機動戦艦ナデシコ  Another Story

 

 

――メリー・クリスマス 今夜はお祭りよ♪

  失くした恋など 忘れよう♪

 

 

「若い子達は元気だねえ…」

「おや?あんたはまだ若いじゃなかったのかい」

昼過ぎのナデシコ食堂。

歌を口ずさみながらはしゃぎ回っている若い子――ホウメイガールズを横目で見ながら

デルタとホウメイはカウンター席で談笑していた。

「ふふん、それはもちろんだ。まだまだ私はヤングだよ」

「ヤング、ねえ……」

「やっぱり古かったか?」

「かなりね」

「むう」

ちなみにホウメイはいつもの厨房服。デルタは私服の上に白衣を羽織るという

まあ、これもいつもの格好である。

「ま、仕方ないさね。クリスマスなんだから」

「正確にはイヴ、な」

そう、今日は12月24日。クリスマス・イヴ。

ナデシコは一応戦艦ではあるが、乗組員の殆どが民間人なので

世間と同じく浮かれまくっているのだ。

これが軍艦だったらそういかないのだろうが。

「しかしこの浮かれ様は・・・…パーティでもやるのか?」

たいだね。私にも一応招待状が来てたよ――これさ」

そう言ってホウメイがポケットから出した紙には

『アカツキ主催クリスマスパーティ招待状(女性限定)』と書かれていた。

「…何考えてんだか

「ネルガルの方やウリバタケさんのとこでもやるみたいだけどね」

「へえ……ま、私には関係の無い話だな」

「……?、あんたは何も予定が入ってないのかい?意外だね」

驚いた、という表情をするホウメイ。

「何が意外なんだか……残念ながら仕事だよ。停舶予定のヨコスカベイで

 ちょいとやることがあってね」

「ああ、そうか。そういやあんたは軍の所属だったね」

「……忘れられていたような気がするのは気のせいか?」

「いつも軍服の提督と違ってあんたはいっつも私服じゃないか、仕方ないだろう?」

「……ま、まあいい」

いや、実際はよくないのだが。

「しかし……いいのかね、この艦は」

「?」

突然、話の雰囲気が変わったのでホウメイは戸惑った。

しかし、次の言葉を聞いて納得する。

「戦争中だってことを感じさせないからな」

「ああ……そうだねぇ」

2人の視線の先には、楽しそうにクリスマス用の飾りつけをしている

ホウメイガールズの姿がある。

「悪いとは言わないが……だからこそ危ういとも言える。

 軍としては腫れ物にしか映らないからな。下手すれば孤立するぞ」

「それは連合軍人としての意見かい?それともナデシコの1クルーとしての?」

探るような口調で言うホウメイ。口元は笑っているが。

「おいおい、尋問かい」

「どうとるかはあんた次第さね。で、どうなんだい?」

ははははは……手厳しいね。まあ、あえて言わせてもらうなら」

「なら?」

デルタは皮肉げに笑い

「大人としての意見だね」

と言った。

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

               第15話

               『聖夜』

 

 

 

 

「いつまでも、軍艦のクルーが民間人というわけにもゆくまい」
重厚な制服を着た軍人が、ナデシコクルーを前に告げた。
その横――ナデシコ提督のくせに連合軍側にいるムネタケが満悦と嫌みの笑みを浮かべる。
「本来なら全員でお払い箱だけど、今回は特別にあたしが

