グゴオオオオオオッ!!

 

ヴォ−リア崩壊が始まる。

 

ヴォ−リアを破壊する為に中心部に突入したライブレード。

漆黒のライブレードを倒した後判明した結末。

ヴォ−リアを止めるにはライブレードを使ってコアを破壊する他ない。

巨大なエネルギーの塊であるコア。

ライブレードも無事では済まないであろう。

例えコアを消滅させても、それに伴うヴォ−リアの崩壊に巻きこまれる。

 

それが現実。それは構わない。

しかし、もう一つの現実。その現実にトウヤは耐えられなかった。

 

だから…

 

(このまま時が止まればいい。)

 

その願いはトウヤの背中に回されていたレオ−ネの手が下がってしまった時終っていた。現実を見ていたくなかった…だから目を閉じた。

しかしヴォ−リアの崩壊によって闇に覆い尽くされてたトウヤの世界は否応無しに現実に引き戻される。

 

「…」

目を開く。2度と目を覚ます事のない少女を抱きしめている現実。

「…レオ−ネ…ごめんな…」

「トウヤ…」

ヤマトもそれ以上何も言えない。

「…ヴォ−リアは俺が止める。この命に代えても…」

自分が今やらなければ行けない事を…トウヤは受け止める。

「トウヤ、行こう!」

「…………!!」

ヤマトの掛け声と共に決意を固める。

崩壊していくヴォ−リアの中心部に蠢く巨大なコアの前に立つライブレード。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

トウヤの咆哮とともに、ライブレードは赤く染まり

ヴォ−リアのコアを叩き切った!!

 

 

ライブレードSS 時の歯車(後編)

 

「ここ、どこ?」

レオ−ネは気が付くと見た事も無い不思議な空間に浮かんでいた。

天も地もわからない不安定な所。

この不安定な世界で彼女をしっかりと抱きしめている人・・・トウヤが答えた。

「ここは次元の狭間だ」

「次元の狭間?もしかしてトウヤも死んじゃったの?」

レオ−ネはトウヤの胸の中で死んだはずだった。だから彼女は“次元の狭間”を死後の世界と認識したのだ。

「・・・違うよ。お前のトウヤは・・・生きてる」

「?。ふふふ、変な言い方だね」

「そう・・・だな」

レオ−ネにつられてトウヤも微笑む。

「きっと夢、なんだね。でも最後にまたトウヤに抱きしめてもらえるなんて、ボク、もう充分だよ」

「バカ、お前は死んでないよ」

「えっ?だってボクは・・・」

「死なない、死なせないよ俺が。レオ−ネは生きる。そして・・・幸せになるんだ」

トウヤはレオ−ネを強く抱きしめながら必死に叫んだ。まるで自分に言い聞かせるように、本当に必死に…

「ありがとうトウヤ。でもボクトウヤに会えていっぱい幸せ貰ったよ?」

「あのなあ・・・もっともっと幸せになるんだ。そうだ、帰ったら一緒の学校に

行こうぜ」

「学校?」

「そうだ学校だ!俺の友達いい奴ばっかりなんだ。きっとレオ−ネもすぐ友達になれる。

それで一緒にメシ食ったり、遊びに行ったりしようぜ」

「ふふふ、楽しそうだね」

「そうだな。勉強とかもあるから楽しいだけじゃないけどな」

「それはイヤかも・・・」

「それから・・・そうだな、その・・・誰かと結婚とかして・・・」

「・・・トウヤ、わざといってる?ボクトウヤ以外の人と結婚なんてイヤだよ?」

目をそらしながらボソボソと喋るトウヤにレオ−ネは怒こったように呟く。

「・・・悪い、少し恥ずかしくてさ。俺と結婚して・・・その・・・」

「ボク子供欲しいな♪」

レオ−ネは今度は赤くなりながら喋るトウヤに笑い掛けて話を促す。

「ああ、そうだな。子供つくって家族で遊びに行こう。いろんな所行って、いっぱい

写真撮って、沢山の思いでを作るんだ」

「きっと楽しいね」

「楽しいに決まってる!そしてずっと、ずっと一緒に生きていこう。死ぬまで。いや

死んでも、ずっと・・・」

「うん。ずっと・・・一緒にいたいな」

トウヤはレオ−ネを強く抱きしめた。

 

実際のところ、レオーネはここがどこかはわからない。

抱きしめられていることは解る。でも感覚が無い。

抱かれた温もりも感じない。

(自分が死んでいるから?)

