまった。頼朝に愛する我が子・義高を人質に差し出す気丈な母の姿に泣き、朝日将軍となった途端に有頂天で都の女にうつつを抜かす夫に心を痛める女としての姿に泣き。涙腺の超ゆるいセロリ(^_^;)。だが松平健さんの目指した「滅びの美学」までこの作品が昇華されたかと言えば「…?」だった。 松平健さんは世間的には「暴れん坊将軍」なわけだが、私はあの番組はほとんど見たことがない。私にとっては大河ドラマの人だった。だから健さんには堅く重い印象があった。生で見てみると今回の役柄の為もあってか抱いていたイメージよりも若さ、明るさのある役者さんだと感じた。義仲の甲冑姿は顔立ちの立派さもあってさすがによく似合うし、杜さんと二人並ぶと美しい一対の武者人形のようだった。 義仲は劇中では木曽育ちの純粋な男、優しい男だと語られる。そのように人物造形されていれば「滅びの美」まで到達できたのかも知れない。だが木曽軍の都での悪逆非道を掌握できず、後白河院には軽くあしらわれる。総大将としての器に疑問符がつく。何より許せんのは巴以外の女性・冬姫にうつつを抜かしてしまうこと(笑)。「巴を見ると義高を思い出すから巴から逃げてきた」と冬姫に語る場面があったが、そのやりきれない思いを義仲を愛するが故に衣を血に染めて生きる巴への愛情を込めて表現できたら義仲に対する印象も違っていただろう。義仲が「純粋な男」か「単純で勝手な男」なのか、評価の別れるところだと思った。 「二人の女」。義仲に愛される冬姫は喜多嶋舞さん。うならせていただいた(^_^;)。都一の美女、摂政関白家に育った都の貴族文化の象徴のような姫君。巴御前の女としての悲しみの元凶になる女性。でも、無理。和物芝居の動きが出来ない。声は綺麗だと思うが舞台の声が出来ていない。木曽の女・巴と拮抗するほどの都の姫を喜多嶋さんが作っていれば義仲の冬姫への思いも納得できて「勝手な男」という印象も違っていたかも知れない。その点は松平健さんにも気の毒。 冬姫の身代わりにされる侍女山吹の岡まゆみさん。義仲の純朴さにふれて惹かれる娘。仕える冬姫を見つめる眼も姉が妹を思うような優しさがある。見終わって喜多嶋さんと岡さんの役柄を入れ替えた方が良いんじゃないかと思った。岡さんも深窓の姫君のタイプではないと思うけど、身のこなしやセリフはキャリアが違う。 回りを固めた俳優さんでは敵でありながら巴の母心に感銘を受ける西浦七郎の篠塚勝さんの明るさ爽やかさが印象に残る。他のベテラン俳優さん達もさすがにきっちりとご自分の仕事をなさっていた。それだけに冬姫のキャスティングが残念。今更ながらキャスティングは大事だと思った。 杜さんの巴御前、見る前からはまり役と思っていたが、やはりぴったり(笑)。男役を経験した女優ならではの動きとセリフ、凛々しさと女性らしい艶やかさ、母としての思いが程良く自然で無理がない。絶妙なバランスで造形された女武者像。 最初が愛しい我が子を人質に出すという場面で「覚悟はさせています」と嫡子・義高を連れて出る。「昨夜は一晩抱いて寝て」という巴の言葉に一瞬、子どもの頃に母に抱かれた時の体温を思い出した。それですっと物語の中に入っていけた気がする。私は本来お涙頂戴の母子ものが余り好きではなく、ここで泣けと言うようなのは苦手。この作品もはっきり言ってここで泣けの作品なのに素直に泣けたのは、杜さんの演技が泣かせる方向を目指しつつ安易に流れずに踏ん張ってる感じ(笑)があったからだと思う。うまく説明できないが(^_^;)。 後白河院を義仲と共に訪れる場面では杜さんの持ち味である明るさ、可愛さ、ちょと剽軽なところがでていて、やんちゃな感じの楽しい場面。 いつもながら表情豊かに妻・母・女・そして武人である巴を表現していた。その中でも伯父の裏切りが部下によって暴かれる場面は巴御前から目が離せなかった。十二単におすべらかしという唯一女性らしい姿の巴がとても綺麗だが(この奥方がいて何で冬姫に目がいくかなぁ…笑)、ここで巴はずっと無言のまま男達のやりとりを聞いている。はじめは伯父の裏切りを知ってただ驚き、この伯父の身代わりとして人質に出した我が子を思い悲しむ。