甲子園を目指せ!
ガキィィン!!
「ファール!」
「ちくしょう、粘るなあ…」
服の袖で汗をふく。200球以上を投げているマウンド上のビセットはもはや限界だった。
夏の○○県決勝戦。名将ゼファー監督に率いられた悠久学園は
150キロの速球を投げるエースビセットと大会bPスラッガー、ルシードの活躍で9回表2アウト1対0で優勝に大手をかけていた。対するエンフィールド女学園は女性チームで県大会決勝まで勝ちぬくという快挙をなしとげ、史上初の女子チーム甲子園出場という偉業を達成する為負けられない戦いを続けていた。
一塁ランナーは四球で出塁したピッチャーのトリ−シャ。バッターは今大会最もホームランを打っている4番エル。まさに大会最大の山場であった。
「俺は負けられないんだー!!」
「ちいっ」
ガキィィン!!
「ファール!!」
ビセット渾身のストレートをエルはかろうじてバットに当てた。
「なんて奴だ、球が速くなった。今のままじゃあたしには打てない」
本当は野球などどうでもよかった。親友のトリ−シャを甲子園に連れて行ってあげたい。ただそれだけの為にエルは野球部に入った。今もそう思っている。しかしそれ以上にビセットの球には魂がこもっていた。
「あいつも誰かの為に甲子園をめざしてるのかもな」
じしょう気味に笑う。気持ちで負けているかもしれない、今自分は負けてもいいと思っているのだ。確かに優勝すればトリーシャは喜んでくれるだろうしその笑顔を見たい。だがそれ以上は望めない。じゃあ負けたらどうなる?トリーシャは悲しむだろう。もしその時慰めてあげたらもしかしたらもしかするかも…
そう、エルはトリ−シャに親友以上の感情をいだいているのだ。この邪な気持ちをトリ−シャに知られたら嫌われてしまうかもしれない。その考えが辛うじてエルの気持ちを押さえていた。
「タイム!!」
エンフィールド女学園のベンチで沈黙の名将リカルド監督が動いた。エルを呼び寄せる。
「監督、何か?」
自分の気持ちを見透かされたかもしれないと思ったエルはリカルドの目を見ることが出来なかった。
「トリーシャがな…」
「えっ?」
「昨日トリーシャがここまでこれたのはエルのおかげだと言っていたよ」
「…そうですか」
トリーシャの信頼を裏切ろうとしていたのだ。エルの胸が痛んだ。
「それでもし優勝できたらお礼がしたいと言っていてね、エルのお願いならなんでもかなえて上げると言っていたよ」
「ね、願いって、なんでも?」
エルの鼓動が高まる。
「私には良く解らないが、もしかしたらトリ−シャは君の気持ちに気付いているのかもしれないな。それだけだ、悔いを残さず頑張りなさい」
リカルドはベンチに戻った。
『気持ちに気付いている?何でも願いをかなえる?』
エルはリカルドの言葉を頭の中でもう一度つぶやいた。
「フ、フフ、フフフフ」
エルは不適な笑みを浮かべるとバッターボックスに戻り
「トリーシャ!!絶対優勝しような!!」
と一塁にいるトリーシャに向け大声で叫んだ。
「えっ?う、うん頑張ってエル!」
『お父さんエルに何言ったんだろ?でも気合が入るのはいいことだよね』
一方ベンチでは…
「あの、監督?」
「なんだねマネージャーのシェリル君」
「さっきのトリ−シャちゃんの話、本当なんですか?」
「……」
「監督?」
「……」
後のベストセラー「禁断のエンフィールド女学園」において著者のシェリル嬢はあとがきで「あの時監督は何も語りませんでした。沈黙の名将といわれる所以ですね」と語っている。
エルの気合は当然マウンド上のビセットにも解った。
「すっげえ気合だビリビリするぜ、だけど俺だって負けられないんだ!」
ビセットにも負けられない理由がある。マネージャーのリーゼを甲子園に連れて行く使命があるのだ。
ビセットには双子の弟のシェールがいた。隣の家に住むリーゼと2人は幼馴染でいつも3人一緒だった。シェールの口癖はおねえちゃん(リーゼ)を甲子園に連れて行ってお嫁さんになってもらう。だった。
去年の県大会決勝交通事故でシェールは死んだ。あの時のリーゼさんの涙を、シェールの無念を俺は忘れない。今度は俺が
「俺がリーゼさんを甲子園に連れて行くんだ!!」
150キロのストレート!!最後の最後にビセットは最高の球を投げた。
カキィィィン!!!
