戦争の中の正義と悪 

 

 

第9章 各々の正義 後編

 

 

 アルベザード王国……

 元は小さな国であったが、ここ数年、他国へ侵略を行って領土を拡大していったために今や巨大な王国となっている。

 しかし、エンフィールドに攻め立てたが最後。逆に攻め込まれて最終防衛線となる王城を残すのみとなっている。

 エンフィールド軍に所属する、十数万もの戦士たちが1人、また1人とアルベザード城下町へと流れ込んでいく。

「流石に最終防衛線だけあって連中、抵抗が激しいな!」

 アルベザード王城のヴァンゲスもどきの部下らしき男を切り伏せた後、ルシードが感心したようにため息をつく。

 町の者達は、この襲撃を予想していたのか、家の中に息を潜めているようである。

「建物を壊さぬように攻撃を仕掛けろ!」

「ええい!しっかり防衛せぬか!」

 敵味方の叫び声が次々と飛ばされる。

 防衛側のアルベザードはエンフィールドの勢いにじりじりと後退していく。

 そこを情け容赦なくエンフィールドは攻撃を続ける。

「仕方あるまい!例のものを!」

「了解!」

 アルベザードの指揮官が部下に命じると、エンフィールド側の両サイドから魔物たちが襲撃して来る。

「やっぱそう来たか……隊長さん!どうすんの?」

「一旦体制を整えろ!」

「了解!」

 リカルドの命令で戦士たちが素早く下がる。

 そこをアルベザードが弓矢で攻撃を仕掛ける。

「へっ!どうやら俺が白銀の死神と呼ばれる理由を見せる時がきたようだな!」

「どうするつもりなんだ?」

「まぁ……見てろって!」

 トウヤの質問に返事をした直後、カインは手に持っていた剣を目の前に差し出す。

 直後、剣を器用に回転させ、激しい風を吹かせる。

 それと同時に無数の矢が次々と別の方向へと逸れて行く。

「その剣……どーなってんだ?」

「ただの剣だ。……まぁタネ明かしをすると、一種の気合で起こした風……かな?」

 トウヤの疑問に、カインはいたって普通に答える。

「そんなことよりこんな所でてこずる必要はないんじゃない?」

「ああ。そうだな。よし、強行突破をするぞ!」

「待ってました!」

「んじゃま、参りますか!」

 リカルドの命で、戦士たちは次々と目の前にいた敵を切り捨て、王城へと走り出した。

 

 

(ふむ。どうやらエンフィールド軍が攻撃してきたようだな。)

 牢獄の中で囚われているヴァンゲスが上の階層から響く音で判断する。

(さて、問題はいつ行動するかだ。今すぐ行動するべきか……それとも……)

 気合だけで己を縛っていた鎖を外し、思考に耽る。

(偽者の私の正体をとっととバラスと言うのも一つの方法……か。よし。)

 結論をコンマ下一桁で決め、目の前の檻を炎の魔法で破壊し、自分の偽者がいるであろう国王の下へと走り出した。

 

 

「おい、イリア将軍!国王の部屋って何処にあんだ?」

 先陣を切って城内に入ったトウヤが後ろにいる将軍に向きながら尋ねる。

「真っ直ぐ向かった大扉の先だ!」

 イリアの言葉にトウヤはすぐさま目の前にある階段を駆け上ろうとする。

 が、しかし、その場所には魔物で塞がれていたのである。

「やれやれ……まずはあいつらを何とかするしか無いよーね……」

「その必要は無い。」

「お前は……!」

 魔法詠唱を始めようとしたトウヤに、彼らが以前に聞いたことのある声が響く。

「待っていたぞ。わざわざこの城にきてくれるとは好都合……貴様らを倒せばエンフィールドは我等の物……と言いたい所だが、実はもう兵力をエンフィールドに送っているのだよ。」

「何!」

 ヴァンゲスの一言に動揺していたトウヤとイリアの目には、一瞬の早業でルシードに背を切られてよろめいた彼自身だった。

「悪いな。一応こっちは戦争をやってるつもりなんだ。テメェの余裕ぶちかましている話に付き合ってられるほどヒマじゃないんだ。」

「貴様……貴様ぁ!」

 逆上し、コンマ一秒の速さで天井近くまで飛んだ直後、剣をルシードに振り下ろす。

 が、しかしその直後トウヤの蹴りが入り、ヴァンゲスは情けない格好で地面に倒れる。

「情けないな、魔物よ。所詮私になった醜い偽者の貴様にはそれが御似合いって所かな。」

 倒れたヴァンゲスに追撃をかけようとしたトウヤ達に場違いなほどの軽い声が入る。

「え?え?ええ?なな、何で?何でヴァンゲスが二人いるのさ。」

「貴様……どうやって牢から脱走した!いや、それ以前に貴様は魔薬漬けにして置いた筈だ!」

「残念だったな。つい数日前……ルシード達がエンフィールドを出てから治療が完全に終了したんだよ。じっくりしっかりゆっくり回復魔法を私自身に使ってな……ずっと魔薬を飲まされてたら今でも牢屋の中だろうがな。ああ、そうそう!ついでに言っておくけど、あんな鎖で私を縛っておいたつもりだったんだろうけど、私の魔力を持ってすれば、楽勝だったよ。」

