花束を君に−外伝−

 

あなたに謝罪の花束を

 

トン、トン、トン、トン…

縁側から軽快な足音響く。

「う、ん……」

 その足音に気付く様子も無く、彼女は軽く寝返りをうった後、布団の中で丸くなって静かな寝息を立てていた。

 長い睫毛に薄い唇。その整った顔立ちは美女というに相応しい。

 布団から剥き出した足は白く美しく、寝間着からはだけかけた胸元には豊かな胸が見え、

この美女が色っぽさまで兼ね備えている事がわかる。

 そして癖のある長い黄金色と銀色の混じった髪を腰まで無造作に伸ばしているが、

それが絶妙の位置で跳ねており、この美女に愛らしさまでをも加味していた。

 

 彼女の名前は『橘 由羅』誰が見ても絶世の美女と湛えるであろうこの美しい女性をこの街、

エンフィールドに住む住人は誰一人そうは言わなかった。

 

それは…

 

「うふふ、リオく〜ん♪」

 由羅は(ニヤ〜…)という擬音がピッタリとはまるような笑みを浮かべながらクスクスと笑った。

リオとは、美少年で、内気な子供である。

「クリスくんもこっちおいで〜♪」

 クリスとは、美少年で、内気な少年である。

由羅は胸に抱いていた一升瓶をギュッと抱きしめる。

 

一升瓶?

 

 よくよく彼女の部屋を見まわすと、部屋のあちこちに空になった一升瓶が転がっていた。

ちなみに銘柄は『美少年』。

 

つまり由羅とは美少年愛好家の変態で、病的な程の大酒飲みであった。

街一番の名医、クラウドも

「あの病気は手後れだ。手の施し様が無い」

とサジを投げた程であるし、街一番のナンパ師を自称するアレフも

「あれはパス」

と手を出さなかった。つまりそういう女性なのである。

 

「うふふ〜、2人とも逃がさないわよん」

由羅の寝顔に邪悪な笑みが灯った。

由羅にとっては至福の瞬間であったし、2人の少年にとっては絶体絶命の危機であったのだろう。

「おね〜ちゃんおきて〜!」

 その時部屋の障子が開かれて、明るい日の光りが彼女の部屋を覆った。

この光りによって由羅の祝福の瞬間は消滅し、2人の貞操(何気にエスカレートしている)は守られたのだった。

…夢の話だが。

「ん〜、何よメロディこんな朝っぱらに…」

 由羅は口を「x」の字にしながらモゾモゾと腰を上げた。…布団から出るつもりは無いらしい。

「ふみ〜?もう おひる だよ?」

 メロディと呼ばれた少女が答える。彼女はメロディ・シンクレア。由羅の家に住みつき、彼女を姉と慕う。

由羅もこの少女を母の様に、妹のように可愛がっていた。

「やあねぇ、お昼っていったら寝ている時間じゃない。『おはよう』の挨拶は夕方からよ、メロディ」

 

大嘘である。

 

「ふみ〜?でも『おはよう』はあさのあいさつだよ?」

「ライシアンは夜行性なのよ。だからお昼は寝る時間なの」

 

これも大嘘である。

 

「んもう!せっかくいい夢を見ていたのに〜」

「どんなゆめ?」

「うふふ、それはねえ…ってメロディその花はなあに?」

 由羅はようやく思考回路が動き出したのか、メロディが部屋に入った時から胸にかかえていた花束にようやく気がついた。

「もらったの〜♪」

 嬉しそうに胸に抱えた花束を抱きしめながらクンクンと鼻を鳴らし、花の香りを楽しんでいた。

「ふ〜ん…」

気の無い返事をしながら花を抱きしめた為に寄せられたメロディの胸を見て

(おっきな胸ねぇ、これ以上成長したら負けちゃうかも…でも触ると気持ち良いからいいか)

と全然関係無い事を考えていた。

触っているのかお前は!というツッコミは止めておこう。

ちなみに由羅は美少年愛好家なだけでは無く、美少女愛好家でもあるのだ。

「…ってそうじゃ無いわ。誰から貰ったのメロディ? 知らない人だったら駄目よ?」

少しだけ険しい顔をする由羅。

「えっとお、ウサギさんからもらったの」

「はあ? ウサギ?」

ワケが解らない。

「うん。ウサギのおねえちゃんとおんなのこからもらったの。おねえちゃんあてにって。はい」

由羅は花束を受け取った。

「は? アタシ宛て? 宅急便か何かなの?」

メロディの話を結合すると

バニーガールの格好をした宅急便屋さんが自分宛てに花の宅配に来たことになる。

「フラワーびん だって。マリエーナこくからきたっていってたよ」

「マリエーナ? 聞いた事無いわね。相当遠いのかしら…それにしても」

 聞いた事も無い遠くの国からバニーガールの格好をしてわざわざ花を届にくる宅配屋って?

