花束を君に




「ここは〜いったいどこなのでしょう?」

青いウェーブのかかったロングヘアーを後ろで一本に縛り、緑色のエプロンをした少女セリーヌは現在エンフィールド北西の森にいた。その表情はとても朗らかで口調ものんびりしたものだったので、一見して困っていると観抜ける人はいないだろう。

 彼女は道に迷って迷子になっていたのだ。

「たしか〜夜鳴鳥雑貨店に用事があったのですが〜、どうして私は森にいるのでしょうか?」

方向が180度違う。彼女は天性の方向音痴だった。

「あら〜、あんな所に小屋があります。人が居るかもしれませんね。道を教えてもらいましょう」

彼女はスタスタと小屋に向かった。元自警団見張り小屋。去年は合成魔獣研究所として、エンフィールドを乗っ取ろうとした過激派連中の隠れ家でもあった建物である。

 …そして現在は取り壊された筈の小屋だった。


第4話 理由と闘い・・・


翌日 第50回の記念、そして過去最大の大会であるという事でエンフィールドの町は大武闘会の話で持ちきりであった。ミス大武闘会に選ばれたトリーシャも注目の的である。魔法学校のトリ−シャの教室では大勢のクラスメイトがトリ−シャの周りに集まっていた。トリーシャは実に楽しそうに大会の話をしている。

「トリーシャちゃん昨日はキスのことであんなに困ってたのにどうしたのかしら?」

「開き直っちゃったんじゃないの?」

シェリルの疑問に対してマリアがつまらなそうに答える。

可愛い子が選ばれるなら何故自分じゃないのか今だに不満なのだ。

「そんな事ないと思うんだけど…」

「何の話?」

2人の会話に眼鏡をかけた水色の髪の少年クリスが入ってきた。

「あ、クリス君おはよう。実はトリーシャちゃんがね…」

「へー、ミス・大武闘会かあ、そういえば朝コージさんに会ったんだけど大会に出るっていってたよ」

「それだぁ☆」「それだわ」

シェリルとマリアは同時に理解した。

「ええっ、何なに?」

さすがにクリスもビックリして、聞き返す。

「もー鈍いわね☆コージさんとならキスOKって事でしょトリーシャは☆」

「マ、マリアちゃんそんなハッキリと…」

ちなみにトリーシャの思い人は知り合いならみんなが知っている公然の秘密というやつだ。本人はまったく気付いていないのが最大の問題だが…

「ところでクリス君どうしてこの教室に来たの?」

「あっそうだよ、マリアちゃん今日僕と日直でしょ、朝は大変なんだから戻ってよ」

「もー、だからこの教室にいたのに☆帰ればいいんでしょ!」

「う、うん。ごめんね…」

マリアの逆切れにまんまと謝ってしまう哀れなクリスだった。

それにしても…とシェリルは思う。コージさん優勝できるのかしら?

当然の疑問である。

「へーそれでボウヤとアルベルトがねえ、クレアも大変だね」

さくら亭のカウンターに座っているのは焼けた肌と短く刈った髪元傭兵で現在さくら亭の住み込みアルバイトのリサとお客のクレア、そしてカウンターにパティが立っていた。

 この時間はまだランチ前なので店内はガラガラである。

「はい、兄様ったら本当に乱暴で…でも今回はコージ様にやっつけてもらいますわ!」

妹に負けを期待されているアルベルトも随分気の毒だ。思い込みとはいえ妹の為にアルベルトは戦うのだから…でもアルベルトのシスコンぶりはさすがに行過ぎの感じがある。ちょっと負けるのもいい薬かもしれない。

…しかし、とリサは思う。アルベルトにボウヤが勝てるのか?という疑問があるのだ。ボウヤも決して弱い訳ではない。この1年でその強さは飛躍的に上がっただろう。それでもリサの見立てでは6:4でアルベルトにぶがあると思われた。

「やれやれ…」

「リサ様、どうかされましたか?」

「ん、いや、ちょっとおせっかいでもしようかと思ってね」

「はあ?」

リサはこの仲の良い兄妹に少しおせっかいをやいてやることを決めた。

 この時パティはアルベルトが優勝したらトリ−シャはアルベルトとキスするのかしら?と違うことを考えていた。そういえば1年前、自分にキスを迫ったジョートショップの青年を思い出し…

ドン!!

