観劇日記
からくりお楽 2002年5月 東京・帝国劇場 原作・宮川一郎 脚本・佐々木猛 演出・山田孝行 キャスト お楽/浜木綿子 梅川速水(岐阜県知事)/中条きよし 三条麗子/杜けあき 吉野屋清三郎/佐野浅夫 お藤(藤屋女将)/五月みどり おしず/高嶺ふぶき 光子/星奈優里 大川屋九兵衛/深江章喜 萩乃/衣通真由美 伊之吉/丹羽貞仁 河内屋/荒木将久 あらすじ 1幕 明治39年6月東京。明るく人あしらいの上手いお楽は赤坂でも売れっ子の芸者。そんなお楽に惚れた板前の伊之吉に無理心中を仕掛けられる。お楽の急場を救ったのは気鋭の政治家・梅川速水だった。水戸藩士の出ながら家が没落したため三条家の書生として苦学し岐阜県知事になったばかりの梅川は貧しい国民と遊離した政治のあり方に相容れないものを感じていた。助けた梅川と助けられたお楽は意気投合。梅川は伊之助から受けた傷をお楽との一生の絆だと感じていた。 1年後、お楽の家を侍女の萩乃に伴われ三条家令嬢・麗子が訪れる。麗子は子供の頃から身近に育った梅川が芸者のお楽に入れあげているという噂にお楽と梅川の仲を心配していた。麗子は書生の頃から梅川を慕っていたのだった。当のお楽は梅川の名前も忘れ、「芸者が客に惚れて惚れられるのは当たり前」と取り付くしまもない。岐阜県知事となった梅川と2度と会うことはないと言うお楽の言葉に麗子は安心して帰っていく。 続いてお楽の家を飛騨高山の吉野屋清三郎が訪ねる。吉野屋はお楽の息子良太が祖父母を亡くしひとりぼっちになったので高山に帰って欲しいというのだ。お楽夫婦は夫の両親に認められず、夫の死後は良太とも引き離されていた。 知事として岐阜に赴任した梅川は町の少年と親しくなる。少年はお楽の息子良太だった。そして梅川は良太と暮らすために高山に帰郷したお楽と偶然再会する。そしてお楽を追って伊之吉も高山に来ていた。ひょんな事から藤屋の娘おしずと出会った伊之吉は藤屋で働くことになる。 お楽は良太の母として賢明に生きようとしていた。が、ある日その良太を亡くしてしまう。 副知事の青山は三条家の書生上がりの梅川知事を苦々しく思っていた。高山の商人達も伝統ある高山祭も取りやめて地域の殖産に尽くすべきだという梅川の質実で性急な県政改革に反発を感じていた。副知事と商人達は結託して梅川の失脚を画策する。高山祭の山車に火をかけ、祭に反対した梅川にその罪を着せようとする。酔いつぶれてその場にいたお楽は梅川の身代わりに捕らえられる。良太を失ったお楽には何の希望もなかったのだ。 2幕 正式な裁判も受けないまま警察の監獄にいるお楽に名も告げず差し入れを続ける人間がいた。その差し入れを惜しげもなく仲間の女囚達に分け与えるお楽は監獄で一目置かれる存在になっていた。そんなお楽を梅川知事が訪ねる。生きる望みを無くしたお楽は監獄の中にいれば心が安らぐという。梅川は死んだ良太のためにも生きろと言う。梅川はお楽との「運命の糸」を信じていた。 吉野屋清三郎は何とかお楽を助けて欲しいと知事を訪ねる。心痛な清三郎のようすに梅川はただならぬものを感じる。 火付け犯のお楽に司法の手で正式な裁判を受けさせるようにという命令書を持って麗子も高山にやってくる。梅川が政治家としての大きな夢を忘れお楽の事件に心を奪われていると麗子は心配していた。しかし梅川は知事になって市井の小さな人間が本当は国を動かしているのだとわかり始めていた。同じ女としての優しさに欠けると梅川に言われ、麗子は衝撃を受ける。麗子もまた「梅川という牢獄」に閉じこめられて苦悩していた。 お楽を慕う呉服屋・河内屋が女に化けて監獄の中まで追いかけてくる。河内屋は高山の町を探り青山副知事と大川屋たちのからくりに気づく。牢の一同の協力でお楽と河内屋は脱獄する。真犯人を捕まえるために…。そして、からくり屋台に火をつけた大川屋の息子に近づいた河内屋は悪事の証拠の書き付けを手に入れる。 いつか恋仲になっていたおしずと伊之吉が清三郎に駆け落ちの相談に来る。そこに青山達が来合わせる。娘のために青山達と結んで陰謀に加担した藤屋のお藤だったが、お金なんて無くても幸せになれるというおしずの言葉に目の覚める思いだった。青山の不正と知事への陰謀の疑惑を糾そうとする清三郎の元に証拠の品も届く。