観劇日記

暴れん坊将軍 吉宗紀州に帰る
唄う絵草紙2001
                 2001年5月 大阪・新歌舞伎座

  脚本・池田政之  演出・田中林輔  
  キャスト  徳川吉宗・松平健 那智姫・杜けあき 大奥年寄滝川・浅利香津代 田之倉孫兵衛・遠藤太津朗
         雲水・川合伸旺 飯之木弾正・大山克己 嵐ゆめ丸・一色彩子 辰五郎・園田裕久 松平頼雄・佐         藤仁哉 紀州宗直・篠塚勝 渚の方・紫城いずみ おさい・鳩笛真希 おちよ・大沢さやか 他
  ショー演出・酒井澄夫  振付・藤間勘吉郎  音楽・寺田瀧雄  衣装・有村 淳      

 あらすじ
1幕
紀州藩主宗直の兄・頼雄と妹・那智姫はある事情から死んだことになって紀州山間の蟄居所で十年を過ごしていた。紀州藩の実権を握る家老・飯之木弾正の専横により領民は厳しい年貢の取り立てに苦しんでいた。農民達に頼られた頼雄は従兄弟の吉宗に累が及ぶことを恐れる那智姫の反対を押し切って上洛中の将軍・吉宗に直訴を考える。2人に心を寄せる家臣が得た弾正の不正の証拠を手に出発しようとするが、弾正一派に襲われ追われる身となる。

京・二条城。天皇ご即位十周年の祝いのため宮中に上がる吉宗の正装に孫兵衛・滝川は目を細める。吉宗が出立しようとしたその時、直訴状を持った頼雄が突然現れ、その頼雄を飯之木弾正の手の者が追う。将軍滞在中の二条城に易々と忍び込む者があったことに吉宗は衝撃を受ける。

頼雄と若侍に姿を変えた那智姫は祇園で落ち合うが、追手の一味に取り囲まれる。折良く通りがかったのは江戸火消しの一行と待ち合わせていた徳田新之助・世を忍ぶ吉宗だった。助けに入った吉宗だが、頼雄は一味に連れ去られる。吉宗を見て思わず「頼方様」と名を呼ぶ若侍に吉宗は忘れ得ぬ面影を見つけ驚く。10年前に死んだはずの従姉妹・那智姫だった。幼馴染みのお転婆な那智姫を吉宗は那智丸と呼び、末は嫁にと思い合った仲だった。紀州藩の危機を語る那智姫だったが、更に深い仔細のある様子。問いつめる吉宗に那智姫はうつむくばかりだった。

二条城では孫兵衛や滝川が直訴人が死んだ頼雄に似ていたという京都所司代・榊原の言葉にそんな訳が有ろうはずもないと笑いあっていた。頼方・那智兄妹は10年も前に亡くなっていた。那智姫さえ存命なら、吉宗の奥方探しに苦労のない2人だった。
そんな2人に吉宗は美しい姫を引き合わせる。那智姫だった。驚く孫兵衛と滝川に紀州の窮状を救うため吉宗自ら紀州に出向くことを告げる。

紀州まであと僅かとなった紀見峠。峠の茶店で江戸の火消しや旅芸人の一行と和やかな一時を過ごす吉宗と那智の姿があった。旅の間中、明るく振る舞う那智だったが、心に秘めたものがあることを吉宗は気づいていた。どんな秘密があるのかと問いただす吉宗に那智は語り始める。「藩主・宗直が家老の言いなりなのも私たちの所為なのです」と。そこへ弾正の一味が襲いかかる。吉宗は那智をかばって戦うが、一味の銃弾に撃たれ那智は谷に落ちてしまう。

2幕
紀州・和歌山城。藩主・宗直は兄妹の秘密を楯に家老・飯之木に藩政の実権を握られ、やりきれない思いを酒に逃れる日々だった。そんな宗直に飯之木と側室・渚の方は渚の方の生んだ次男千代松への家督相続を言い渡す。実は千代松は飯之木と渚の方の間に出来た子だった。

旅役者の嵐ゆめ丸は紀州の出で、那智姫とは見知った仲だった。和歌山城下で昔なじみの農民に出会ったゆめ丸は姿を消した頼雄・那智姉妹に見捨てられたと嘆く農民達に紀見峠で那智姫に出会ったことを告げる。