快音とともにボールは外野スタンドに吸い込まれて行った。
「ホームラン!!」
無常にも審判の声が響く。ビセットの魂の速球はエルの愛のパワーに打ちくだかれた。
「やったよエル!」
ホームベースでまっていたトリーシャがエルに抱きつく。
「ああトリーシャを甲子園に連れてってやるって約束したろ」
エルはトリ−シャの頭を優しく撫でてベンチに戻った。
「おいビセットいい加減立ちやがれ、まだ終わってね−ぞ」
マウンドでうずくまっていたビセットにルシードが声をかけた。
「ルシード、でも…」
「あーったく泣くな、まだ9回裏がある。ランナーが1人でれば俺まで回ってくるんだチャンスはある!」
「そうか!そうだよね、まだリーゼさんを甲子園に連れて行くチャンスはあるんだ!」
ドカッ!!
ルシードはビセットを思いっきり蹴飛ばした。
「いってえ!何すんだよルシード!!」
「…うるせえ、気合入れてやったんだよ!」
一塁の守備位置に戻る。その背中にビセットは感謝をした。
ルシードは機嫌が悪かった。元々生意気な奴としか思っていなかったがそのひたむきな姿にいつのまにかルシードは引かれていた。しかしビセットは事あるごとにリーゼを甲子園に連れて行くと言う。その言葉を聞くたびルシードは腹が立つ。そんな自分が嫌いだった。
「ビセットがリーゼを甲子園に連れて行くんじゃない、俺がビセットを甲子園に連れて行くんだ!」
……人生色々である。
「ストライク!バッターアウト、チェンジ!!」
「よっしゃあ!」
ビセットは5番バッターを三振に取り、悠久学園は最後の攻撃に移った。
「ストライク!バッターアウト!!」
「やったあ!2アウト!」
エンフィールド女学園エーストリーシャは140キロのストレートと7つの変化球を持つ天才ピッチャーだった。悠久学園は早くも2アウトと追い込まれて行った。
「ええっチョット困るよ、アレフ頼むから打ってくれー」
「ああまかせとけビセット俺がホームランで逆転してやる!」
ホームランを打っても逆転は不可能である。
「バッター交代だ」
奇才の名将ゼファーが動いた。
「んなっ、ちょっとまってくれよ監督、3番で今大会3本もホームランを打ってる俺を変えてどうするんだよ!」
「リーゼ」
「はい。アレフの成績は23打数3安打3ホーマー20三振です」
「…」
「ストレートしか打てないお前がトリーシャを打てるわけがないな。100%三振するだろう。バッター交代リオだ!」
「ええっボク?」
「おいおい監督、だからって試合に出た事ないリオじゃしょうがないだろう?」
「大丈夫だ、リオは秘密兵器だ。かならず出る」
自信満万のゼファーに誰も反論できなかった。
「でもボクゼファー監督に何も教わってないんですけど…」
「フフ、リオ耳を貸せ秘策がある」
ゼファーは笑みを浮かべながらリオに耳打ちした。
「そ、それでいいんですか?」
「ああそうだ。自信を持っていけ」
「ボール!」「ボール!」「ストライク!」「ボール!」
「ボール!ファーボール!!」
リオはバットを振ることなく塁に出た。
「監督、秘策ってこれ?」
アレフがゼファーを不思議そうに見つめる。
「そうだ。うちが確実に逆転する方法はルシードの前にいかにランナーを溜めるかにかかっている。幸いビセット以外のバッターは身長が高いからな、ピッチャーもストライクゾーンが変わってやりにくいというわけだ」
「なるほど、だから2番にアルベルト君で
3番アレフ、5番ビセット君なんですね」「さすがリーゼだ。わかっているな」
「?」
つまりどうしてもランナーが欲しい時変えられるようにアレフを3番にしているのだがアレフ本人は理解していない。
「まいったなあ、ルシードさんか、さっきホームラン打たれたし…」
まさに立場は逆転した。一発でれば逆転、しかもルシードはトリーシャの球にタイミングが合っている。
「フフ、甲子園はもらったな」
ゼファーが勝利を確信した時リカルドが動いた。
「タイム!守備交代でファーストトリーシャ、ピッチャーエル!」
「何だと!!」
思わずゼファーは立ち上がった。嫌な予感がする、もしエルがピッチャーの訓練をしていたなら…
ズドン!!