しかし罪の発覚をおそれた大川屋の息子に清三郎は襲われる。 重傷を負った清三郎はお楽に語り始める。お楽は清三郎の娘だった。ひとりぼっちで生きた来たお楽は直ぐには父を受け入れられなかった。だが妻と娘に手をさしのべられなかった不実を瀕死の床でわびる清三郎の姿にお楽も心を動かされる。 青山達の不正が明らかになる。しかし梅川も責任をとって知事の任を解かれ左遷されることになる。 春。お楽は高山を去ろうとしている。 花の下でお楽に行き会った麗子はお楽の所為で梅川の将来が閉ざされたとお楽をなじる。しかし「運命の糸」で麗子と梅川は結ばれているのかも知れないと励まされる。そんなお楽に麗子は素直に本当はお楽が羨ましかったのだと本心を話す。そしてどこまでも梅川についていくと決心する。 お楽は思い出多い高山を去り、雪の中から芽を吹く蕗の薹のように一人で強く生きていこうと思う。 杜さん出演場面 1幕2場 (赤坂・お楽の家) リボンに袴の女学生姿。ハイカラさんです。 1幕5場 (高山・宮川土手) 髪型は前場と同じ。チェックの洋装です。 2幕3場 (郡役所・梅川の執務室) 日本髪のお着物姿。女学校を卒業して1人前の女性になったということでしょうか?1番ゴージャスでした。 2幕6場 (高山・日枝だ神社の境内) 日本髪のお着物姿。前場よりは軽い感じでさわやかでした。 (ストーリーは単純なような複雑なような。まとめ難かった。筋は普通、でもなんだか可笑しいという作品。「なんだか可笑しい」部分をお伝えするのは無理でした。ゴメンナサイ。) (感激日記) (5/18夜の部) 商業演劇の座長公演、特に今回の『からくりお楽』のような作品は主演女優の魅力を見せることが第1だろうと思う。そう言う意味では浜さんの軽やかな魅力を見せたこの作品は成功だったのだろう。杜さん友達の中にも、この作品で浜さんの素敵さが分かって素直に楽しかったという方がいたし。浜さんはいい女優さんよね〜。好きですよ。理屈だとか辻褄だとかあまり考えずにスコンと話の中に入り込めれば楽しめるはず。ただし私は今回は残念ながら作品世界にすんなり入れなかった。 私の書いたあらすじではお分かりいただけないでしようが(涙)『からくりお楽』は「喜劇仕立て」の作品。けれどお楽さんは劇中で実の親と子を亡くす。これが乗れなかった第1の理由。泣き笑いの作品を作るにしても人を死なせて涙を誘うってどうなんだろう?二人も死んで「喜劇仕立て」はなんか後味悪い。 第2に個人的な好みだけれど、親子ものって余り好きじゃない。弱いんよね、すぐ涙腺ゆるむので。ところが『からくりお楽』は二重三重に親子物。一人息子を亡き夫の親の元に残しているお楽。娘のために知事失脚の陰謀に加担する母。吉野屋の佐野さんが死の間際に「実は…」とお楽に真実をあかし始めた時には、つい「あんたまで親だと名乗るなぁ〜」と心の中で念じた。泣かせる場面でこんな事を思ってる私は変わり者?(笑) 一人で生きてきたお楽さんがひととき親子の情を通わせあって、また一人で去っていく…そんな物語を作るなら偶々出会った他人同士がかりそめの親子の暮らしをするという設定で良くない?別れの理由は何とでもなるし、誰も殺さずに済む。 杜さんの出番の少なさは思ったほど気にならなかった。そりゃ出番が多ければもっと楽しめたけど、少ないなりにインパクトの非常にある役だったので。ただ杜さんファンとして欲を言えばもっと杜さんがストーリーに絡む役だったら面白かったのに、とは思う。お楽さんを慕う呉服屋さんが事件解決に奔走するけど、ああいう役回りを麗子様にさせてくれていたらなぁ。お楽さんと麗子様の探偵コンビなんてちぐはぐで面白いと思う。これは前述の友達に言ったら「浜さんと杜さんでは芝居の質が違うから…」と即却下されたけど、そうかな?確かに違うんだけど…ね。とにかく杜さんに限らず役者さんを揃えながら勿体なかった。事前の話とあらすじがコロッと変わったところを見て原作と脚本の役割分担の必要性が分からなかった。脚本家が杜さん主演の『妻達の季節』の方だったので、多少は期待してたんだけど。 浜木綿子さんのお楽。苦労や悲しみを背負いながら明るく風のように生きる女性。浜さんの作品て「元気にがんばる」女性を描く場合が多いと思う。