20000ヒット記念作品(笑)

 

 

地球が、木星から来た蜥蜴と戦争をするようになって1年。

あんまり連合軍が不甲斐ないんで、とうとう民間のネルガル重工が新しい「戦艦」造って

デビューさせたのがこれまでのお話。

でもね……。

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

               第1話

           知ってて知らない『異邦人』

             

 

 

 

「補充要員……ですか?」

「はい、そういうことです」

ナデシコの艦長、ミスマル=ユリカの不思議そうな声に、プロスペクターさんが

深く頷きながら答えました。

ネルガル重工の最新型戦艦 ND‐001「ナデシコ」が初の戦闘を終えてから、

すでに2日が過ぎました。

と、いっても、大気圏内で蜥蜴の襲撃がそう頻繁にあるわけでもなく、艦内はいたって平和。

ナデシコは、特に目的も無く海の上をふらふらと移動しています。

「実は初陣の時のイザコザで、乗艦が間に合わなかった人達が何人かいましてな。

 まぁ、それ自体は宇宙でも補充が利くのですが……おっと」

プロスペクターさんがわざとらしく、両手で口を塞ぐ仕草をしました。

宇宙で補充という事は……やっぱりナデシコは宇宙に出るみたいです。

「つまり……替えがきかない人ってことですか?」

「さすが艦長、察しが早くて助かります」

プロスペクターさんの言葉に艦長が「えへヘ……」と照れています。

どうでもいいけど、こうしていると艦長って全然20歳には見えません。

子供らしくない、ってよく言われる私がいっても説得力がないかもしれませんが。

「とにかくそういうことなので、もう少しで到着すると思いますのでよろしくお願いしますね」

そこまで言うと、プロスペクターさんは忙しそうにブリッジから出て行きました。

 

