戦争の中の正義と悪

 

 

第二章 戦争勃発

 

 

「何だと!戦艦の召喚は成功したが、エンフィールドの保護下に入っただと?」

アルベザード城の一室、国王風の男は魔術師の報告を聞いていた。

「は、現在その中にある兵力の25%から40%を残し、エンフィールドの中に入っているようです。」

「……やはり召喚して確実に手に入れるという方法は間違っていたか……」

「確かにこの方法は間違っていたかもしれませんが、その中にいる戦力を確かめさせておりますのでご安心を。」

「分かった。任せたぞ……」

「御意に」

そう言って魔術師は一礼し、部屋を出ていった。

 

 

トウヤ達がエンフィールドに飛ばされた次の日、さくら亭の二階……つまりは宿の一室の中で、トウヤは昼頃、目が覚めた。

「ふぇぇー。よく寝た。今は……12時24分……カスミ達の世界と同じ時間感覚か。」

時計を見つつ、トウヤはこの自分の言葉でトウヤは俺達という表現はアカルディア流になってしまうと言うことを自覚すくことが出来た。

(ま、どの世界でも日が昇れば起きるし、月が上れば眠る。ただそれだけだ。)

らしくない自分の考えにトウヤは微笑し、食堂へ向かった。

「あぁ、やっと起きたんだ。えっと……」

「トウヤ・ジン・クラシオだ。パティ・ソールさん。」

「あぁ、そうだった。アタシのことはパティでいいよ、トウヤ。」

「分かった。パティ、それよかユミールは?」

「あっちよ。」

パティが指さした方向には、酒を飲んで楽しんでいる、皇と由羅、そしてバーシアがいた。

ユミールはその三人を見て困っているという感じであった。

「ユミールって結構苦労人なんだね。あの三人を止めようだなんて……坊や、アンタ手伝ってきなよ。」

ユミール達を見て、呆れた表情をしているトウヤにカウンターで昼食を食べているリサが突っ込んだ。

「おーい、ユミールー!」

「あ、トウヤ。ちょっとあの三人を何とかして頂戴。」

「確かにこりゃ止めた方がいいかもな。」

トウヤが現場にいって様子を見ていたら、カウンターの中で見るよりも(考えようによっては)ひどい状況であった。

「あら〜、風見君、貴方もお酒飲んでみる?」

「結構行けるのよね〜。」

「そうそう、地酒なんてサイコー!」

「どーでもいーけど、他人に迷惑をかけるまで飲まないでくださいよ。」

苦笑いを浮かべ、半分酔っぱらいの三人に言葉を発するトウヤであったが、その三人はまるで気にしないように、次々と酒を入れていった。

「風見君、そんな堅いコト言わないでさ〜!センセがお酌してあげるから〜。」

 完全に酔っぱらいモードでトウヤにからむ皇ではあったが、呆れた表情のトウヤには気が付いていない。

「酌したあと、顔面に酒ぶっかけるってオチですか。あーやだやだ。俺はこんな師匠持った覚えないのになー。」

「誰がそんなことするってぇ〜?」

「センセ。もしくはそっちの酔っぱらい二人。」

「へぇ〜。風見君、貴方、そんなこという子だったんだぁ〜。センセ、風見君をそんな子に育てた覚えないな〜。」

「安心して下さい。センセ。俺もそんな風に育てられた覚えはありませんから。」

二人のやりとりを目の前に、遠巻きに様子を見ていたパティとユミール、そしてリサと他の酔っぱらい二人は(な、なんて恐ろしい戦いなんだ……)と思い、由羅とバーシアの酔いが今にも醒めてしまうぐらいであった。