「もう、いつまで帰ってこないつもりなのよ!!」

「パ、パティ?」「パティ様?」

「ご、ごめん、何でもないのよ、あはは」

思わず興奮して叫びながらカウンターを叩いてしまった事を誤魔化すように笑った。

「この記念すべき大会優勝するのはこのワタシアル!」

武闘会常連、1回戦負けの帝王の異名をとるマーシャルが自らの店マーシャル武器店で叫んだのはちょうど昼頃だった。

「エルさん、止めても無駄アル!ワタシは出る、そして優勝するアルよ!」

カウンターで大武闘会のポスターを見ている緑の髪に金のメッシュをしたエルフの女性エルに話しかける。が、反応はない。

「?、エルさん、いったいどうしたアル?朝そのポスターを見てからピクリとも動いてないアルよ?」

さすがに心配になってマーシャルがエルの顔を除きこむ。

ゾクッ!!

マーシャルは恐ろしい程の寒気を感じた。まるで真冬に水風呂に放り込まれたような感覚だった。

 喜び、悲しみ、怒り、困惑、全ての表情を合わせたようなエルの顔を見て、マーシャルは生きた心地がしなかったのだ。

「マーシャル」

「は、はひっ…なんでしょうエルさん」

「悪いが優勝は私が貰う」

「ええっエルさんが出るアルか?そりゃあエルさんなら優勝できるかもしれないアルけど…どうして突然でる気になったアルか?」

「欲しい賞品があるからさ。それからなマーシャル、仮面男児は辞めとけよ」

「ば、ばれてるアル…」

エルは軽く笑ってポスターをポケットにしまう。

(エルさんがでるアルか、しかし私は負けないアル!)

先程の恐怖もマーシャルには通用しなかった。

(出なければ死なずにすんだのに…いや死なないけどね(笑))

自警団事務所でも大武闘会の話題で盛り上がっていた。

「やっぱり出るのね、まあがんばりなさいよ」

「やっぱりってなんだよヴァネッサ?」

「フフフ、それは秘密よ。ってあら?今日はクレアさんのお弁当じゃないのね」

「ああ、実は昨日アルベルトに殺されかけたんだよ」

自警団第3部隊事務所で遅い昼食を取りながら、コージは同僚のヴァネッサに昨日の事を話した。

「うわぁ、よく命があったわね、それでクレアさんのお弁当禁止なのね」

「会うのも不可だけどね。アルベルトもいい奴なんだけどクレアの事になるとみさかいがなくなるからなあ」

コージはズズッとお茶をすすった。

「ブッ…何だこれ、すごくまずいぞ!」

「ああそれ?健康ジュース。身体にいいのよ、残さず飲んでね」

「ヴァネッサ、お前また…」

「まあいいじゃない、健康に良いのは間違いないんだし、1年分買っちゃって中々減らないのよ、協力してよね」

そう言ったヴァネッサが飲んでいるのは普通のお茶だった。

「ずるい…」

「ん?何か言った?」

「いや、別に…」

コージはまずい健康ジュース(しかもホット)を飲んだ。

(何でこの茶色い粒辛いんだろう?)と思いながら。




 

「アルベルトさんも出場するんですか?よかった俺申し込まなくて」

第1部隊事務所でも大武闘会の話題で持ちきりであった。

「お前もでるつもりだったのか?ちょうど良い腕試しになるんだ、出場したらどうだ?」

「自分の力量はわかっているつもりです。アルベルトさんこそ頑張ってください」

「ああ、そうだな、あいつを殺すついでに優勝でもするか」

「え、殺すって…」

アルベルトの物騒な言葉に第1部隊の隊員が一瞬たじろぐ。

「いや何でも無い。それじゃあ自警団からでるのは俺とコージだけか」

「たしかクラウスもでるっていってましたよ」

クラウスとは自警団の隊員で槍の使い手である。自警団で戦闘力なら若手3人の中に入る腕前だった。残りの2人はアルベルトとコージである。

「そうかクラウスもでるのか…」

そうは言ったがアルベルトは別の人間の事を考えていた。1年前だったら若手の3強といえばアルベルト、コージ、そしてロビンだった。

行方不明となった元団長とともにロビンもいなくなったのだ。同じ自警団とはいえあまりアルベルトとは親しくなかったがかなりの実力者だったことは覚えていた。

「まあ、いなくなった奴の事かんがえてもしょうがねえな」

「えっなんです?」

「いや独り言さ」

アルベルトは外の訓練場にでた。無償に汗を掻きたくなり、一心不乱に槍を振り始めた。






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あとがき:とゆーわけで4話です。タイトル・・・決め直します(苦笑)
ちーっとも物語が進みません。起承転結でゆーところのまだ起です。
10話で終わるの?だらだらと続いてるなあ・・・
面白いSSを読んでるとやっぱり展開がバッっと切り替わってすごいなぁって
リンク貼らせてもらいました。みのむしさんのHP「おいしいリンゴ・・・」
読んでみましょう。感想よかったら下さい。ではでは
新タイトル「理由と、闘い・・・」に変更です。闘う理由でいいじゃん(苦笑)



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