保存魔法を使ってるんだから相当お金もかかってるんだろうし…

「都会って変なサービスするのねえ?」

バニーガールなどがいるのは都会の証拠だろうと勝手に解釈する。

「でもマリエーナ国になんて知り合いいないわ。きっとアタシの美しさの噂を聞いて花を贈らずにいられなかったのね。

でも残念。アタシにはもうリオ君とクリス君がいるの。美しさって罪ねえ、メロディ」

 ホゥ…っと本気? の溜息をつきながら花を枕もとに置き、飲みかけの一升瓶の蓋を開ける。

「ちがうとおもうよ?」

「あら? 何が」

「おくりもの の いみ」

「うん?」

生返事しながらメロディを促す。

「そのおはな、ルーファスのはなっていうんだけど…」

「うん?」

言いながら一升瓶を口につけグイっと飲む。

「ルーファスのはなの、はなことばは〜『のみすぎちゅうい』」

 

ブ−ッ!!

 

由羅は口に含んだ酒を思わず吐き出してしまった。

「けほけほッ…ちょ、ちょっとメロディ、何よそのピンポイントの花言葉は!ホントなの?」

「うん。あとねー『だらしない』と『ふけんこう』と『ロリコン』と…」

「ストップ、ストップ! 何よそれ! もう花言葉でも何でも無いじゃない! 可愛い花なのに嫌がらせなのー!!」

「ふみ? でももうひとつあるよ」

「何がよ?」

「はなことば『ごめんなさい』っていういみ」

由羅の狐の耳がピクンと動いた。

「ふ〜ん…そう、花言葉は『ごめんなさい』なんだ…」

由羅はルーファスの花束をどこか冷めた目で見ながら手に取った。

「メロディ、このお花好き?」

「うん。 きれいで いいにおい がする」

「そう。じゃあメロディにあげるわ。大切にしてね」

「ホント! おねえちゃんありがとー!!」

メロディは花束を受け取るとトタトタと駆けていった。

恐らく趣味の花のしおりを作るつもりだろう。

 

由羅は起き上がると庭の見える縁側に座った。

「ごめんなさい…ね」

目を瞑る。

 差出人に見当もつかなかった。この街に流れ着くまでに、いったいどれだけの酷い人間を見てきたのだろう?

どれだけの酷い仕打ちを受けてきたのだろう?

 美しく、弱く、保護されていなかった種族というだけで見世物にされたり、

汚らしいブサイクな連中に酷い事をされた。

ほんの数ヶ月前でさえ『高く売れるから』ただそれだけで誘拐されかけたのだ。

 もし普通に良心という物を持ち合わせていたのなら自分に謝らなければならない人間など見当もつかないほどの数になるのだ。

 

今更謝られたって…遅い。

 

でも…

 

「……いいよ。ほんの少しだけ許してやろう人間。メロディが喜んだから」

「ふみ? おねーちゃん どうしたの、おなかすいた?」

 機嫌の悪さが表情にでていたらしい。先程の花束をさす為の花瓶を手に持って部屋に行こうとしていたらしい

メロディに気付かれてしまった。

「何でもないわよメロディ。それより耳かきしてあげるからこっちいらっしゃい」

耳かきなんて誤魔化しだった。ただメロディを抱きしめたい気分だった。

「は〜い」

メロディは嬉々として由羅の太股の上に頭を乗せた。

「ねえ、メロディ? メロディは今幸せ?」

耳かきを始めてしばらくたったころ、由羅はメロディに何とはなしに質問をした。

「…うん」

「そう、私も今幸せよメロディ。みんな私達みたいに幸せになれるといいわね」

「…」

「メロディ?」

メロディは由羅の膝の上で眠っていた。

由羅はその寝顔をそっと覗きこむ。

「ふふ、そうねメロディ」

幸せそうな寝顔だった。

 

 

 由羅の願いは遠い遠い未来になってやっと叶う。

 歴代最年少で連邦保安機構本局長官となった、ルシードアトレーが長い年月をかけて

異種族の不当な扱いを徹底的に調べ上げ、国会と世間に公表。

世間の圧倒的な支持を受け、異種族間平等条約制定の足がかりを取りつけることになる。

当然その中にライシアンやヘザー種族についても盛り込まれていた。

 

 遠い未来の話である。

 

  おしまい  

 

 


美少年(美少女)愛好家になった理由。

極度のアルコール依存症になってしまった理由。

そんなお話。

なんかくら〜いお話なので花束本編から切り離しました。

「ごめんなさい」の花言葉のある花ってないんですかね?

(調べたけど見つからなかった)

んでルーファスの花なんだけど(笑)

そのお話も書ければそのうちに…

あと残ってるのは花束外伝『エタメロ』後編だけど…どーしよ。

 

 

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