「本当に…行くの?」

「ああ、もう決めたからな」

知らない人間が見たらきっと不思議に思うだろう。10代後半の青年と黒猫が会話しているのだから。

「カスミにお別れ言えニャかったね…」

「…そうだな。でも言ったらきっと止められるから」

「あたりまえじゃニャい!!本当ならあたしだって!!…あたしだって…」

「ヤマト、お前は残ってくれてもいいんだ。カスミに世話になって…」

「バカ言わニャいで!トウヤ1人じゃ絶対上手くいかニャいわよ。行きましょう、せめて別のあたし達を、そしてあの子を幸せにしてあげましょう」

「…そうだな、行こうヤマト」

青年、トウヤは17年間生きた部屋を、家を見回す。

「父さん母さん、行ってくるよ。もうここには帰れないけど、俺は…」

それ以上言葉がでなかった。そして部屋の扉を見る。

「カスミ、ゴメンな。今までありがとう。お前は幸せに、な」

 




……




 

「トウヤちゃん、もう起きないと遅刻しちゃうよ?」

返事がない。

「まだ寝てるのかしら?」

カスミは2階に上がり、トウヤの部屋をノックする。やはり返事がない。

「トウヤちゃん開けるよ?」

扉を開ける。

「…トウヤちゃん?」

部屋には誰もおらず、彼女の言葉に答えるものはなにもなかった…

 





永遠に…





 

聖霊機ライブレード 

時の歯車(前編)






ゴォォォォォォッ!!



「じ、地震でしょうか?」

聖地の最高責任者であり、“教母”を務めるイヴェルは突然の建物の揺れに驚いていた。

「それにしてもながいわ、いったい何が…」

「たっ、大変ですイヴェル様!!」

錬金学士でユミール2世とも言われる才女エミィがイヴェルの部屋にまさに飛び込んできた。

「はしたないですよエミィ!いったい何事ですか?」

「す、すみません!ってそれどころじゃないんです!!ライブレードが…」

「ライブレードがどうしましたか?」

「ライブレードが動き出したんです!!」

「な、何ですって!そんなバカなことが!?」

30年近く動いていなかったライブレードが、そして機動キーであるはずのクリスタルがヨーク王国の王女アルフォリナの手にある以上、ライブレードが動くはずは無い。イヴェルが驚くのも無理はなかった。

「扉が、ライブレードが格納されている神殿の扉が開きます!!」



グオオォォォォッ!!



ライブレードは自ら神殿の扉をこじ開けた!

そして変形!!ライブレードは東の空へ飛び去って行った。

「す、すごい、ライブレードって変形できるんですのね」

「エミィ、ライブレードがどこに向かっているか測定してください!」

「は、はい」

放心していたエミィをイヴェルは正気にもどし、指示を与える。

「いったい何故?」

「測定、出ました!目標はおそらくアルテリアス渓谷!!」

「いそいでヨーク王国のアルフォリナ王女に連絡を、何かが起こっています!」

(まさか、もうゼ=オードが動き出した?)



この時、違う時の歯車が奇妙に回り出していた。

 



「わかりました。何とかしてみましょう…」

パチン!!通信のディスプレイが消える。ヨーク王国王女アルフォリナはその美しい顔を曇らせていた。

 ヨーク王国首都フラムエルクの会議室では王女アルフォリナ以下、宰相オズヴァルド、近衛騎士であり、三剣騎士でもあるタイロン、そして異世界の住人であるアイの4人が集まっていた。

「いったい、どういうことでしょうか?」

宰相オズヴァルドも困惑した表情で王女を見つめる。

「わかりません…いったい何が…わからない以上、ライブレードを止めなくてはなりません。タイロン、今動ける聖霊機は?」

「バルドック、ドライデスはパイロットと共に演習にでております。ビジャールも修理中、現在あるのは完成したばかりで未だ調整の出来ていないゼイフォン1機とパイロットはアイ唯1人です」

「…」

最悪の状況である。伝説の聖霊機の暴走を止める為に動ける機体は調整さえできていないゼイフォン1機であり、しかもパイロットはまだ操者として慣れていないのだ。

「私がゼイフォンで出る」

「アイさん…」

「そんな顔しないでよ、大丈夫!結構操縦にも慣れたんだから♪そのライブレ−ドって言うのがどう凄いのかわからないけど絶対勝って見せるわ」

アイはアルフォリナに精一杯の笑顔を見せた。

「ゴメンナサイ、アイさん。お願いします」

「任せて!!」

アイは会議室を出て、格納庫に向かった。

「エグゾギルム卿、出来るかぎりアイさんをサポートしてあげてください」

「はい。お任せください」



「出撃準備できたわ。いつでもいける!」

3分後ライブレードが上空に出現するはずです。そこをラウクルスで狙撃。これで止める事ができなければ、もう打つ手はないでしょう」

「…プレッシャーかけないでよ!でもまああたしは狙撃の方が得意だしね。何とかなる!」

「だとよいのですが…」

「…あんたうるさい!!」



そして3分、ライブレードが…来た!!

