「これで終わり、と……」

最後の1組を片付けて、一息つく。首の後ろで束ねている髪がふわりと揺れる。

しかし、ネルガルってばどうしてこう、人使いが荒いのかね……。特別手当請求しようかな?

「っと、そろそろ行かないとな……」

休む暇はない。急がないと。

そろそろブリッジに顔出さないといくらなんでも怪しまれるだろう。

ただでさえ、個人情報に無駄なプロテクトをかけているんだから。

「えっと……ああ、ここだ」

しばらく歩くと、今までとは違った、大きめの扉の前に出た。

おそらくは、この先がこのナデシコのブリッジなのだろう。

(円滑な交流を図るには第1印象が大事、と……よし!)

前々から考えていた「挨拶」の言葉を頭のなかでリピートさせる。

大丈夫、大丈夫……、きっと上手くいく。ていうか、いかなかったら困る。ホントに。

 

決心して、一歩、踏み出した。

扉が、開いた。

 

 

「初めま――――――――(以下略)」

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

               第2話

            初仕事は『後始末』?

             

 

 

 

「自己嫌悪……」

あらゆる意味で衝撃的な登場をした新人のサブオペレーター、ミスマル=カイトさんは

私の席の横(プロスさん曰く『副士の定位置』)ですっかり落ち込んでます。

それもそうでしょう。

知らなかったとはいえ、姉弟揃って全くおんなじ事言ったんですから。

……艦長は気にしてないようですけど。

「しかも何故か知らんけど、姉さんまで乗ってるし……」

そうそう、当のカイトさんは姉である艦長がこのナデシコに乗っている事を全然知らなかった

らしいです。気付いた時、凄く驚いていましたから。

とにかく、カイトさんについての一通りの自己紹介が終わった後に

プロスさんが「重大発表があります!」と言ったので、

主だったクルーは現在、ブリッジの中央のエントランスに集まっています。

私は行かないのかって?

別にいいんです。この場所からでも声が聞こえないわけじゃないですから。

「そろそろ話、始まるみたいですよ」

「ん……えあ?」

私が声をかけると、カイトさんは俯いていた顔を上げた。

……ちょっと艦長よりは童顔かも。

「何が?えっと……ルリちゃん、でいいのかな?」

「はい。それで、何か重大発表らしいです」

「ふうん……」

「……聞かなくていいんですか?」

「うん、知ってるから」

当たり前、という感じでカイトさんは言いますが、これって変です。

現地のクルーや艦長でさえ知らないことを、どうして今きたばかりのカイトさんが

知ってるんでしょうか?

やっぱり……謎な人です。

ちょうどその時プロスペクターさんが話を始めたところでした。

「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは、妨害者の目を欺く必要が

あったからです」

プロスペクターさんが集まった人の顔を一人一人確かめるように眺めながら言いました。

「妨害者……ですか」

「はい、何しろ我がネルガル重工がわざわざ独自に宇宙戦艦を建造した理由は

 木星蜥蜴と戦うわけではありません」

「じゃあ、何の為?」

ミナトさんの質問には、先ほどから黙っていたフクベ提督が答えた。

「我々の目的地は火星だ」

「火星?でも、火星は木星蜥蜴に占領されちゃったんじゃ……?」

「それは、連合宇宙軍の広報活動の結果です。火星が本当に占領されているのか、

 火星に残された人がどうなったのか、確認した人間は誰も居ないのです」

大仰にプロスペクターさんが首を振った。

「木星蜥蜴が侵攻を開始した当初、多くの地球人がコロニー、月、火星へと移住していました。

 しかし、連合宇宙軍はそれら前線というべき人々を見捨て、

 地球周辺に防衛ラインを引きました。

 では、見捨てられた火星の人は、資源は、どうなったのでしょう?」

「どうせみんな死んじゃってるんじゃないの?」

「おや、キツイお言葉」

私の呟きに、カイトさんがつっこみをいれた。

なんだかんだ言って結局、話を聞いているみたいです。

「わかりません。だからこそ、私達は火星を目指す為にこのナデシコを建造したのです」

「「「へぇ……」」」

ブリッジにいるみんなが感心したような声を出す。

「と、いうわけで、我々はこれから軍とは別行動をとり、火星へ向かいます」

「まあ、戦争するよりは、いいかな」

「人助けかあ、それっていいことですよね」

「ま、相転移エンジンの特性を考えりゃ、地上で戦うよりはマシかもな」

とりあえず、ブリッジの皆の意見は好意的。ま、偽善的だけど

戦争するより人助けって言われる方が、気分的には楽よね。

「君は」

「え?」

突然、声をかけられて振り向くと、カイトさんが立ちあがって私をじっと見ていました。

「君はどうしたい?」

「私……は……」

考えなかった。そんなこと。

研究所を出た私には、ここしか居場所がなかったから。成り行きでここにいる。

けど……。

「行ってみたいです」

本当はそれもわからない。でも、これだけははっきりとしている。

私が今までいた研究所。

あそこは、私の居場所じゃ、ない。

「ん、そっか」

カイトさんは微かに笑ってそう言うと、プロスペクターさんに向かって「OKです」と言った。

「では、全員満場一致ということで、艦長?」

「はいっ!では機動戦艦ナデシコ、火星に向かって出ぱ――」

「そうはいかないわよ」

「「「え?」」」

 