那智の蟄居所を配下の隼人と訪ねた吉宗は兄妹の「秘密」を知って衝撃を受ける。兄妹はご禁制のキリシタンだった。谷底には那智の姿はなく、まだ生きているのかと那智の行方を案ずる吉宗。そこに人の気配を感じ物陰に隠れると男が気を失った那智を運んで来て、去る。男は以前から兄妹の様子をうかがっていた雲水だった。目覚めた那智は蟄居所のマリア像に祈るのだった。「私はどんな試練に苛まれようとも、あの方に国主としての力をお与え下さい…」。吉宗は那智の祈る姿を黙って見続けるほかなかった。

嵐ゆめ丸はキリシタンだった。それに気づいた妹・小ゆめは一緒に一座に帰ろうと懇願する。しかし那智姫が帰ったという知らせに妹を振りきって集会所の洞窟にやってくる。小ゆめもキリシタンになる覚悟を決めて姉の後を追う。城下ではキリシタン狩りが始まり農民達は動揺するが洞窟で那智の下に祈りを捧げ、神の国への船出を夢見ていた。そこを弾正の一味が襲撃し那智を連れ去ろうとする。それを救ったのは元頼雄の守り役の雲水と吉宗だった。
吉宗に那智は初めて『秘密』を明かす。那智を救いたい吉宗。しかし天下の御法度と知りながら神に背くことは出来ないと言う那智に将軍である吉宗の苦悩は深まるばかりだった。

和歌山城を吉宗の命を受けた孫兵衛ひきいる幕府方が取り囲んだ。家老飯之木、側室渚の方が城門前で出迎え、事の仔細を糺す孫兵衛に頼雄を引き立て兄妹がキリシタンである秘密を明かす。兄妹の命と紀州藩を救うため藩主宗直は自らの隠居と命差し出す覚悟をする。その時、吉宗は自ら城に乗り込み飯之木の非道を暴くが、飯之木は吉宗を亡き者にしようと刃を向ける。吉宗は紀州藩の身中の虫飯之木弾正と渚の方を成敗する。

荒れ模様の浜辺に小舟で海に乗り出そうとする頼雄・那智兄妹の姿があった。『秘密』が露見した今、2人にはこの国に居場所はなく死を覚悟しての旅立ちだった。ともに行くというゆめ丸に那智は『あなたには人々を楽しませる神に与えられた使命がある』と告げる。
那智を捜し当てた吉宗は「自分が何のために生まれてきたのか考える」と言う那智に「俺と出会うダメではないのか」「信仰を捨てることは出来ぬのか」と問うが、那智は神に仕える使命を捨てることは出来い。人を幸せにするための法で愛する者を裁かねばならないことに苦悩する吉宗。吉宗の手で成敗してくれと言う那智だが吉宗に出来ることではなかった。那智は吉宗に国主の勤めを果たせと諭すのだった。「身分や国や信仰で人を秤にかけず皆が幸せに暮らせるよき国を造って下さいませ」
お互いに深く思い合いながらも結ばれ得ない運命に別れを決意する。吉宗は兄妹に国外追放を申し渡す。吉宗に出来るのは嵐の中を船出する2人を涙で見送ることだけだった。
小さくなっていく船を見守る吉宗。荒れ模様の空に明るさが甦ってくる。陽ざしを浴びながら吉宗は那智の言葉を思い出していた。将軍の使命を果たすために江戸に帰ろう。『将軍吉宗を照らす那智の光だ』
 
 ショー
祝歌  深川・大川端芸者  山寺の和尚さん  民謡メドレー  歌う松平健  オランダ万歳太夫
花の宝船  さくらボレロ踊る女)  フィナーレマツケンサンバ


 感激日記)
『暴れん坊将軍 吉宗紀州に帰る』
松平健さんと杜さん共演の前作『不死鳥よ波涛を越えて』のかりん党の観劇日記は作品的には辛口になった。ところがプロの演劇評はかなり好意的で、私としては非常に驚いてしまった。う〜ん、あの脚本はいまだに問題有りだと確信しているんですけど。でも娯楽作はあまり理詰めに考えちゃいけないのね、と言う教訓は得た。今回の作品については、「これぞ娯楽痛快時代劇!」の典型なのだから、お気楽に!と自分を戒めて見た。
見てる間中「これって良くできた作品?」と自問自答。シリーズの他の作品と比較できないので出来が良いのかよく分からなかったのが正直なところ。こういうタイプの作品を劇場で見たのは初めてだった。
ところが、2部のショーで健さんが民謡メドレーを歌っている最中に、上様と那智姫の哀切な別れの場面が不意に甦り涙が。セロリ、変です(笑)。

