戦争の中の正義と悪 

 

 

章 真実 〜いざ!最終決戦へ!〜

 

「よう!無事かい?」

「トウヤ!」

 アルべザード最後の将軍・ヴァンゲスを退け、何とか戦いに勝利した次の日、トウヤはもはや野戦病院と化した場所へと顔を出した。

 ヴァンゲスに怪我をさせられたユミールのいる所が分かりやすいのは、医者二人……トーヤ・クラウドとガボンの親父の気遣いだろうか……そう思うと、トウヤは二人に感謝しなければならない。

「アンタね。見舞いに繰るなら、酒の一つでも持ってくるもんだよ。」

「誰がお前の見舞いに来たと言った?」

 ユミールの近くでバーシアがぶつくさと文句を言っていたが、トウヤはそう返す。

「あぁ、違うの?」

 トウヤの言葉にバーシアはワザとらしく笑う。

 前日の雨のせいだろうか。近くの花々にいつも以上の美しさを感じられるため、ユミールの表情が安心しきったものになっている。

そのユミールの表情を見てトウヤの顔は赤くなる。

「それで、トウヤ……あの、あのね……」

「どうした?」

トウヤが聞くと、ユミールは恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向く。

「三ヶ月……なんだって。」

「え?え?お、俺の?」

 慌てたようなトウヤの言葉にユミールは耳まで赤くなる。

「へぇ、おめでたねぇ……」

二人の会話を直に聞いていたバーシアの言葉で、二人はさらに赤くなる。

「そんなことより、アリサさんがアンタのこと、探してたよ。まぁ、行かなくてもいいけどね。」

「おい、どこ行くの。」

「ラブラブカップルを見てるのはツライからね。あたしは別のところに行かせてもらうよ。」

 その言葉で、愛し合う二人はさらに頬を赤くしていた。

 

 

「では、やはり……」

「はい。魔術師である彼の残りの戦力は、召喚された魔物と推測されます。」

 自警団事務所で、ゼファーとリカルド、そしてルシード達が、元々敵であったイリア将軍達に話を聞いていた。

 その時、ドアがノックされ、一人の女性が入って来た。

それは、先日ヴァンゲス将軍に操られ、トウヤやルシード達に怪我をさせてしまったアリサ・アスティアだった。

「どうしたんですか?恩師。」

 驚いたルシードが声を上げる。

「ええ、アルベザードのヴァンゲス将軍についてなんですけど。」

「あの男について?」

「え、ええ。彼のことで、ちょっと、頼みたいことが。」

「何でしょうか。」

「彼の、いえ、あの子をすぐに殺さずに、私の所に連れてきて欲しいのです。」

その言葉によって、ルシード以外の皆が驚いた表情をする。

「恩師、トウヤを連れてきますか?」

「え、ええ。お願いするわ。」

「しつれいします。」

ルシードが部屋を出ようとしたときに、トウヤが入ってくる。

「ちょうどよかった。恩師がお前にも話があるってさ。」

「?重要な話か?」

「ああ。」

ルシードの声にトウヤは神妙な顔を作り、近くの椅子に座る。

「ヴァンゲスの話?昨日、ルシードがアリサさんの考えとか何とか言ってたけど。」

「ええ。単刀直入に言うと、ヴァンゲスは私の息子に当たります。」

「ほえ?む息子ぉ?」

アリサの言葉に、トウヤは素っ頓狂な声を上げる。

「ええ。ヴァルトは私の夫のファミリーネーム。」

「ルシードはこのことを知っていたのか?」

「まぁな。俺もエルも、アリサさんがこの町に戻る前から師事してるからな。アリサさんが俺達の集落にいた時に師事したんだ。」

「だけど、アリサさんがこの町に戻ってきたとき、つまり、8年前アリサさんがお父様の後を継ぎ、ジョートショップを再開したときには、ヴァンゲス将軍はいませんでした。」

 ルシードの言葉で、メルフィがアリサに聞く。

「ええ。ヴァンゲスは当時18歳で、他の国に出ていて、もう集落にはいませんでした。」

「ちょっと、いいですか?ヴァンゲス将軍が、魔物を召喚できる力があるなら、アリサさんも魔物を?」

「いいえ、元々あの子に魔物を召喚する力はありません。」

ティートの疑問に、アリサは簡単に返す。

「だんだん飲み込めた!つまり、ヴァンゲスは何らかの力で普通じゃない!要は悪魔か何かに操られてるとかそんなんだな?」

「そこの所を確かめるために、あの子を連れてきて欲しいのです。」

アリサの言葉で、自分の考えが間違ってないとばかりに喋り出したトウヤはずっこける。

「要は、まだ確信が持てないので、首を絞めてきてでも連れてきて欲しい、と言うことですね?」

「そうです。お願いできますか?」

アリサの願いは、その場のメンバーに限っては、一致で承諾だった。

彼女は町の皆に慕われているため、その彼女の願いを無下に断ることが出来ないと言うことも含まれていた。

「捕まえるにしろ倒すにしろ、こっちから攻撃した方がもはや得策だろう。バーシアの怪我が完治した次の日に、攻撃を開始する。」

「りょーかい!」

 ルシードの言葉で、会議は終了し、メンバーは解散した。

 