「えっ?ライブレードって飛行機なの?」

「変形できるそうです。アイさん、お願いします!!」

「解ってる!いっけーっ!!」

ゼイフォンの両肩にある砲台からエネルギー砲を発射!!



ズドォン!!



命中!ライブレードは聖霊機格納庫前の広場に墜落した。

「や、やったー!!」

アイのゼイフォンが墜落したライブレードに近づく。

「…うわっ、なんかさっきと形全然違うんだけど、壊しちゃったかな?」

「違う!アイさん、ライブレードはまだ動いています!逃げて!!」

「えっ!?」



グガキィィィン!!



「きゃああああっ!!」

ゼイフォンは突然動き出したライブレードに突き飛ばされた。

「…これが…ライブレードなの?」

漆黒の機体。そして真紅に光る目。アイには悪魔の機体にしか見えなかった。

「い、いや、怖い…」

アイは、いやゼイフォンは無意識のうちに12歩とライブレードから後ずさった。

「やはり無理か、私の機体が動けば…」

「アイさん…えっ!?」

その時、アルフォリナは何故かライブレードと目が合ったような気がした。

そして、ライブレードが近づいてきた。

「むっ、もしや王女を狙って!!」

タイロンが剣を構え、王女の前に立った。

ライブレードが王女達のいる会議室に手を伸ばす。

「ダメェッ!!」



ズガガガァァァン!!



ゼイフォンがライブレードの側面に体当たりし、そのまま異世界と地上とを結ぶ召喚施設のある建物に崩れ落ちた。



カチン!



その時オズヴァルドが何かのスイッチを押した。

「オズヴァルド!今何を!?」

ライブレードとゼイフォンが光りに飲みこまれ…そして消えた…

「オズヴァルド!お主いったい何をした!」

「…見ての通りです。召喚装置のスイッチを押してライブレードを異世界に飛ばしました」

「何という事を…アイさんが、アイさんまで…」

「申し訳ありません。しかし、私の務めは陛下を守る事。ライブレードが陛下を狙った以上、こうする他ないと判断致しました」

「むうっ…」

タイロンはそれ以上なにも言えなかった。

「…私を狙ったのでしょうか?」

アルフォリナはあの漆黒の機体に邪悪なものを感じなかった。むしろ暖かい、優しさのようなものを感じていた。

(いいえ、それ以上に何故か…深い悲しみを感じました…)



ガチリ!…また一つ違う時の歯車が動いた…







4月8日、金曜日 その日が日常の終りだと俺はまだ気づいていなかった…

 

 

漆黒のライブレードとアイの乗ったゼイフォンは光りに包まれた後、空の上にいた。

「えっ?キャアアアアッ!!」

飛行能力の無いゼイフォンはまっ逆さまに墜落していった。



ズガガがガン!!



何とか着地。そして漆黒のライブレードも同じ場所どこかの高等学校の校庭に着陸した。

「もう!何でいきなり空にいるのよっ!?って、ここは、地上?!」

そして目の前には漆黒の機体、ライブレードがいた。

「どっちにしろ、あいつを倒さないと…」

ゼイフォンは剛剣ゼウレアーを構え、漆黒のライブレードに突っ込んだ!!



ズガァン!!



「きゃあああぁ!!」

ゼイフォンはふっ飛ばされ、調整不足だったのだろう、その衝撃でハッチが開き、アイはゼイフォンの外に弾き飛ばされ…



ドカァッ!!…運良く?側にいた青年にぶち当たった。



「いったぁーい」

目を開けて回りを見る。すると

「…?」

ゼイフォンに乗り込もうとしている変な男がいた。

「あーっ!ちょっと、あんた!なにする気?!」

ちょうど側にあった手頃な石を見つけて

「えいっ!」

ゼイフォンに乗り込もうとしていた男に投げつけた。

「うごっ!」

男は不気味な悲鳴を上げて崩れ落ちた。

「よしっ!」

「…おい!人の上に乗っかったまま、なにガッツポーズとってやがんだ!?」

「え?!あ、ああ…ごめん!」

どうやら自分は今怒鳴った青年を下敷きにしていたらしい。

「…ったく…だいたいお前は…」

「…?どうし…あっ、危ないっ!」

青年がさらに文句を言おうとしていた時、漆黒のライブレードが近づいていた。

ライブレードの両肩の砲台?が黄金色に光る。ゼイフォニックブラスター!!