「ストライク!」
「速い…」
ど真ん中のストレートだが手がでなかった。今まで変化球に目が慣れていたせいもあるが速球がビセット並に早い。
マウンドのエルがニヤリと笑う。
ガキィィッ!!
「ファール!」
「くそっ!しかも重い。完璧に捕えなければ前に打ち返すことさえ難しい球だ!」
カウント2−0ルシードは早くも追い込まれてしまった。
「フ、さすが沈黙の名将リカルドだ。こんな奥の手を残していたとは」
ゼファーの敗北宣言だったがそれに納得できないビセットが叫んだ。
「何言ってんだよゼファー!俺はリーゼさんを甲子園に連れてかなきゃいけないんだ、何とかしてくれよ!」
「ビセットくん…」
「フム、勝ちたいかビセット?」
「そんなの当たり前だろ!」
「ではお前しかできないことがある。耳を貸せ!」
ゼファーは今度はビセットに耳打ちした。
「ええっそんな事いうのか?」
ビセットは真っ赤になった。
「そうだ、それなら勝てる!」
「でもどうして?」
「そうゆう設定だからだ!」
「は?」
「いやなんでもない。言うんだビセット!」
訳の解らない理屈だったがゼファーには絶対の自信があるらしい。ビセットは覚悟を決めた!
「エルー後1球だよ!頑張って!」
「ああ任せておけトリーシャ」
エルにとってトリーシャの応援は他のどんなものよりも力づけられる。もはや負ける気はしなかった。
『優勝してエルと喜びを分かち合う』
『リーゼさんを甲子園に連れて行く』
『ビセットを甲子園に連れて行ってやる』
『優勝してトリーシャと○○○する』
それぞれがそれぞれの思いを込めて最後の1球が投げられた!!
「ルシードー!!ホームラン打ったらキスしてやる!!」
「いるかそんなもん!!(怒)」
ズドン!!
「えっ?」
「ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!!!」
「やったーエル優勝だよ!甲子園だよ!!」
トリーシャがエルに抱きつく。
「ああ、これでお前はアタシのもんだ」
「えっ?ちょっとエル苦し…」
エルは力いっぱいトリーシャを抱きしめ、そして…
「なんだよゼファー!ルシードよそ見して負けちゃったじゃないかあ!!」
「ウム、おかしいな、設定ではあれで力が出るはずなんだが?」
「ビセット…お前ふざけた事叫んでくれたな…」
バットを握り締めたルシードがビセットの前に立った。
「いや違うんだよルシード、あれはゼファーが…」
「なんのことだか解らないな」
「ああっゼファーずるい!」
「よくも恥をかかせてくれたなビセット…」
「ああもうわけがわからない」←作者
チャラチャチャッチャチャツ!
「ごくろうだったな、ミッション授業終了だ」
「ランディ先生?あっそうかこれミッション授業だったんだ」
「トリーシャ、エル、シェリルは合格だ。後の者は失格。単位落とさないよう次頑張るんだな」
「やったねエル!一緒のチームで良かったよ。どーしたのエル?」
「あ、うん、そうだな(畜生、後少しだったのに…)」
「私スコアブック書いてただけなのにいいのかしら?」
「あーっクソ!俺がノーヒットじゃなければ…リオは塁に出れて良かったな」
「でもアルベルトさん僕バットも振ってないよ」
「だいたいビセットがあそこでホームラン打たれるから悪いんだ!」
「なんだよアレフなんて3三振じゃないか!」
「私なんか最初から死んでて何もできなかったよ?」
「ゴメンねシェール、みんな頑張ったんだけど」
「さすがリカルドさんだ、あんな奥の手を隠していたとは」
「ゼファーさんもあそこで代打とはさすがですな」
「…あーっ何なんだあの気色悪い設定は!馬にされたり幽霊にされたりしてたが今回は最悪だそ!(何で俺がビセットに歪んだ愛を感じなきゃいけないんだ)」
放課後
誰もいなくなったミッションルームにランディはいた。
「よう、何しけたツラしてるんだい?」
電源の切れたはずのディスプレイに突然アイマスクをした男が映る。
「シャドウか。そっちのデータはどうなっている?」
「精神誤差率0.2パーセントほぼ完璧だ、いつでもいけるぜ」
「ダメだ、誤差を0にするまでは続ける」
「けっ意外にお堅いやろーだ、そんなんじゃいつまでたっても始まらないぜ」
「いや、どっちにしろ始めなきゃいけないのさ人類○○計画(笑)をな」
おわり(笑)
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