そんな戦いがあるとも考えられず、さくら亭の戸が開けられた。

中に入ってきたのは、クリスやシェリル達と共に学園に通っている、フローネ・トリーティアと、シェール・アーキスだった。

 ちなみにシェールはさくら亭と同じ通りにあるケーキ販売と喫茶店をやっているクーロンヌでバイトをやっている。

「あら、フローネじゃない。アンタも昼飯を食べに来たのかい?それにシェール、アンタ、バイトはどうしたんだい?」

「失礼ね!今日はお昼でからなの!それよりそっちの男前の人がこっちに来た人たち?」

「……トウヤ・ジン・クラシオだ。アンタらは?」

 パティが運んできたスパゲッティを口に運びつつ、トウヤはやや不機嫌そうに受け応えた。

「あ、私はシェール・アーキス。こっちはフローネ・トリーティア。よろしく、色男さん。」

「私はユミール・エアル・クラシオ、こちらはアヤカ・スメラギよ。よろしくね。お二人さん。」

「へぇー。同じ「クラシオ」でも全然雰囲気が違う……ご夫婦?」

シェールのその問いにあえてトウヤは答えず、「ふっ」とユミールに笑顔を見せた。

「それよりシェール、アンタ、ルシードはどーしたのさ。」

「え?ルシード君?今日はゼファーさんに用があるって。」

「姉妹で同じ男に惚れるなんて、ついてないよね〜。まぁ、リーゼの場合は意気投合しているって感じだけど。」

「うん、ルシード君とお姉ちゃんって結構馬が合うみたい。考えが同じって言うかさ。」

バーシアがからかい半分でシェールに詰め寄るが、シェールは苦笑いでそれを交わしてしまう。

トウヤはこの団体にいる男が自分一人となっているのに気がつき、居心地が悪そうにユミールを連れ立ってさくら亭を出ていった。

「あの坊や、結構照れ屋だね。」

トウヤが出ていったのを確認して、リサは豪快に笑い出した。

「結構、カインかルシードに雰囲気が似てるって言うかさ。そんな感じ。」

「カインさんにルシードさん?確かにそうかも……」

バーシアの考えは周りの考えと完全に一致していた。

「カイン……さん?」

「ああ、アヤカさんは分からなかったっけ。カイン・ジェルフト、ここに近い場所にある何でも屋にいた居候よ。まぁ、いまは色々事情があってエンフィールドにはいないけど。」

バーシア達の会話についていけない、皇の表情を見て、パティは簡潔に説明をした。

「それよりリサ、あいつと一緒に行かなくていかったのかい?」

「まぁ、そうしたいけど、シーラに嫉妬されたくないからね。それにアリサさんのピザを食べられないのもちょっとね。」

「リサらしーわ。そーゆーとこ。」

由羅の言葉に、皆が皆笑い出していた。

 

 

トウヤとユミールは、さくら亭を出た後、陽のあたる丘公園と呼ばれる公園に足を運んでいた。

 陽のあたるという名の通り、天気が良いこの日は、太陽が眩しく、休日も手伝って程々に人が入っていた。

「結構人が入ってるもんだな。公園が広いと言うこともあるんだろうけど。」

「そうねぇ〜。天気も良いし、気持ちいいしね。」

「俺はユミールが隣にいてくれるなら、結構楽しいけどね。」

「と、トウヤ……」

トウヤのさりげない口説き文句にユミールは態度がしどろもどろになっていく。

「おにーちゃーん!おねーちゃーん!」

「ん?ああ、メルヴィか。」

「どうしたの?」

「えっとね、おいしそうなケーキ屋さんを見つけたんだけどメルヴィ達だけじゃつまらないから、お姉ちゃん達も誘おうと思って。」

「ケーキ屋ね……俺はかまわないけど?」

そういいつつ、トウヤはユミールの了解を視線で聞く。

「それじゃあ、行きましょうか。」

「うん!」

 

 