でもトウヤは死んでいないと言う。

2人の世界。永遠にここにいたい。

感覚は無くても心の奥底から・・・何か体を包み込むような

トウヤからの温もりを強く感じていると思えたから・・・

だからそれだけでいいと思えた。

 

どれだけの時間がたったのだろう・・・

 

2人だけの世界。そこに侵入者が、次元の狭間の彼方から

もう1人のトウヤの声が聞こえた。

 

『レオ−ネ』

 

「・・・あれ?トウヤ、変だよ。目の前にトウヤがいるのにどこか遠くからトウヤの

声が聞こえる・・・」

「・・・俺にも聞こえるよ。レオ−ネのトウヤが呼んでるんだ」

「ボクの・・・トウヤ?」

(この世界のトウヤはお前だけを見つめていた。そしてお前だけを求めてる。だから・・・)

「良かったな」

「?」

 

次元の狭間から帰るにはその人を本当に想っている人の力がなければいけない。

そう、それが・・・

 

『想いの力』

 

(きっとウェニマスがこの世界のトウヤに教えてくれたはずだ「想いは力」になると。)

「レオ−ネ、帰ったら俺にいっぱいワガママ言えよ。きっと全部叶えてくれるぜ」

レオ−ネに笑い掛ける。

「ねえトウヤ、さっきから何を言ってるのかよくわからないよ?」

レオ−ネの表情に小さな不安が広がる。

「・・・そうか、そうだよな。・・・なあレオ−ネ、キスしていいか?」

唐突にトウヤは切り出す。

それは大切な儀式。共生という名の、彼女が生き返るための大切な儀式だった。

「えっ?!ん、うん。・・・いいよ」

2人は見詰め合う。

「ね、ねえ、前もって言われるとチョット恥ずかしいね?」

沈黙に耐えきれずレオ−ネはトウヤに笑い掛ける。

「・・・そうだな、そういえば俺達始めてだし」

「あっ、トウヤもキス初めてなの?」

「えっ?!・・・いや、俺は・・・カスミと・・・でも事故だからな!」

「・・・他にはないよね?」

「うっ・・・その・・・セリカとも一回・・・これも事故だぞ!!」

「・・・ふーん、キスって事故で2回も起きるんだ?」

「悪かったって。でも本当にキスしたいと思ってちゃんとキスをするのはこれが

始めてだぞ?」

「クスッ、いいよ。許してあげる」

レオ−ネは目を閉じた。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 アルテリアス渓谷通称ノルゲの間といわれる場所に僅かに原型をとどめているライブレードがあった。コクピットに倒れているレオ−ネ。もう死んでしまっているかもしれない。

そしてその姿をヤマトが見つめていた。

「・・・レオ−ネ、帰ってくるよね?」

「おや、こんな所にいたのですか」

いつ現れたのだろう。その2人を見つめている男がいた。

「?!ベルンスト、あニャた生きていたの?!」

「おや、ヤマトさん・・・でしたよね。ええ、生きていました。あの程度で私が死ぬと

思いましたか?」

「・・・(最後みたいなこと言ってたじゃニャい)」

「それより、どうやら手遅れだったようですね。せめてものお礼をと思ったのですが・・・」

「ニャにがよ?」

「レオ−ネですよ。彼女とトウヤくんのおかげで私の長年の研究は完結したと言ってよいでしょう。そのお礼というわけでもないんですが、レオ−ネを助けてあげたかったのですがね」

「レオ−ネはトウヤが助けるわ」

「ほう?しかしトウヤさんの姿が見えませんが」

「もうすぐ帰ってくる。お礼がしたいニャら、あニャたも待ってにゃさい」

「・・・そうですか。ではしばらくお付き合いしましょう」

 

その時レオ−ネの身体が黄金色に輝いた。

 