 

そして、出撃を次の日に迎えた夜。

「ゲン、アンタ、本当に行くの?」

さくら亭で、ロザリー・テオラ・メルセーヌは、弟・ゲンに心配そうに聞いた。

「大丈夫だよ。足手まといにはなんないよ!」

「ま、出た方がいいかもね。父さんみたいな騎士になるには、だけど。」

「へへっ!」

姉の言葉でゲンは笑う。

「だけど、条件があるわ!」

「何?」

「アンタの大切なお姫様のために、絶対に帰ってくること。」

そう言うと、ロザリーは目の前にいる少女の肩を押し出す。

「ゲンちゃん……」

その少女はゲンの顔を見上げると、少し顔が赤らめる。

3年前の戦争では殆ど同じ程度だった背も、今や5センチは違う。

男のゲンにとっては凄く嬉しいことである。

「分かってる。おいら、メルヴィの為に絶対に帰ってくるから、心配しないで!」

「う、うん。ありがとう、ゲンちゃん。」

 

 

「ロザリー、本当によかったの?」

二人きりにしようと、ロザリーがその場を離れると、パティに話しかけられた。

「何が?」

「ゲンのことよ。」

「あの子も、父さんの血をひいているからね。しょうがないわ。」

 ロザリーは悲しそうに答える。

「そう……戦いが終わったら、どうするの?」

「元いた世界に戻る方法が見つかり次第、帰ると思う。」

「そう。仲良く、なれたのにね。」

「うん。」

「だけど、しょうがないか!私がアカルディアに来たときは、案内、お願いね!」

 パティの冗談交じりのセリフに、二人は静かに笑っていた。

 

 

「チェルス将軍。」

 公園で素振りをしていたチェルスに、ティートが話しかける。

「ティートか。どうしたのだ?」

「いよいよ、明日ですね。」

「ああ、そうだな。」

「あの!将軍!」

「どうした?」

「い、いえ、なんでもありません……」

そして、ティートは恥ずかしそうに俯く。

「ティート。」

「はい。」

チェルスに声を掛けられても、彼女は顔を上げない。

「顔を、あげろ。」

「だ、だめです。私……恥ずかしくて……」

「ならば……」

そう言うと、チェルスはティートの顔を上げて、強引に彼女の唇を奪う。

「しょ、将軍!」

慌てて顔を背けようとするものの、チェルスの力にはかなわない。

「お前の気持ちは前々から分かっていた。だが、きっかけが無かった。そこの所は悪かったと思っている。」

「だ、だけど!私、将軍と同じ種族じゃない!私、エルフだから……人より、長く生きる種族だから……。」

「種族が違うからと言って、結婚できないなんて法は世にはない。」

悲しそうに喚くティートに、チェルスは諭すように話しかける。

そして、彼女を優しく抱きしめる。

ティートはいつしか、泣きじゃくっていた。

「今の私には、これぐらいしかできない。が、いつか、お前の気持ちに報いる日を待ってて欲しい。」

「はい……」

 

 

「シェール。」

「あれ?どうしたの?ルシード君。」

 ルシードはシェールがクーロンヌからの帰り道に立っていた。まるで、シェールを待っているかのように。

「あ、ああ。頼みたいことがあるんだ。」

「なに?」

「ああ。お前の髪に付けているリボンをしばらく貸してほしいんだ。」

ルシードの唐突な頼みに、シェールは面食らった顔をする。

「戦いに出る戦士は、皆美しい貴婦人が身につけている物を所持していた。ついさっき、その話を思い出してね。」

「ルシード君、もしかして、冗談のつもり?」

シェールはさもおかしそうに笑い始めた。彼の言葉を冗談としか思えなかったのだ。

「あのな。俺は本気なんだが。」

「だけど、美しいってお姉ちゃんのことでしょ?私はせいぜい可愛い止まりよ。それに私、貴婦人って言うには活発すぎると思うけど。」

「同じようで違う、違うようで同じ、ってヤツだよ。いーじゃねぇか。くれって言ってる訳じゃねぇんだし。」

「まぁ、いいけど。ちゃんと返してね。これ、お気に入りのリボンだから。」

「すまねぇ。どういうつもりで言ったのかは後でしっかり言うから。」

そう言うやいなや、ルシードは自警団寮へと走っていった。

「どういうつもりかって……はっきり言ってよね……」

憎まれ口を叩きながらも、シェールの顔は赤みがかかっていた。

 

 