 

 

「この戦艦はこのまま軍の物にさせてもらうわ。

 これだけのもの、火星にいかせるなんて冗談じゃないわよ」

数人の武装した軍人さんと共にブリッジに乱入してきたのは

初戦の時以来、まったく皆の前に姿を現さなかったムネタケ副提督(仮)でした。

……まだいたんだ、この人。

「血迷ったかムネタケ!おまえ一人でなにができる!」

「あ〜ら、フクベ提督。いや、元・提督でしたわね。

 ご心配なく。今ごろは民間人に紛れ込んで侵入させておいた私の部下達が

 この戦艦の重要ブロックを占拠しているはずよ」

自信満々、という感じで副提督が高笑いをする。

「困りますなあ、ナデシコの独立運営は軍の上層部とも話がついていたはずですが」

「そんなこと知ったこっちゃないわよ、この戦艦は軍が頂くわ」

プロスペクターさんの言葉にも副提督は耳を貸さない。

まあ、奪っちゃえばこっちのものってことなんだろうけど……。

はぁ、大人ってこれだから。

「では、あくまで強硬手段に出る、と?」

プロスペクターさんが確認するように、静かに言う。

「今更、なに言ってるのよ!もうこの艦は占拠したって言ってるでしょ!?」

「仕方ないですな。ルリさん、重要ブロックの映像を」

「?、はい」

言われたとおり、ナデシコの至る所に設置されているカメラの中から

重要ブロックの映像だけを選んで、ブリッジにいる全員に見えるように大きく表示させる。

「「「あ」」」

「嘘っ!?」

その映像全てに、丁寧に縄で縛られボコボコになった数人の軍人さんが映っていた。

何故か整備班の人達がカメラに向かってピースをしてます。

「民間企業の情報収集力をなめてもらっては困りますなあ」

「民間人に偽装した軍人が艦内に侵入していることなど、最初からお見通しだ」

プロスペクターさんとゴートさんが、少し呆れたような口調で言う。

つまり副提督の考えは、はなっからバレバレだったってことよね。

「だからってどうして!?訓練をうけた軍人がそんな簡単に!?」

副提督は相当動揺しているのか、声が裏返ってます。

「それは――――――」

ふと気付くと、今まで私の横に立っていたはずのカイトさんの姿がなかった。

「こちらにも『そっち方面』のエキスパートがいますから」

「そういうこと」

「え?」

 

 

 

プロスペクターさんが言い終わるのと、副提督が吹っ飛んだのは、ほとんど同時だった。

 

 

 

「困りますなあカイトさん、仕事は最後までしっかりやって頂かないと」

「無茶言わないでください。今の今まで隠れてた奴まで面倒みきれませんよ」

「そこをどうにかするのがプロだろう」

「もう……ゴートさんまで……」

カイトさんとプロスペクターさんは、倒された軍人さんを縄で縛りながら談笑してます。

その後ろでは相変わらず無愛想な顔をしたゴートさん。

一方、何も知らない皆はさっきと同じ場所で呆然としてます。

まあ、あんなもの見せられたら普通は驚くわよね。

私も正直、かなり驚きました。

「今……、何か見たか?」

「副提督、3メートルぐらい浮きましたよね」

「その後、回し蹴りだったか……?それで5メートルぐらい吹っ飛んだよな。横に」

「「「……」」」

 

 

 

皆が絶句している中、ぽけーっとしていた艦長が口を開いた。

「そういえば……」

「「「そういえば?」」」

皆が艦長の言葉に集中する。

「カイトって昔から喧嘩強かったよねぇ」

「「「そういう問題か……?」」」

 

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき

 

すいません、嘘つきました。

本当はこの今回中にミスマル提督を登場させる予定だったんですが

話の都合上、次回からの登場となってしまいました。

まあ、前回の後書きでも一応「予定」と書いていたので嘘ではないのか?

うん、嘘じゃないです(開き直り)。

 

 

次回は薄幸の彼が登場(これは確定なので)。そう、彼はまだナデシコに乗っていません。

それでは、小説版はじめての空中戦を皆で見ましょう(ちょっと弱気)。

そこまでいくかなぁ……?

まぁ、いいや。では次回。

 

 

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