「きた!」

「これは?」

光りが収まる。すると真っ青だったレオ−ネの身体に薄っすらと朱みがさしてきた。

ベルンストは彼女の手首を掴む。

「・・・驚きですね。彼女生き返りましたよ?」

「いったでしょう?トウヤが助けるって。さあベットに寝かせてあげたいわ。あニャた運んでくれる?」

「そうですね。わかりました」

 

 

 

 

 

いつもの通学路、すれ違ういつもの顔ぶれ

かわらない穏やかな日々…

だがその日はなにかが違った

なんだ、この胸騒ぎは…

なにかが起こる予感

 

 

"あなたのその想い、忘れないで。

愛する人を想う心を…

どんなことがあっても"

 

 

忘れたことなどない想い…

 

 

"想いの力は確かな力。

たとえ少しの可能性でも

想いつづければかならず叶うの…"

 

 

あきらめない想い…

気づけば俺は走りだしていた

頭ではわかっていた

だが心が身体を動かしていた

走る。全速でただ走る

学校に向かって

 

 

そして…

 

 

 

教室の扉をあける

 

 

……………………………………

 

 

静まり返った朝の教室

整然と並ぶ机

朝日が差し込む窓

風にそよぐカーテン

そこは時間を除けばいつもと変わらぬ光景だった

透夜「…ふっ…ふふ、はははは…」

なぜそんなことを思ったんだろう?

あるはずないのに、わかっていたのに

あいつが…いるなんてこと…

 

 

サワァ…

 

 

ひときわ強い風が教室の中を通りすぎていく

大きく揺れるカーテン

そのとき俺の視覚に萌木の色が入りこむ

 

 

!!

 

 

風が止む…

膨れたカーテンがゆっくりと元の姿にもどる

なぜ気づかなかったのだろう?

そこに…こんな近くにいたのに…

カーテンの向こう

そこには…

 

 

はねた髪、曇りのない澄みきった色と

好奇心を湛えた瞳…

愛おしさがこみあげてくる

 

 

透夜「あ…あ…」

思うように声がでない

手も足もまるで別人のモノのようだ

じっと俺を見つめるその瞳はほんの少し

戸惑いとも怯えともとれる色を浮かべる

 

一瞬の躊躇

考えたくない予感

胸が締めつけられる

だがそのすべてを拭い去るかのように

ありったけの想いをのせてようやく言葉を紡ぐ…

 

 

透夜「レ、レオ−ネ…?」

 

 

 

サワァ…

 

 

 

ほのかな朝の香りを乗せた風

優しく包み込むような朝の光

 

 

"どんなことがあっても彼女を信じてあげて。

あきらめちゃだめ。

想いは力だってこと、忘れないで…"

 

 

それまでの不安が嘘のように消える

そうだ、そんなことはいいんだ

ここにたしかにレオ−ネはいたのだから

その瞬間、俺は大きく踏み出していた。

 

 

彼女の…レオ−ネの元へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進まない・・・

 

 

 

しかし無限とも言える時の歯車がある・・・

 

 

 

でも無限ではない・・・

 

 

 

そして無限とも言える時の歯車を渡りきった時・・・

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

曇りのない澄みきった色と、好奇心を湛えた優しい瞳の少女が見つめている・・・

「酷いね。ずっとずっと待っていたよ。時は進まないのに・・・永遠って言葉を信じるところだったよ?」

拗ねた口調。しかし口元は笑っている。

「みんなを幸せにしてあげたんだね。本当に君は・・・優しすぎるんだから。ボクじゃなかったらきっとヤキモチをやいて待ってないよ?・・・ふふふ、嘘だよ。ありがとう。ボクを幸せにしてくれて」

「・・・ゴメン」

「違うよ!最初に言う言葉は違うでしょ?泣いてないでもう一度言い直して。そうしないと名前呼んであげないから」

そういった少女も涙を流していた。だが決して苦しいから泣いているのではない。

「・・・」

言葉がでない。やっと辿り着いたから・・・

「・・・た・・・」

言葉を振り絞る。

「・・・うん」

少女の口元が耐えきれずほころぶ

「ただいま」

 

 

 

この言葉の先に待っていたのは少女の満面の笑顔

 

 

 

・・・そして

 

 

 

 

「おかえりなさい、ボクのトウヤ」

 

 

 

時の歯車 完



あとがき