がんばリズムの作品はともすればお説教臭くなって、それが鼻につくときがあるように思うんだけど、浜さんの飄々とした肩の力の抜けた演技でさわやかな印象が残った作品だった。可愛く愛嬌があって周りにほんわかした空気が漂う。私が観劇したのは怪我をなさった後だったが、そういうアクシデントを特に感じさせず、多少芝居が変更されたらしいが、違和感がなかった。 梅川知事の中条きよしさん。ええ男ですわ〜(笑)。理想に燃える青年?知事。堅物だからと麗子様が心配する割になんだか遊び慣れて見える気はしたけど、私の思いこみかしらん。時々梅川知事ではなく中条さんに戻ってましたが、これってそういう演出…だよね?麗子様にはなんだか冷たくて、大事なお姫様に手は出せないっていうのではなかったなぁ。もう少し麗子様に優しくしてあげて欲しかった(笑)。 高嶺ふぶきさん。可愛くって華ありました。勝ち気なお嬢だけど、こちらは町娘。印象は「ゆきちゃんだぁ!」(笑)。ゆきちゃん好きなので退団後3作目の観劇(この後『ラブ・レターズ』を見る)。「ゆきちゃんだぁ!」と思うことが多い。人それぞれの個性があるのは分かった上で意外性のある役作りのゆきちゃんをそろそろ見てみたい。 雪組時代モンローな後ろ姿に惚れた星奈優里さんと貴咲美里さんも出演。二人とも可愛いかった。 三条麗子の杜さん。「高びーなお嬢様だよ」と聞いて「滝の白糸」の品子さんや「不死鳥〜」の紫蘭様みたいな感じね、と思っていたらとんでもなかった。こんなにブーたれた顔してる杜さんを見たことがない。お楽の家を訪ねた麗子様はご機嫌が悪かった。いつもの作品の杜さん初登場の場面は美しさや華やかさで目立つことが多いと思う。麗子様はそうではなかった。悪くすると「何なのこの人?」と観客に反感を買うかも知れない。そこをさりげない笑いで消化して紫蘭様の傍若無人ぶりとはまた違う麗子様の華族のお姫様育ちで世情に疎い感じをよく出していた。本来、麗子様って他人に対する心配りのない人ではない。梅川の言葉に傷ついて一人になりたい時、侍女に対して「悪いけれど一人にして」とか言うし。ただ梅川知事への思いでいっぱいで、周りが見えないだけ。自分の周りの狭い世界が全て。この梅川への思い、というのがオスカルがアンドレに片思いしているみたいで(笑)、麗子様が落馬したエピソードがあったので梅川に助けられて愛が芽生えたのかと思ったらドラマの伏線でもなかったようで…(^_^;)。 侍女に手を引かれて歩く、車夫の肩を借りて車を降りるという仕草が本当にこなれていて、いつもながら役柄の階級にあった身のこなし、セリフ回し。圧巻は知事室の場面の一人芝居。喜劇仕立ての作品の中で短いながら本領発揮の緊密な時間。梅川に自分の思いが伝わらず肩を落とした後ろ姿。「私だってあなたという牢獄にとらえられて悲鳴を上げているのよ」という心からの叫びが悲痛。この場面、悲しみ・怒り・憎しみの表情が燃え立ってものすごく綺麗だった。最初のブーたれたお嬢様とは別人みたい(笑)。 お楽さんとの最後の場面で「本当はお楽さんがうらやましかった」と素直に語る麗子様。お楽さんに梅川との仲を励まされて恥じらう姿に、結局、麗子様は梅川と結ばれるのかな?と予感させる。綺麗な終わり方だけど、麗子様はずっと高びーで下々のことに疎いまま、少しトンチンカンなくらいが可愛いのにな、と思ったりもした(笑)。 浜さんの舞台でたくさん学びたいと言っていた杜さん。飄々とした軽やかな浜さんの舞台を見て、これかな?と思った。浜さんと杜さんは芸質が違うけれど浜さんから何かを杜さんが自分に取り込んだ時、また新しい杜さんが発見できたら面白いかも知れない。常にしっかり役を演じきるのが役者としての杜さんの素晴らしい個性であるし、私の好きなところだ。その良さを大事にしながら、浜さんから得たものをバランスよく咀嚼できる人だと信じたい。 先に見た人から今回の杜さんは「○○」だよと聞くと、つい杜さんが前に演じた似た感じの役のイメージを重ねて想像してしまう。だが、自分の想像したイメージ通りの杜さんを舞台上に見ることはまず無い。私のような凡人はその度に「そやから前のイメージを重ねたらあかんねんて…」と痛感させられる。杜さんはいつも予想を裏切る演技をしてくれる。だからこそ杜さんを見続けることはやめられまへん。 |