 あたしのナデシコの為に、みなさんを軍人に取り立ててもらうようお願いしたわけ」

「誰が頼んだわけ?」

私がつぶやいた言葉はきっとこの場にいる全員が思っている事……だと思う。

それを知ってか知らず、それとも事情でもあるのか、軍人のほうは顔を厳しくさせた。

「まことに心苦しいのですが……先日のオモイカネ暴走で

 地球連合軍に与えた損害を計算いたしますと

 このままですと皆さんにお給料どころか、逆に損害賠償を請求しなければ

 いけないことに……」

プロスさんが申し訳なさそうに言う。

まあ、あれだけやっちゃったら個人個人の給料どころじゃないのは解るけど。

「二週間前、月の軍勢力下で謎の大爆発が起こった。

 月面方面軍としてナデシコを再編成する事も考えられれる。時間が無いのだ」

「この艦を降りても不愉快な監視がつくだけですし……。

 どうです?ここは曲げてご承知を……」

みんな複雑な顔。

確かに軍属になるっていうのは抵抗あるけど、ナデシコ自体が別に変わるわけでもない。

私達は私達。

そうとは解っていても、やっぱり頭では納得しがたいだろう。

「アキトさんはどうします?」

「え、俺?」

テンカワさんの近くにいたメグミさんが言う。

やっぱり気になるのか、艦長もちょっと離れた場所で聞き耳を立てています。

「戦争を仕事にしちゃうっていうのは……ちょっと違う気がするけど――」

「あ〜、あんたはいいの」

「「え?」」

テンカワさんの答えを止めたのはムネタケ提督だった。

「いつまでも素人にエステ任せるわけにはいかないの。

 で、この度 優秀なパイロットを補充する事にしたわ」

そう言うと、軍人さん達の後ろから髪の長い女性がひとり皆の前に進み出た。

「イツキ=カザマです。よろしくお願いします」

そのひとは丁寧に、ナデシコクルーに向かって敬礼した。

「じゃあ、アキトはコックに専念?」

艦長が言う。けど、

「こちらで調べたところ、君には軍人としての資質が欠けるきらいがある。

 今後は民間人として銃後の守りに徹してもらいたい。

 …もちろん、監視はつくがね」

軍人さんの答えは非情なものだった。

「ナデシコを降りろ、ってことすか……?」

「ここはあんたの居場所じゃないってことよ」

さも嬉しそうに言う提督。

こんなだから嫌われるってこと、気付いてないだろうか?

けど、そんな提督を尻目にイツキさんはテンカワさんの前まで歩み寄り

「お疲れ様でした、テンカワさん。

 こんなことになって残念ですけど……私達が木製蜥蜴を打ち破ったときには

 きっと、笑顔でお会いできると思います」

と言って、手を差し出した。

「……」

テンカワさんも――複雑な笑顔をしながら、その手を握り返す。

「噂の料理、食べてみたかったです」

離れ際にイツキさんが放った言葉はとても小さな声だった。

……噂?

 

 

 

「メグミさん、降りたそうですね」

「みたいね〜。アキト君と一緒に」

ナデシコのブリッジ。

今そこには、私とミナトさんの2人だけだった。

言葉の通りメグミさんはテンカワさんにくっつくように降艦したし

艦長はテンカワさんが降りてしまった事がショックだったのか姿を見せてません

「ルリルリはどうするの?」

「私、ですか」

ちょっと考えてみる。

けど、すぐに答えは出た。

「残ります」

「あら、即答?」

意外そうにミナトさんが言う。

「はい、私の居場所は……誰がなんと言おうと、ここですから」

「そっか。強いね、ルリルリは」

ミナトさんが関心したように溜め息をつく。

「そうですか?」

「うん。これぐらいの強さがアキト君にもあったらな〜って思うぐらい」

…ちょっと解りにくいです、それ。

「今のルリルリの姿、カイトくんにも見せてあげたいな〜」

……。

「まだまだ、ですよ」

「あらら、ルリルリは理想高いのね」

どうなんだろうか。

ただ、あの人はもっと強い気がする。

こんな時でももっと強い、それこそ呆れるほどの答えを

簡単に出してしまいそうな気がした。

「ミナトさんはどうするですか?」

私がそう問い返すと、ミナトさんは何かの紙切れを眺めながら考え込んでいるようだった。

「ん〜、ちょっとね。考えはしただけど」

そう言いながら意地悪そうな笑い――チェシャ猫笑いって言うらしい――を浮かべながら

その紙切れを破り捨てた。

「残る事にするわ。女の意地ってやつかな?」

「はあ」

「ルリルリの事も心配だしね」

「……そうですか」

 

 

 