 偽者の言葉に、本人はニッと笑顔を浮かべる。勝利を確信した笑顔であった。

「ええい!ならば俺の正体を見せてやる!どちらにしても俺の勝利だ!今更後悔しても遅いぞ!」

 叫んだ直後、偽者は衝撃波を放った後、その正体を表す。

「げ……確かにこれは後悔してもしょうがないかも……」

 カインの一言を象徴するように、魔物は死を司る死神のような姿をしたオーガーだったからだ。

「フ……ルシード。ここは私に任せるべきだよ。」

「……分かった。任せる。」

 ヴァンゲスの一言にルシードは呆れ半分に承諾する。

「ま、この国に仕官してから私はとある魔法の研究をしていたのは知っているな?デス・オーガー殿。」

(そうなのか?)

 目の前にいる魔物に対し、偉そうに語り始めるヴァンゲスを目に、ルシードは心の中でツッコミを入れる。

「数人がかりでようやく生き延びられる程の魔力を必要とするヴァニシング・セイント・ノヴァ……あれの威力を8割に抑えつつも、消費魔力を半分以下にしたという私自身でも驚いてしまった魔法……私はこの魔法にヴァニシング・ノヴァという名前を付けた。それを君にプレゼントしよう。」

「お、おい!ルシード!あんなにペラペラ喋っていいのか?」

 必要性を感じない説明をペラペラと喋るヴァンゲスに不安を覚えたカインは隣にいる友人に叫ぶ。

「……回避できなければ、意味が無い。の良い例のたとえじゃないか?……多分。」

 青くなりながらもトウヤは同じく青くなっているルシードの代わりに答える。当の本人は魔法の詠唱に取り掛かっている。

「さて、と。久しぶりに使うにはかなりキツかった……が、これで完成だ。醜い貴様もこれで見納めだと思うと少々気が引けるが、決めさせてもらうよ!ヴァニシング・ノヴァ!」

「や、やめ……!」

 魔物が叫ぶ直前に、ヴァンゲスの放った光の魔法の直撃を受け、その姿を消し去った。

「さて、と。詳しい説明は、母さんがいる席で、でいいね?」

 視線でヴァンゲスはルシードに確認をとる。

「それ以前にまず国王を探さなきゃいけないんじゃないの?」

 トウヤの言葉で皆が頷き、ヴァンゲスの案内で国王の間に走り出した。

 

 

 後にアルベザード侵攻戦争と呼ばれるエンフィールドとアルベザードの戦争は、11月15日この日に終結した。

 アルベザードの国王は、偽者のヴァンゲスに騙されて各国に侵攻を開始したという。

 これをきっかけにアルベザード王は国の忠臣であるノール・フェブリルに王位を譲り、チェリスはティート・レルツを妻に迎えた。

 ヴァンゲス・アスティアは生きて母・アリサ・アスティアとの再開に喜び、ルシード・アトレーはシェール・アーキスとの約束を守り、リーゼ・アーキスは幸せそうな二人を姉として祝福した。

 シーラ・シェフィールドはカイン・ジェルフトとの婚約を発表し、セリカ・ラニアード・メスティナは、アルベザードの古代兵器の能力を奪おうと画策するも、トウヤ・ジン・クラシオとその妻・ユミール・エアル・クラシオに阻止された。

 カスミ・スオウは幼馴染の椿亮にプロポーズされ、フェイン・ジン・バリオンは二度の傷心を糧に騎士への道を切り開く決意をする。

 終戦の宴の中、人々は争いの終焉を喜び、戦士達はその中に正義も悪も無い事を学び取ったであろう……。

 

 最終章へ続く。

 


 後書き

 まず最初に、ヴァンゲス・ヴァルトという男について。

 彼の事は本文に掲載されている通りです。

 「こいつ強いんだからさぁ、魔法で何とかしろよ!」とかいう抗議だけは止めてください(笑)。

 それはともかく、次で最終章です。

 ここまで読んでくれた皆さん。本当にありがとうございました。

 

 

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