エネルギーの光りが…何故か青年の30メートル手前の地面に炸裂した。



ズガァァァン!!



アイは先程の衝撃で吹き飛ばされ、今度は校庭のサッカーゴールに絡まっていた。

「痛ったたたぁ…、って何?なんでゼイフォンが動いてるの!?」

通信機を使ってゼイフォンに呼び掛ける。回線が…開いた!

「ちょっと!誰よっ?!」

「なっ!だ、誰だ!?」

「それはこっちのセリフよ!あんた操縦できんの?!」

「あっ、お前、さっきの…よかった、無事だったんだな」

「え…う、うん。無事…じゃなくて!操縦したことあるのかって訊いてんのよ!」

「あるワケねぇだろ」

「…はぁ…だと思ったわ。アジャスターも打ってない人が…あれ?でも、よく機動できたわね。素質…あるのかな?まあいいわ、あたしの変わりにそいつを倒して!任せたからね!」

アイは通信を切る。

(賭けるしかない。あたしじゃ、あいつを倒せないから…)

そして…



ズガアァンッ!!…ゼイフォンの剣が漆黒のライブレードに突き刺さった。







「そうゆう…ことだったんだな、ウェニマス」

「…はい、ここまでは解っていました」

動かなくなった漆黒のライブレードの操縦席には、先程ゼイフォンに乗り込んだ男と同じ顔をした青年。そう、トウヤが座っていた。副操縦席には意識体であるウェニマスが座っている。

「トウヤ…」

ヤマトが心配そうにトウヤの顔を見上げる。

「結局…助けられないってことかよ!レオ−ネも、アルフォリナも!!」

そう、トウヤは歴史を変えようとした。デビッシュが目覚める前にアルテリアス渓谷に隠されているゴーデリウスを破壊する為に。そして偶然であったが、途中のアクシデントで墜落した時、殺されてしまうはずのアルフォリナを見つけ、今彼女に警告を与えるか、又はオズヴァルドを倒せたならば…と思ったことを。大きな代償を払って。

「…帰りましょう。あなたの肉体はまだ死んではいません、今ならまだ間に合います。あなたの世界に戻ってカスミさんと幸せに…」

「そうよ、トウヤはがんばったわよ。きっとレオ−ネも喜んでるよ」

「…」

トウヤは目を閉じて…

「きっと、俺は間違ってるんだろうな…」

「トウヤ」「トウヤさん…」

「ウェニマス、あんたにとって、意識体となってまで守ろうとした大切なアガルティアは、俺にとってのレオ−ネなんだ。だから…」

「ですが、あなたのレオ−ネさんは…」

「解ってる。だからこっちのレオ−ネは、せめて生きて欲しいって思う。幸せに生きて欲しいんだ。だから…いいんだ」

「…トウヤ…」

ヤマトは涙が止まらなかった。

「…辛い…ですよ、あなただけ、永遠に…」

「いつか終るさ、そして会いに行く。だから、いいんだ」

トウヤは目を開く。その真直ぐな瞳に揺ぎ無い意志を感じる。ウェニマスの愛した男と同じ瞳。真直ぐ見ることができず、目を隠してしまったライルの、昔彼女が大好きだったライルの真直ぐな瞳だった。

「解りました。トウヤさん。彼女を幸せにしてあげて下さい」

「ああ、わかってる」

「トウヤ〜」

「ゴメン、ヤマト」

「魂の解放を…」



薄っすらとしていたトウヤの身体が黄金色に光った…



 

 



「うわぁぁぁぁぁっ!!」

トウヤは布団を跳ね除け目を覚ます。

「はぁはぁはぁ…ゆ、夢か…」

付けっぱなしのラジオを消す為起きあがる。

4月8日金曜日、今日から新学期が始まるところも…』

バチン

 

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あとがき:久々のライブレSS。時の歯車(前編)です。読んでいただいた方ありがとー。
正直考えていたSSのプロットがDC版のレオ−ネハッピーエンドのおかげで全て用無し(涙)
まあ、それでよかったのかな?このままプレー日記だけってのもなあと思って自分なりに
最初の敵、ブラックライブレードの意味合いを考えてみたんですが・・・どーでしょう?
あ、一応補足ですが、(後編)もありますんで夢オチではないです(笑)
よかったら感想ください。ではでは



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