「想像通り、テンカワ=アキトに接触してきた…か」

白衣の男、デルタ=フレサンジュは暗い路地裏で呟いた。

視線の先――ヨコスカベイの大通りには、自転車を引いている私服のテンカワ=アキトと

同じく私服姿のメグミ=レイナード。

そしてもう一人。

赤いオープンカーに乗った……エリナ=キンジョウ=ウォン。

ネルガルの元社長秘書。現ナデシコの副操舵士。

3人して何かを話している様子だったが、さすがにその内容まではわからない。

まあ、おおよその予測はできたが。

(となると今回の人員の補充も計画のうち、

 しかも軍の監視を欺こうとしてまでの工作。

 たかが1企業のネルガルがそこまでして『システム』の独占を望む、か)

やがて3人はエリナの車に乗り込み、どこかへと走り去った。

行き先はわかっている。

ネルガルの研究所、ヨコスカベイ支部。

あそこには確か以前、旧型のチューリップを搬送していたはず。

「一応、研究進度の確認だけはしておくか。

 対象をテンカワ君のみに絞るあたり、たかが知れているが

 木星の端末との連絡が取れない以上、私が直接動くほかあるまい…」

そう呟いて闇に溶けるように去るデルタ。

その場には3人ほどの黒服の男達が倒れていた。

N・S・S。

ネルガル・シークレット・サービスと呼ばれた屈強の男たちが。

いまや物言わぬ骸となり果てて……・

 

 

 

ちょっとばかり自棄になっていたのかもしれない。

はっきりと『必要ない』と言われて。

だからつい

「あなたにしかできない仕事があるの。やってみない?」

というエリナさんの言葉に頷いてしまった。

一緒にいたメグミちゃんは、その言葉になにやら反対していたようだったけど

結局、今自分達はここ――ネルガルの研究所にいる。

「木星蜥蜴がチューリップで一種の瞬間移動、つまりボソンジャンプを行う事で

 ほぼ無尽蔵の攻撃を仕掛けている事は知っているわね?

 ネルガルは地球軍とは別個に、このシステムの解明を急いでいるの」

妙に暗い、会議室らしいところでエリナさんから説明を受ける。

その席には他にも何名かの科学者らしき人もいた。

「木星蜥蜴ははなから無人兵器だし、クロッカスもクルーは全滅していた。

 何故ナデシコだけが、生物を生きたままボソンジャンプさせられたのか?」

向かいにいる、眼鏡をかけた女の人が言う。

なんとなく、今時三角眼鏡はどうだろう?とか思ってみた。

「その原因がアキト君にある、というわけね」

突然、後ろから声をかけられた。なんとなく聞きなれた声。

振り向いてみるとそこには――

「イネスさん?」

「私達の実験に興味を持ってくださってね」

協力してくれることになったの、エリナさんが言った。

ああ、そういえばイネスさんはネルガルの人だっただっけ、と今更ながらに思い出す。

「この人達は、生体ボソンジャンプを実現したいのよ。

 人間を乗せた兵器を火星や木星に送り込めれば、戦況は変わる。

 何より地球側には、木星のような優れた無人兵器を造る技術は無い」

「いや、木星側も生物をボソンジャンプさせることには成功していない。

 彼等がその技術を得るより前に我々がその上をいかなければ」

眼鏡の人が事務的に言う。

「あなたには間違いなく不思議な力がある。地球にはそれが必要なの」

自分のことなのに人事のようだった。

そりゃあ、いきなり自分に不思議な力があるって言われても、ね。

そしてその言葉に、何故か自分ではなく隣にいたメグミちゃんが反論した。

「何でアキトさんなんです!!アキトさんはただのパイロットですよ!?」

するとエリナさんは、懐からひとつの、青く輝く水晶のようなものを取り出した。

「これはCC。チューリップ・クリスタルと呼んでいるけど、火星で発見された――」

「――!?」

それをはっきりと見た瞬間、思考が停止する。

「見た事、あるのね?」

そう、知ってる

あれは。

あの石は。

「――父さんの形見だ。火星で失くしたけど……」

その言葉に、エリナさんが笑ったような気がした。

 

 

 

「おうルリルリ、どうした?」

「ウリバタケさん」

私が艦内の休憩所に行くと、そこには何か技術系の雑誌を読んでいる

ウリバタケさんが居た。

「少し休憩です」

「だろうな。っと、そういやルリルリは今日の夜、何か予定はあるのか?」

「いえ、特に」

「そか。んじゃあ俺らのパーティに来ないか?