その悲しみはやがてそれ程までして命を助けた伯父への怒りに変わり、無惨に殺された伯父の死を当然の報いと突き放した目で見る。しかし、父のように慕った伯父に裏切られた義仲の心中の寂しさに思いが至り、義仲をいたわりのこもった目で気遣う。移り変わっていく表情だけで、その間の巴の心情がはっきりと表現されていた。 最後の義仲と巴の別れの場面。義経の軍が都に攻め上り木曽軍は総崩れとなり義仲は死を決意する。一緒に戦って死ぬつもりの巴に義仲は「女のお前は軍を離れて生き延びろ」と告げる。その時の巴の悲痛な叫び。「今ごろ巴を女だというなら女としての慈しみを欲しゅうございました」と血を吐くような巴の言葉に初めて義仲は妻の心中に気づく。母としての巴、女としての巴、共感をより強く持つ部分は人それぞれだと思う。セロリはこの場面ではもう涙ボロボロ(笑)。その別れの後の巴の立ち回りが女優らしからぬ本格的なもので大盛り上がり。ずっとやっててと思うくらい格好良かった。 正直に言えば、迷ったあげくの観劇だった。健さんの記念公演だし、正妻とはいえ「三人の女」の一人だし…。でも見逃したら後悔しただろう。家臣の信頼は義仲よりも巴に篤い。敵である頼朝方の武将までが巴に心酔している。勇猛な女武者として有名な巴御前の母としての慈愛や女としての苦悩にスポット当てたこの作品は巴には美味しい脚本(特に2幕)。健さんの記念公演なのに、ありがとうございますという感じ。 見終わってこれはやっぱり『義仲と巴』の物語だと思った。あとの二人の女がどうも存在感が薄い(冬姫は演技力で山吹は義仲との関係性で)。私が杜さんファンだからか? また歴史上の悲劇の英雄は「罪無くして死ぬ」ことで伝説を生むときいたことがある。その点、この作品の義仲には自業自得なところがあって、「滅びる姿」を「美」に昇華するのはむづかしいと思った。これも私が心情的に巴よりだからそう思うのかも。 今回も2・3度とても長い暗転があった。その間に流れていたテーマ曲はとても好きだったのだけれど…。 『唄う絵草紙2000』 見る前にかなりの方から派手なショーだから覚悟してみるようにとレクチャーを受けていた。根性すえて見させていただいた(笑)。幕開きから確かに「ド」のつく派手さだった。正月公演用だったそうで、めでたかった(爆)。健さんは宝塚ファンだそうで弁天様の娘役まであって、ご自分のショーを楽しんでる感じ。舞台装置や衣装の色使いなど、私の好みとしてはもっとシンプルなものが好きだ。杜さん出演でなかったら観劇しない舞台だが、こういう世界も有りかなと思った。 杜さんの場面はどれも本格的な作り。「深川」(歌も)は紫の着物の粋な芸者姿で、スラッとしている杜さんによく似合っていた。引き続いての「大川端」では青天・着流しの健さんと組む。粋な芸者が好きな男の前では可愛い女になっていて、この場面は健さんもスッキリとしてお似合いの二人。「ご両人!」と声もかかっていた。 「オランダ万歳」は阿国風の衣装でせり上がり。長崎の南蛮まつりを唄い踊る可愛い場面。 「さくらのボレロ」。黒字に金の縫い取りのお引きずりの着物で裾の部分がドレス風にアレンジしてある。ヘアスタイルはソバージュをポニーテールにして羽根の髪飾り。スピード感のあるキリッとした眼差しと舞。 フィナーレは「マツケンサンバ」で盛り上がった後(笑)ラインナップのみに参加という形。ブルーの総スパンの着物に黄色い帯。 杜さんがこれだけ踊っている姿は久しぶりだった。たぶん「飛天」の里見公演以来だと思う。指先まで神経が行き届いているし、姿勢・決めのポーズの美しさはやはり素晴らしかった。衣装も他の場面と同じ方が担当したと思えないくらい杜さんの場面は良かった(笑)。今回は宝塚のスタッフによるショーで、杜さんの日舞の実力や魅力を引き出してもらえていたと思う。歌が録音だったのは残念だが。今後また杜さんがショーつきの舞台に出ることがあるなら、ショーのスタッフは宝塚の方に限ると思った。 今回は芝居もショーも杜さんがとても大切に扱っていただいているのを感じた公演だった。 |