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「あれ?ルリルリ、何処行くの?」

私がオペレーター席から立ち上がると、操舵席で情報雑誌を読んでいたミナトさんが

顔をあげてそう尋ねてきた。

「食堂です。ちょうど休憩時間ですし、もういい時間なので」

「ああ、もうそんな時間なんだ」

コミュニケに内蔵されている時計の表示を見て、ミナトさんも納得がいったようだった。

標準時刻で13時48分。言い方を変えればお昼過ぎ。

私は、あんまり沢山の人がいる場所でものを食べるのは苦手なので、

いつも食堂が空き始めるこのぐらいの時間に昼食を取ることにしているんです。

「それではお先に」

「ゆっくりしてらっしゃい」

後ろ手に手を振って見送るミナトさん。

ミナトさん自身はかなり遅めに朝食をとったらしく昼食はパス、とのこと。

私はいつもの通り、一人で食堂に向かうことにした。

さてと、今日は何を食べようかな……。

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

               第13話

               『間奏』

 

 

 

 

ナナフシ攻略戦が終了してから約1週間。

その功績(というか実力)が軍に認められたナデシコは、独立部隊であることをいいことに

各地の戦場を転々と移動中。確実に良い戦績を重ねています。

けど、だからといってクルーの内情が変わるわけでもなく

ナデシコはいつものナデシコのまま。

相変わらずといえば相変わらずです。

まあ、例外といえばムネタケ提督の嬉しそうな高笑いがたまに聞こえるようになったのと

デルタさん絡みの騒動が多少増えたぐらいでしょうか……。

 

 

 

「で、これもその1つってわけだ」

「そうですね」

カウンターに座ってオムライスを食べていた私にホウメイさんが話しかけてきた。

そしてその視線の先には……。

 

「なあ〜隊長、いいだろ?次の出撃の時は俺にあのロボット貸してくれよ」

「だから……お前には無理だって言ってるだろう。いいかげん諦めろって……」

 

「何してるんだい、あれは?」

「ラーメンを食べているデルタさんにヤマダさんがなにか言い寄っていますね」

「それは見れば分かるけど……いやいや、そうじゃなくてね」

ホウメイさんは溜め息をついて何やら言い争っている2人組に近づいていった。

放っておけばいいのに……とは思うけど、食堂の管理を任されているホウメイさんとしては

さすがにそうもいかないらしい。

「ちょっとお二人さん。騒ぐんだったら外でやってくれないかい?」

ホウメイさんに注意されて、さすがにヤマダさんは騒ぐのをやめたようだった。

デルタさんは我関せず、って感じでラーメンをすすってますが。

「う、すまねえ……」

「ほら見ろヤマダ、迷惑がられてるだろうが。

用が無いんだったらさっさと出て、自主トレでもしてろ」

「くぬ……、お、俺は絶対に諦めないからなあっ!!」

意味ありげな捨て台詞を吐いて食堂を出ていくヤマダさん。

諦めない、ってどういうことでしょうか?

「まったく・・・…。隊長さん、いったいあれは何の騒ぎだったんだい?」

ホウメイさんも私と同じ疑問を持っていたようです。

デルタさんの正面の席に腰掛けながらそう言いました。

「気にすること無い。くだらん頼みだよ」

「あんたにとってはそうでも、私等にとっちゃそうじゃないんだよ。

 目の前であんだけ騒がれたら気にもなるってもんだろう?」

「そうですよ、私も気になります」

私もちょうどオムライスを食べ終えたので、ホウメイさんの隣の席へと移動した。

「むう・・・…」

仕方ないな、といった感じでデルタさんが溜め息をつく。

「この前のナナフシ攻略戦の時に補給物資として持ってきた機体があったろ」

「あの紅いエステですか?」

「そう、それ。で、その機体でナナフシを攻撃した時の武装がな

 ――これはディストーションフィールドを機体の装甲全体に張り巡らして

 それ自体を弾丸に見立てるっていう武器なんだが」

あ、なんだか話が見えてきた。

「つまり、ヤマダさんがその武器を使いたいって言ってきたわけですね」

「そういうことだ。何とかガンガーとかいうアニメの必殺技に似てるらしくてな」

ちなみにわかっているとは思うけど、何とかガンガーっていうのはゲキガンガーのこと。

たしかにブリッジのモニターから見た、ナナフシの強硬な装甲をも貫いた

あの攻撃は『ヤマダさん好み』のような気がします。

ついでに言えばテンカワさんも好きそう。

「しかしねえ、あの機体は今のエステに慣れたパイロットじゃあ動かすことすら無理なんだよ」

「?、どういうことですか」

そう聞くとデルタさんは少し考え込んで

「・・…口で説明するより見てもらった方が早いだろう。これから何か用事はあるかい?」

と言った。

 