「ここか?ええっと……クー……ロンヌ……って言うのか?文字は英語に近いな……言葉はアジャスターがあるとは思えないから、通じてるのは魔法が理由だろうな。」

 ケーキ屋……クーロンヌの看板を見てトウヤは自分の考えを呟く。

「まぁいいじゃないトウヤ。早く入りましょう!」

「で、クルル。お前、何でここにいるんだ?」

 そそくさと入ろうとする赤毛の少女をトウヤは慌てて制する。

「何でって、メルヴィやゲンと一緒にいたに決まってるでしょ?」

その言葉にトウヤは(チッ、出歯亀小娘が)と思ってしまうものの、あえて口や顔には出さない。

「とりあえずオープンカフェか……結構いい雰囲気……おいユミール。」

「どうしたの?」

店に入って、店の雰囲気を感心しつつ周りを見ていたトウヤは、ある物をみて、ユミールに声をかける。

「あの二人どっちが店長だ?俺はあっちの若い方が店長だと思うが。」

「え、そうじゃないかしら。」

「どっち、だろ?」

「どっち、かしら?」

メルヴィ達とは別に、二人のどちらが店長か分からなくなっているトウヤとユミールは、当の二人と目が合わさって、慌てて、メルヴィ達がいるテーブルについた。

二人が遅れたのをメルヴィが聞くものの、トウヤはクールに、ユミールは慌てて何でもないと切り返す。

「ご注文は……あれぇ!トウヤ君にユミールさん!」

その5人にオーダーを取ろうとした少女の裏返ってた声が聞こえた。

「ん?あぁ、シェールか。」

「この店に来てくれたんだ。」

「兄ちゃん、知り合いか?」

「たまたまさくら亭に来たヤツだよ。」

「それより、シェールさん、あの二人どっちが店長なの?」

「俺も聞きたい。」

ゲン達に愛嬌(もしくは営業用スマイル)を振りまきつつ、オーダーをとるシェールに、二人は先程から疑問に思っていたことをぶつけてみる。

「ああ、金髪の方は私のお姉ちゃんのリーゼ・アーキス。とりあえずパティシエの修行中だから、店長はもう一人の叔父さんでデボンさん。」

その言葉で、二人はリーゼとデボンを見比べる。しかし、いくら二人を見比べてもリーゼの方が店長にしか見えなくなっている。

「ちょっとちょっと、シェール!大変だよ!」

「トリーシャにルーティじゃない、どうしたの?」

オーダーが終わった直後に、ルーティとトリーシャと呼ばれるやや栗毛の少女が入ってくる。

「うん、それがねアルベザードが宣戦布告してきたって!」

「なんだってぇ!」

ルーティの言葉にいち早く反応したのはトウヤだった。

「ルーティ!お前、それを何処で聞いてきた!」

「うん、こっちのトリーシャ、リカルドさんの娘さんなんだけど、彼女、リカルドさんがその話を聞いていたんだって!」

「そうか。ユミール、リーボーフェンにいるクロビスやフェイン達に連絡を取って、こっちも対策をとった方がいいな。」

「そうね。」

 そう言って、ユミールはphsを取って、リーボーフェンに連絡をとる。

「おい、トリーシャとか言ったな。」

「う、うん、どうしたの?」

「リカルドさんは何処にいる?知ってたらそこに案内してくれ!」

「わ、分かった!」

「兄ちゃん、おいら達は?」

「とりあえず、お前ら三人は、リーボーフェンに合流してくれ。さくら亭にいるセンセ達といっしょに行ってくれた方がいい。」

「分かった。」

ゲンが返事をするやいなや、トリーシャとトウヤは、走り出した。

「戦争か……俺達は何も出来ないのかねぇ……」

デボンはため息をつきつつ、ぼやいていた。

(私達は、食事を作ることぐらいしかできないわ……)

リーゼは心の中で、そう呟いた。

 

 

1時間後、自警団の本部の中で、アルベザードの宣戦布告対策の会議が始まっていた。

「それで、敵の数は?」

「アルベザードの兵数は約10万、こちらの約10倍です。それを5個大隊に別れ、それぞれ2万に別れています。」

 リカルドの声に、魔法で敵の状況を調べていたルシードが答える。

「と言うことは、国王自ら指揮を執る大隊がある。そして残りが四天王だな。」

「ええ。国王と四天王が指揮を執り、確実にエンフィールドを自らの領地にしようと思っているようです。」

「で、どうします?白旗、あげると言う訳じゃあないでしょう?」

「当然だ。周りは山や川は無いが、大軍には大軍なりの弱点があるはず。そこをつければ勝機はある。」

「まぁ、当然ですね。それに私達の町を簡単に占領されるわけには行きませんからね。」

「リカルドさん。」

この本部にいる皆が、やる気を見せる合間に、トウヤがリカルドに声をかける。

「どうしたのかね?トウヤ君。」

「リーボーフェンのみんなが出した結論なんだけど……」

「力を、貸してくれると?」

「俺達の中で戦いが出来るヤツだけ、と言うことですが、俺と、クロビス、アーサー、シィウチェン、メリッサ、フェインだけなら、戦えます。他の奴らも輸送隊とかそんなところなら出来ますからね。とりあえず、みんなリーボーフェンで待機させてます。」

トウヤはそう言った後、ニッと笑顔を見せた。

トウヤは自分たちが負けるという考えを微塵も持っていなかった。

「有り難う……トウヤ君。」

「アンタ達がいてくれたら100人力だよ。」

「まぁ、あなた達が手伝ってくれないと言う結論にはならないと思ってましたしね……」

「せいぜい足手まといにはならねぇでくれよ。」

「頼りにしてるぜ。トウヤ。」

「分かった。出来る限りのコトはさせて貰うぜ。」

そしてトウヤ達は、この町にいる自警団と共に、町を守る事にした。

この町で、彼らの運命はどのように待ち受けているか……それは、彼ら自身にも、知る由は無かった。

 


第三章へ続く




 

後書き

どうも、第二章になりました。いかがだったでしょうか。

これからが本番の戦争になります。これからの展開がどうなるか……

とりあえず、ライブレードや悠久幻想曲が分からない人も多いと思いますが、楽しみにしてくれれば嬉しいですね。

では三章でお会いしましょう。



SSトップに戻る HPに戻る