1幕は那智姫の「秘密」で話を引っぱり、この明朗そうな姫にどんな秘密があるのかと思わせ、2幕の謎解きで観客に上様と那智姫の悲恋を納得させたのは上手かったと思う。不信心者のセロリなので、自分なら上様に走っちゃいますが(笑)、心からの信仰を持った人の決意はああなんでしょう。悪家老と彼に通じた藩主の愛妾のお家乗っ取り話というよく有る設定ながら単なるお家騒動や悲恋物語に終わらず、重いテーマを伝えようとしているところは好感が持てた。杜さんを相手役に迎えることで、作品に重みを持たせてくれたのなら嬉しいこと。
芝居の構成としてメインの芝居があって黒い幕前で場つなぎという手法が続く。舞台の機構上しかたないのかも知れないが工夫が欲しいところ。江戸からついてきた火消しの一行が殆ど筋に絡まない。旅役者をもっと華やかに使う事も出来たと思う。舞台の奥行きが無さそうで城内など装置がべったりした印象がある。その中で洞窟の場面には奥行きを感じさせたし、那智がマリア像に祈り吉宗がそれを物陰から見ている場面は照明などで雰囲気のある場面になっていた。

脇の出演者の方々も今回はほぼ適材適所という感じがした。じいと乳母が上様をはさんでホンワカとした雰囲気を作って笑わせていたし、悪家老の大山さんは相変わらず悪い人だし(笑)、側室の紫城さんもニンにあっていた。川合さん、園田さんも役のおさまりが良かった。役者の一色さんはそれらしい身ごなし、妹役の女優さんが少しキンキンした感じで今一歩かな。
今回発見したのはしっかりした殺陣があるのは松平上様一人だけ、と言うこと。敵に囲まれたら側近はすっと退いて上様一人にする。格好いい殺陣はこの作品の健さんの最大の見せ場だけれど、側近もせめて一太刀あわせてから退けばいいのに。上様を敵の中に一人残したらあかんやろ〜と可笑しかった。杜さんも折角の少年剣士姿があったのにこれじゃステキな殺陣を見せて!とファンが望んでも無理みたい。那智丸なら剣の心得くらいありそう。でもキリシタンは剣を抜かないの?巴御前の殺陣再びと期待しただけに、これは本当に残念。剣を抜かないまでも斬り合う吉宗を見守る那智姫の振り(あれも一応振付有りでしょう?)はもう少し考えても良かったような。

『木曽義仲と三人の女』『不死鳥よ波涛を越えて』とこれで三作連続して松平健さんの主演舞台を見た(^^;)。『暴れん坊将軍』はテレビも見たこと無いし、好きなタイプの作品ではない。ところが今回観劇して、上様な健さんが意外にもセロリは一番好きだった。
木曽義仲は女性(杜さんファン)が共感できるキャラではなかった(巴に邪険だから)、平知盛は健さんのための脚本でない無理があった。それに引き替え吉宗公は良いヤツだし(笑)、長年演じていることでキャラクターに破綻がなく健さんの身に添っている。観客が「この人ってどういう人格?」と考える必要がない。健さん自身構えて演じること無く舞台上でも自然で余裕があった。松平健という俳優の魅力をやはり一番出せる演目なのだと思った。那智との別れの場面ではキリシタンである事から身を退こうとする那智に「(お前が生まれたのは)俺に出会うためだ!」と絶叫する健さんの芝居に驚いた(12日には絶叫ではなくなっていたが)。 初日から涙の熱演。こういう芝居をする人だったんだ。今回は上様の那智姫への愛が深くて好感度アップ(爆)。

那智姫の杜さん。『吉宗 紀州に帰る』副題は『那智姫七変化』(笑)。村娘風の姿から袴の少年剣士、ピンクの着物と打ち掛けの綺麗に成長したあんみつ姫(笑)、髪を高く結った武家娘、髪を後で束ねた小袖姿etc.姿形だけでも登場するたびに色々な杜さんを楽しめる。今回は花道側が美味しいと思い2度目のチケットを選んだ。美しく着飾った那智姫が私に向かって花道を歩いてくる(笑)。綺麗〜!!
だがこれまでの松平健さんとの共演がどれも杜さんにとっては美味し過ぎるほどの役だったのに比べると今回は少〜し物足りなさを感じた。「杜さんの殺陣も見たい〜!!」(笑) ところが休憩中の健さんファンの感想が耳に入た。「今回は健さんの出番が少ないね…」。えっ、そうなの…。それじゃあこれ以上もっと杜さんにハナを持たせて!なんて望むのは贅沢すぎる望みなんだろう。でも望んじゃうのが欲張りなファンの悲しい恐いところ(笑)。