「メリッサ、この戦いが終わったら、どうするつもりだ?また、オーストラリアに帰るのか?」

「さぁ、どうでしょう?」

町の中でシィウチェンとメリッサは二人で散歩をしていた。

「だったら、お前の育った国を見せてくれまいか?」

「あら?どういうつもりかしら?」

「ふっ、分かってるだろう?あの男……トウヤみたいな男にはなれぬが、私とてクロビスに比べればいい男のつもりだ。」

「あら。私にとっては、シィウチェンが一番いい男よ。」

「ならば、お前の両親に会わせて欲しいな。」

「墓の下にいると言う条件だったら、いいわよ。」

メリッサは冗談交じりの言葉を言うと、シィウチェンの頬に指を突っつけた。

 

 

「亮ちゃん、いよいよ、明日なんだね。」

「ああ。足が、震えてる。」

 さくら亭の一室で、カスミが亮の部屋に入っていた。

「トウヤみたいに、神経が図太い訳じゃねぇからな。そう言う面じゃ、アイツ、すげぇよ。」

「いろんな意味で、ね。」

その言葉で二人は苦笑いを浮かべる。

「亮ちゃん、私の為に死んで……って言ったらどう思う?」

「あ?」

カスミの突然の言葉に、亮は驚いた声を上げる。

「ふふっ、冗談だよ。元の世界に戻っても、ずっと一緒にいようね。」

「あ、ああ。」

亮の返事を聞くと、カスミは部屋を出ていった。

(ずっと一緒に……か。)

亮は、カスミの言葉を、次の朝まで何回も繰り返していた。

 

 

「シーラ。用事って何?」

シェフィールド邸の前で、カインはシーラに呼ばれていた。

「うん。ちょっと、聞きたいことがあったの。」

「何?」

「カイン君は、いつから傭兵になったの?」

「ああ、そこんところ、あまり話してなかったな。12のころ、つまり10はやってんのかな。」

「そ、か……」

「どうしたの?」

カインは、シーラの表情の暗さに疑問を抱き、顔をのぞき込む。

「うん。私ね、カイン君のこと、あまり知らなかったから……。」

「そういや、そうだな。俺が自分のことをあまり話さないのがいけなかったんだけど。」

「え?ううん、カイン君のせいじゃない。カイン君の事を知ろうとしなかった私が悪かっただけ。」

カインの言葉に、シーラは顔を思いっきり横に振って否定する。

「ま、俺達には時間が沢山あるって。ゆっくり俺のことを知ってくれればいいさ。この戦いが終われば、俺も自分自身をさらけ出せるような気がするしな。」

「カイン君……」

「まてよ?もし、そうなるならこの戦いは死んじゃいけねぇって事か?ってね。最初から死ぬ気なんてねぇけどさ。」

カインの冗談じみた笑いに、シーラもつられて笑い出す。

(こりゃ、死神は止め時かもな……)

 シーラの笑顔に、カインは本気でそう思っていた。

 

 

「うーん、ライザにリーザに……あぁ、リーナにレナって名前もあるか……うーん……」

 亮とは別の部屋で、トウヤはぶつぶつと独り言を言っていた。

「どうしたの?トウヤ。」

「ひゃぁっ!あ、あぁ、ユミールか。」

「何を考えていたの?」

「あ、ああ。子供の名前さ。昨日、ドクターが女の子だって言ってたろ?」

トウヤの返事に、「成る程!」とユミールは腑に落ちる。

「やっぱり、単純でいいからウェニマスにしようかな……」

「気が早いのね。」

「そーかなぁ。」

ユミールの言葉に、トウヤは難しい表情をさらに難しくさせる。

「うふふ……やっぱり貴方って強い人ね。明日の戦いは絶対死なないって感じがするもの。」

「え?」

ユミールの不意打ちに、トウヤは驚いた表情をする。

「何でもないわ。それじゃあ、お休み。」

「ああ、お休み。」

トウヤはこの日、一睡も出来なかったという。

 

 

そして、決戦の日の朝。

「みんな、集まったな。」

エンフィールドの門前で、リカルドが確認を取る。

そこには6万近い兵が集まっていた。

「隊長さん。もうそろそろ時間だぜ。」

トウヤが腕時計を見て、リカルドに話しかける。

「よし、全軍、行軍初め!」

エンフィールドに属する、全ての自警団員とアルベザード兵、そしてトウヤ達がアルベザードと言う国へ向けて先進を開始した。

アルベザードとエンフィールド……どちらの国に勝利の女神が微笑むのか……

それは、神々ですら分からないのかもしれない。

 

 

第八章へ続く

 



後書き

とうとう第7章が終わりました!

次回で最終決戦が始まります!

ヴァンゲス将軍とアリサの関係が意外な展開にもってってしまいました。

こんな展開になるとは作者である私でも想像出来ませんでした(笑)。

しかし、アリサさんの実年齢って一体全体何歳なんでしょうね?(こんな事は言ってはいけない約束なんでしょうが)

と、言うことで、次回お楽しみに!


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