エピローグ
「へぇ〜いい話じゃない」
すっかり酔っ払っているバーシアがバシバシと吟遊詩人を叩く。
「そ、そうですか?ありがとうございます」
顔は明らかに「関わって失敗したな」という表情をしている。
「ねぇねぇ、その後2人はどうしたの?結婚したの?」
興味深々といった表情でルーティが吟遊詩人の顔を覗きこむ。彼女は物語よりもこの2人の関係の方が気になっているようだ。
「さあ?私も聞いた話ですから最後までは…」
「え〜っわかんないの?私は絶対結婚したと思うけどな?ビセットはどう思う?」
「えっオレ?オレは別にどっちでもいいよ」
この話の一つ前冒険活劇の話は目を輝かせて聞いていたが、さすがにこういった話はビセットには退屈だったようだ。
「もう!ロマンのない奴」
ロマンはちょっと違う気がする。と思ったが更紗はあえて何も言わなかった。
ここはミッシュベーゼン。安くて美味い料理に豊富な種類の酒。ブルーフェザーは今日の夕食をこの店で取ることになっていて、ちょうど店で歌っていた吟遊詩人をテーブルに呼んで一緒に食事をしながら色々な話を聞いていたのだ。
「でも素敵な恋のお話ですよね」フローネが誰にともなくフォローを入れる。
恋の話だったのかな?と思ったが更紗はあえて何も言わなかった。
「?なんですか先輩、変な顔してますけど?」
フローネは怪訝な顔をして自分を見つめるルシードに気付いた。
「いや、お前がホラー以外の話を誉めるなんて意外だと思ってな」
「酷いです先輩!まるで私がホラー小説以外読まない見たいな言い方するなんて…」
「え?違うの?」
「メ、メルフィさん酷いです!」
「あっ、御免なさい、思わず…」
思わずなんだろうと思ったが更紗はあえて何も言わなかった。
「しかし人から聞いたとは、当事者の誰かから聞いたのか?」
ゼファーが吟遊詩人に尋ねる。
「ええ、暁の女神さまに。友達なんですよ」
屈託のない笑顔で応える。
「ほう?それは興味深い」
普通なら冗談と思うか吟遊詩人のリップサービスと思う所だろうがゼファーは興味を持った。
「ちょっと…ロクサ−ヌ…私もうダメ!今日はもう休みましょうよ…」
フラフラと吟遊詩人ロクサ−ヌの肩に掌サイズの羽の生えた女の子が落ちてきた。
「あっトンボさんまってください〜」
トテトテとティセがテーブルに走ってくる。
「私は妖精!トンボじゃないってのに!」
この妖精フィリーはロクサ−ヌが歌っている間ずっとティセにオモチャにされていたようだった。
「おやフィリー、随分くたびれてますね。では今日はもう宿も探さなければなりませんからそろそろ失礼いたします」
「え〜っ行っちゃうんですかトンボさん…」
ティセが心底悲しそうに言う。
「トンボじゃないってのに…」
「ロクサ−ヌさんと言ったな?よかったら事務所に来ないか?もう少し話を聞いてみたいしティセも喜ぶと思うが?もちろん一晩宿代わりとして一室提供しよう」
「え?部屋なんてあまってないよゼファー?」
「ビセットが居間で寝れば良い」
「ええっ!そりゃないよゼファー!?」
「うむ?そうか、今日は誰が料理当番をサボって食事に来たんだっけなビセット?」
「うっ、わかったよう、居間で寝ればいいんだろ!」
ビセットは半涙だった。
「ちょ、ちょっとロクサ−ヌ?まさか行かないわよね?もうあの子の相手やってられないわよ?」
フィリーは心底嫌そうに言ったがロクサ−ヌは何か思うところがあったらしい。
「では、お言葉に甘えて1泊させて頂きます」
「やったですぅ〜」
「え〜っ」
「…フィリー泊めて頂くのに失礼じゃないですか」
「うう、だってぇ…お金あるのに泊めてもらわなくても…」
「フフ、決してそれだけじゃあないんですよ。なんだか彼らからも悠久の物語が聞けるような、そんな気がするんです」
「はぁ、そうですか、もう勝手にして…」
「んじゃあ帰るよ、更紗ご馳走様。お金おいていくぞ」
「…うん。…あのルシード…」
「ああ、肉じゃが作ったの更紗だろ?うまかったぞ」
「!!…うん。ありがとう…また、来て…」
真っ赤な、しかしとても嬉しそうな表情。ルシードは以前この少女を救って本当に良かったと思った。
「…別に恋愛は自由だけど、後5年は待たなきゃダメよ!」
「バ、バーシア!てめぇどうゆう意味だ!?」
「あらぁ?言って良いのかしら?」
クスクスと笑う。
「…この酔っ払いめ…」
「ねえねえ、ロクサ−ヌさん。次はどんなお話してくれるの?」
「そうですねぇ、異世界から鉄骨と共に(笑)迷い込んできた青年の話なんてどうです?」
「うわぁ!面白そう!早く帰ろうぜ!!」
自分達の世界を0番とするとここは3番目の世界。きっと終わらない。
大地が無くなっても、想いは続くから。みんなが忘れなければきっと帰ってくる。
だから自分が忘れない間は歌いつづけよう。
きっと続くから…続いて欲しいから…
おしまい