吉宗の幼馴染みで末は嫁にと誓いあっていた那智姫。幼い頃は吉宗と共に真っ黒になって走り回っていた那智丸。お転婆な姫が美しく思慮深く成人した姿が自然だった。3度目の共演と言う事で舞台上での上様と那智姫の雰囲気が良い。娘らしい姿の中にきかん気な那智丸がチラチラのぞくところが可愛かった。前にも書いたが今回は上様の愛がとても深かった(笑)。これだけ愛して貰ったら、例え悲恋に終わる運命だと分かっていても幸せ。
七変化のどの姿もピタッとはまって綺麗だったし、女性としての身のこなしの美しさ、秘密を胸に抱きつつも明るく振る舞う風情とか、全身で吉宗にひかれながらながらの去り際、やっぱり良い。でもそういった女優としての外面的なことはもう既にクリアされていることなのは皆様ご承知の通り。
今回うれしかったのは杜さんに与えられた那智姫という役の生き方そのもの。共に船出するという女役者に対して『あなたには人々を楽しませる使命がある』と諭す。こんなセリフを杜さんに言わせるなんて心憎い脚本。杜さんこそがそういう『使命』を持った役者だもの。吉宗に対しても「どんな人も幸せに暮らせる世を作ることが上様の使命」だという。考えてみると今回の作品の芯になっている『人それぞれが生まれてきた使命』についてのセリフは全て杜さんが言ってる。脚本家がそういうメッセージを託したくなる女優。
吉宗が那智に「俺のために生まれたきたのだ」というのと同様に那智も吉宗に思いを寄せている。自分の秘密が吉宗を苦しめるであろう事を思う時、那智は吉宗のために祈る。自らを犠牲にすることをいとわない深い愛。しかし国禁のキリシタン信仰と吉宗への愛に悩みながらも自分の『使命』であるキリシタンとして生きる決意は揺るがない。吉宗の愛にすがって助かろうとしない潔さ。「俺を捨てるな」という吉宗を振りきって去る強さ。自分の存在が「将軍吉宗」にとって災いになる事への配慮もあってのことだが、自分の意志で生き方を選ぶ女性、好きだなぁ。
初日は上様の「俺のために生まれたのだ」というセリフで泣き、2度目の観劇では「身分や信条で区別することなく皆が幸せになれるよう」という那智の言葉に涙した。どんな舞台でも込められたメッセージに感動できる自分でこれからもいたいと今更ながら思った。

正直に言うとこの公演で杜さんが女優として「技術的に得るもの」があったのかは私には分からない。那智姫と言う役は杜さんの多彩な魅力を楽しませてくれた。でももう既に杜さんの手の内にある役柄だという気がする。そのあたりが初日を見終わった時に感じた微かな物足りなさかも知れない。この公演でも杜さんは本当に大切にして頂いたと思うけれど、まだ私たちの知らない新たな杜さんに出逢える作品を早く見たいと思った。ファンて本当に欲張りだ。


『唄う絵草紙2001』
明治座の時はかなりの覚悟をして見たショー。再演ともなれば目も慣れました。見ていて、こういうショーは大阪の客席の方が違和感無いなと思った(笑)。10数年ぶりの新歌舞伎座での観劇。大阪の劇場も梅コマ・松竹座と新しくなり中座が無くなり、昔ながらの芝居小屋の雰囲気が残ってるのはここくらいでしょう。花道がある形式は明治座や松竹座も同じだけれど、やはり新しい劇場には客席に緊張感がある(演目の違いもありますが)。客席のざっくばらんなノリの良さを感じた。健さんのフィナーレのご挨拶では客席から声がかかるし。舞台と客席の会話のキャッチボール(笑)。古い劇場ですが客席は改装されたそうで(健さん談)、千鳥配置なので見やすかった。

杜さんの場面はたぶん大きな変更はないのでは? セロリが気づいたのはボレロの鬘が少し変わっていたこと、フィナーレの着物が赤に変わっていたくらい。それにしても「桜のボレロ」の振りって見ため以上に激しいんですね。息切れしてる人もいるよと聞いてチェックしてたら確かに発見。千秋楽まで頑張ってくださいね。全体的なことでは明治座の時より出演者が少し少ないのかな?3ジェンヌの場面が2人になってただけかもしれないけど。
私は日舞まったく素養のない人で、大抵眠くなりますが、杜さんの日舞は飽きません。上手い下手ではないんですよ、これが。人間国宝の踊りでも眠い(^_^;)。ところが杜さんの踊りはずっと見ていたい。もちろん杜さんはお上手ですが、それを越えたものにきっと魅せられるのでしょう。なんなんでしょうかね。


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