 

 

で、私はデルタさんに連れられて格納庫までやってきました。

ブリッジ要員の私達は暇でも、整備員の人達にとってはそうじゃないらしい。

格納庫内では何人もの人達が忙しそうに立ち回っています。

あ、ちなみにホウメイさんは仕事があるから来れなかったんです。

後から私の説明を聞くってことで。

「おい、ウリバタケのおっさん!!いるか!?」

顔に似合わない大きな声で格納庫中に呼びかけるデルタさん。

「だああ!!お前におっさん呼ばわりされる筋合いはねえって言ってるだろ!!」

すると、コンテナの陰からスパナを持ったウリバタケさんが勢いよく現れた。

何だか随分と怒ってますが。

「大体、ドクターの養父だっていうならどう考えてもてめえの方が年上だろうが!!」

「・・・…そうなんですか?」

「はっはっは、そんなわけないだろうルリ君。見てみたまえ。

どこをどう見たらこのおっさん顔より私のほうが年上に見えるというのかね?」

まあ、確かに『見た目だけ』ならそうですが・・・…。

「まあ、そんな事はどうでもいいとして」

「良くねえ!!」

「まあ聞け。ルリ君にな、俺の機体を見せてやってほしいんだよ」

「あのエステを?」

デルタさんがそう言うと、急にウリバタケさんは落ち着いたようだった。

「そう。ま、変わった機体だからな。疑問も多いってことさ」

「そうならそうと早く言えよ。ほらこっちだ」

そう言い、先導して歩き出すウリバタケさん。

「お、話がわかるね。さすがウリバタケのおっさんだ」

「おっさん言うな!!」

・・・…ウリバタケさん、気にしてたんですね、意外と。

 

「これ、ですよね?」

「そうだよ」

案内されたのは格納庫の奥も奥。

そこにナナフシ攻略戦の時、デルタさんが駆っていたエステバリスが悠然と立っていた。

「コックピットの中、見てごらん」

「?」

言われたとおり作業用のリフトを使って機体の上部まで昇り、コックピットの中を覗いてみる。

するとそこには――――。

「あ、こういうことなんですか」

「そういうこと」

――そこには、通常のエステバリスとは全く違う構造のコックピットがあった。

今、ナデシコに配備されているエステバリスはその全ての操縦系が

IFS、つまりはイメージ・フィードバック・システムで形成されています。

このシステムのおかげで体内にナノマシンを取り込んだ人なら、素人でもたやすく

エステバリスの操縦が可能となっているんです。

そしてこれはエステバリスだけに言える事ではなく、現在地球圏に配備されている

機動兵器のほとんどがこのシステムを採用しています。

けれど、このエステバリスの中はそうではありませんでした。

左右のモニターにはいろいろな計器類やキーボードが接続されているし、

何より通常、IFSコネクタがあるところの両端に、前時代的な『操縦桿』が付いていた。

「どうしてなんですか?」

「ん、操縦桿のこと?」

「はい」

私がそう問いかけると、デルタさんはその言葉をを待っていたように『説明』を始めた。

「この機体が造られたのはね、実は15年以上も前になるんだよ」

「そうだったんですか?」

「ああ、その頃は当然IFSの技術も殆ど形成されてなくてね、

 これはまあ、機動兵器に試験的にIFSを採用した試作1号機ってやつさ」

ああ、だからいまだに操縦桿なんてものがついているのか。納得。

「そのころ私は火星、ネルガルの研究所に所長として勤めていてね、

 片手間にテストパイロットなんかもやってたりしたわけだ」

「……所長がテストパイロット、ですか?」

「ああ、経費削減」

・…・・だからといって、普通の研究所の所長がテストパイロットなんかするだろうか?

やっぱり変わってます、この人。

「でも、今更そんな旧式を使うぐらいなら最新の量産型を使ったほうが

いいんじゃないですか?」

「普通はそうだろうね。ところがこの機体はそうじゃないんだ」

「?」

「この機体は今出回っているの量産型の元になったやつでね。

 莫大な資金を使ってつくられたものだけに量産型とは性能がケタ違いなんだ。

 さすがに汎用性は劣るけど、今でも充分に前線で使えるんだよ。

 古いシステムは新しいのに替えればいいしな」

「はあ」

「まあ、この機体を扱える人間自体がほとんどいないのが問題って言えば問題だな。

 今の若いやつらはIFSに慣れすぎてまともに操縦桿を握れないのが殆どだから」

ああ、だからヤマダさんには無理って言ったのか。

確かに今のIFSに慣れた人にはこのコックピットは酷かもしれません。

「どう?疑問は解決したかな?」

「はい有難うございました」

「・…・・そうか。それは良かった」

私がそうお礼を言うと、デルタさんは本当に嬉しそうに笑った。

 