 今、ジュンの奴と人集めしてる最中なんだよ」

……のわりにはのんびりしてるようですが。

まあ、この調子だとあまり人は集まりそうにないし。たまには良いか。

「いいですよ」

「よし決定だな。……おお、そうだそうだ忘れるとこだった」

ウリバタケさんは雑誌を閉じて、私にひとつの小さな紙袋を渡した。

?、なんですかこれ?」

「ああ、ついさっき艦長と会ってな

 ルリルリに会ったらこれを渡しといてくれって頼まれただ。

 自分で渡した方が早いとは言っただが何だか急いでる様子だったからな」

「艦長が……?」

袋を開けてみる。

そこにはひとつの――白いお守りが入っていた。

(え?)

ふと、不思議な感覚に陥る。

これを艦長が?

艦長?

 

 

 

――――また、な

 

 

 

ガタンッ!!

「おいルリルリ、どうした!?」

ウリバタケさんの声も耳に入らない。

私はその時、無意識に走り出していた。

 

曲がり角。

「わっ!?」

急に飛び出してきた影にぶつかりそうになる。

「危ないなぁ……、ってルリちゃん?」

その声に足を止める。

「艦長?」

ぶつかりそうになったのは他でもない艦長だった。

何故かエステバリスの格好をした着ぐるみを着ている。

「どうしたの、そんなに慌てて?」

「い、いえ……何でも」

足を休めた途端に息があがってくる。

ずいぶんな距離を休みなしで走っていたらしい。

「そ、そう?

 ……ん、その御守り、どうしたの?」

艦長が、私の手にある『それ』に気付いたらしい。

「……知らないですか?」

「え、何が」

「……いえ、気にしないで下さい」

「?」

そんなわけないのに……。

ありえないのに。

どうして、ここにいるだろうか?

 

 

 

 

 

「いいですか、あれだけで」

からかい半分で言ってみる。

その言葉を受けて『彼』は表情を不機嫌そうに歪めた。

「いいだよ。黒子は舞台には出ないものなんだから」

「意地っ張りですね」

「うっせ。年下の癖に生意気だ」

やっぱり自分でも不満はあるらしい。

「ふふ、女は生意気なものなんですよ」

クスクスと笑いが込み上げてくる。

「……どこで学んだだ、そんなこと」

「秘密です」

その言葉で予想はついたのか、深くため息をする。

「わかった……もういい。そろそろ時間だ」

その言葉で空気が変わる。

そう、祭りは終わった。

少なくとも、

『私達』にとっては。

「大丈夫、でしょうか?」

「なんとかなるさ。まあ何かあったら連絡しろ。

 助けにぐらいは行ってやる」

相変わらずの楽観。

でも『彼』が言うと妙に説得力がある。

「二兎を追うものは一兎も得ず、っていいますよ?」

「余計な知識はいらんと言うに。いいだよ、欲張りなくらいがちょうどいい」

「ふふ、了解です」

そして光が満ちて。

『彼』は去った。

 

 

 

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき

 

久方ぶりです。

引越しのせいでネット環境が整わず、文は出来ているのに

投稿できないという状況に陥ってしまった為、更新が遅れてしまいました。

楽しみにしてくれていた方々(いるのか?)、申し訳ない。

その分、次の更新は早いと思いますのでご勘弁を。

 

クリスマス編です。前編、ですが。

中盤です。見せ場です。

出来れば外伝と平行して話を進めたかったのですが、さすがに無理っぽいです。時間的に。

まあ、そっちは後の楽しみにしておいてください。

 

 

では今回はこの辺で。

どんどん書きますよ〜。多分。

ではでは。

 

追加、

ネット環境の変化の為、感想メールのアドレスも変わってたりします。

まあ、気が向いたら出してください。

励みになりますで。凄く。

 

                     H14、4、25

 

 

 

 

 

 

 

 

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