 

 

その笑顔は、私のよく知っているひとの笑顔に、似ていました。

 

 

 

「ああっ!!いないと思ったらこんなところにいやがった!!」

「おう、ヤマダか。それに他の面々も」

説明が終わり、ブリッジに戻ろうとデルタさんと一緒に廊下を歩いていると

前方からヤマダさんを含めたパイロット組の皆さんが近づいてきた。

どうやらデルタさんを探していた様子ですが・…・。

「教官、こいつどうにかしてくれよ。あの機体に乗る乗るってうるさくてかなわねえよ」

相当辟易した様子でリョーコさんが呟く。

・・・…どうやら食堂で言った「諦めない」という台詞は本気だったようです。

「ん〜、そうだな。だったらヤマダ、条件をつけよう」

「あに?条件だって?」

訝しがるヤマダさんを見て、デルタさんは含みのある笑顔で続ける。

「ああ、シュミレーション戦闘で1撃でも俺に当てることができたら

 次の出撃の時にはあの機体を使ってもいいぞ」

「へ、そ…そんなことでいいのか!?」

「ああいいぞ。ま、できるもんならやってみろ」

余裕のある表情で言うデルタさん。

・・・…そんな事言って本当に大丈夫なんでしょうか?

頭は『アレ』でも、ナデシコのクルーなだけあってヤマダさんの技術は相当なもの。

1撃も喰らわないなんて難しいと思うんですが・・・…。

「よし勝負だ今すぐ勝負だ何が何でも勝負だ!!」

「はいはい、後から行くから先にってろ」

しっしっ、と手を振りながらヤマダさんを追い払おうとする。

「逃げんなよ!!」

「そんな必要ないっての」

ヤマダさんの挑戦的な言葉も、デルタさんはまったく気にしていないようです。

「あ〜あ、ヤマダくん・・・…墓穴掘っちゃたねえ」

「無謀ね」

その光景を見ていたヒカルさん、イズミさんがポツリと呟く。

「・・・…あの人ってそんなに強いの?」

その言葉を疑問に思ったのか、テンカワさんが不思議そうに呟いた。

「強いなんてものじゃないわね。化け物よ、あれは」

「以前3人がかりで戦っても、かすり傷1つすら負わせられなかったからなあ」

「リョーコなんか、始まってものの30秒もしないうちに撃破されちゃったからねえ」

「うっせ!!」

・…・・。

この3人にこれほどまで言わせるなんて・…・・。

やっぱりこの人は良く分からないです。

 

「ほらほら、お前らもシュミレーションルームに行け。1からみっちりとしごいてやっから」

皆、「うげぇ・・…」という顔をしながら立ち去っていく。

その後ろに続いて歩き出そうとしたデルタさんは、ふと立ち止まって私のほうに振り向いた。

「そういえば言い忘れたんだけどね」

「?」

さっきの機体の説明のことでしょうか?

「あの機体の正式名称はそのまんま『エステバリス』っていうんだけどね」

「はい」

「15年前の研究所では通称っていうか、通り名みたいなのがついてたんだよ」

「・・…・そうなんですか」

何か、いかにも漫画みたいですが。

「でな、あの機体は研究員からこう呼ばれてたんだよ――――――」

 

 

 

 

 

「撫子、ってな」

 

 

 

 

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき

 

申し訳ない。

前回に引き続き、今回も1ヶ月も間を空けてしまいました。

しかも前回の予定と話が違うし。短いし。

待ってくれている少数の方々、ごめんなさい。

言い訳は・・・…しないほうがいいですね。いろいろとまずいことになりそうですし。

 

 

んで、内容のほうをば。

今回は予定ではオモイカネ話だったんですが

前話でデルタ用のエステバリスの説明が不十分であり(当たり前)

尚且つ、オモイカネ話にはちと組み込みにくいということで

急遽、番外編という形で補足させていただきました。

内容はタイトルの通り『間奏』というわけです。

次回こそはオモイカネ話です。これは確実。

 

ところでナデシコSSのTV改訂版で完結してるものってありますか?

自分の知っている限りでは無いんですが・・・…。もし知っているなら教えてくれると有難いです。

その他にも、オススメのナデシコSSでもいいですよ〜。

 

では今回はこの辺で。

絶対に20話は超えますよね、この作品。

あ、それと感想は随時募集中。

ていうか、読んだなら送ってくれると嬉しいです。

ではでは〜。

 

 

                               H14、1、28

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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