「新しい人かあ……どんな人かなあ」

「きっとまた変な人よ。この艦のことだから」

通信士のメグミさんの言葉に、操舵士のミナトさんがちゃちゃをいれました。

と、いっても、わたしもミナトさんの意見には同感。

なんでもこの艦のクルーって

『性格に多少難があっても、一流の腕』

をモットーに集められたってプロスペクターさんが言ってましたから。

そうなると、私自身も性格に難があるということになりますが……。

それは気にしない事にしています。

「ルリちゃん、補充する人の個人データ出せる?」

艦長がそう聞いてきたので、私はナデシコのメインコンピューターである「オモイカネ」に

IFSを通して接続し、ブリッジのメインモニターに乗員者リストを表示させました。

「最初に乗艦が決定していたクルーのうち、まだ着艦していない人が4名。

 それぞれの部署はパイロット、サブオペレーター、副操舵士、整備員となっています」

復唱して、リストをさらにその4人に限定して表示させる。

モニターにはその4人の、簡単なプロフィールが表示されました。

「替えがきかないっていってたから……やっぱりパイロット?」

ミナトさんが言ったパイロットっていうのは、このナデシコに配備されている

ネルガル重工製の人型凡用機動兵器「エステバリス」の操縦者の事。

エステバリスの操縦はIFS(イメージ・フィードバック・システム)という特殊な方法、

簡単に説明すると、体内にナノマシンを注入して補助脳を形成させ、

機械と脳波をダイレクトにリンクさせるという方法を用いて行われるので、

パイロットは、IFSが無いと務まりません。

よって、パイロットには替えがきかないというミナトさんの意見は筋が通っています。

けど……

「サブオペレーターだと思います」

私がそう言うと、艦長、ミナトさん、メグミさんが、同時にこちらに注目した。

「本当なの、ルリルリ?」と、ミナトさんが尋ねる。

「はい、パイロットの方ももちろんそうですけど……、このナデシコのオペレートには

 ちょっと特殊なIFSを使用しますし」

言葉の通りこのナデシコも、従来の戦艦のパネル式の端末とは違い、IFSを利用して

オペレートをするシステムを利用して造られています。

けれど、戦艦規模のシステムを掌握するには、さすがに通常のIFSじゃ無理がある。

ただし、その為に「造られた人間」なら話は別。

私が、その「造られた人間=マシン・チャイルド」の1人です。

その辺の事情を知らない艦長やメグミさん達は「そうなんだぁ」としきりに感心しています。

それもそのはず、私のような「IFS強化体質」を創り出す遺伝子操作は

世論の「非人道的」という考えから、今では殆ど行われていない筈。

テラフォーミングの為、日常的にナノマシンが使われている火星では

そうでもなかったみたいですが。

話を戻すと、つまりはそのサブオペレーターの人もIFS強化体質ということになる。

ということは、その人も私と同じ……。

「情報、出します」

一言そう告げてから、モニターに表示させていた他の情報を閉じて

サブオペレーターの人だけの情報を詳細まで表示させてみた。けれど……

「何これ?ほとんど不明って書いてある」

メグミさんの言う通り、個人情報はほとんど白紙といっていい状態でした。

名前や経歴はおろか、性別や年齢までもが「不明」となっています。

わかっているのはサブオペレーターという部署だけ。

(オモイカネ、このデータのプロテクトは外せる?)

私はIFSを通してオモイカネに話しかけた。コンピューターに話しかけるなんて

変かもしれないけど、そういう表現がぴったりなほど、オモイカネは人間らしいんです。

<不可。このデータにはAAAレベルのプロテクトがかかっています>

数秒して、オモイカネからはこんな返事が返ってきた。

AAAレベル、つまりは艦長クラスの人間でも、許可が出ない限りは情報の閲覧は

不可能だということ。

いくらなんでも――――――例えサブオペレーターの人が、禁じられた手法である

遺伝子操作によって生まれたマシン・チャイルドだとしても、

たかが個人データにここまでのプロテクトがかかっているのはいくらなんでも不自然です。

一体、何者なんでしょう この人?

 

 

 

 

「シャトル、着艦しました」

私の報告と同時に、ブリッジのメインモニターに格納庫の光景が映し出された。

すると、ブリッジの皆が一斉にモニターに注目しました。

新しく来る人が「不明」だらけの人だっていう噂は、ミナトさん達によってあっという間に

広まったようです。今では、噂の人物を一目見ようと、ブリッジ用員でない

テンカワさんやヤマダさんまでここに集まってきていますし。

揃いも揃って馬鹿ばっかなんだから……。ふぅ。

当然、ブリッジのそんな状況を知るはずもない新人さんは、まだ姿を現していません。

「どんな人だろうね、メグちゃんはどう思う?」

「カッコイイ人だといいなぁ」

「えぇ?でもなんか怪しくない、この人」

「いいじゃないですか、何かミステリアスで」

「そういうものかなぁ?」

私の両隣に座っているミナトさんとメグミさんは、新人さんのことで

何か盛り上がっちゃってます。あんまり期待しない方がいいと思うけど……。

結局はこのナデシコのクルーに選ばれた人なんだし。

「で、結局誰なんですか?プロスさん」

艦長が、隣に立っていたプロスペクターさんに尋ねました。

どうやら、この中で新人さんの素性を知っているのはプロスペクターさんだけのようです。

「まぁ、すぐに解りますよ。それに……あなたのよく知っている人ですし」

「私が、ですか?」

艦長がよく知っている?知り合いってことでしょうか?

どうでもいいけど、先日のテンカワさんの件といい、艦長って妙に顔が広いです。

「あ、出てくる?」

メグミさんの声に、私は注意を艦長達からモニターに移した。

映像は、ちょうどシャトルの昇降口の扉が開いた時でした。

「「「「「「……」」」」」」

沈黙の中、扉の奥から人影が見えてくる。そして……中から出てきたのは―――――――

 

 

「「「「「「か、艦長!?」」」」」」

 

「え、私?」

 

 

艦長の勘違いからきた間抜けな返事はどうでもいいとして……。

皆の驚きは、当然の反応かも知れません。

シャトルから出てきた人は……ミスマル=ユリカ艦長と、うりふたつの顔をした人でした。

「……カイト?」

艦長がモニターの映像を見て、呆然とそう呟くのが私には聞こえた。

 

 

 

 

「「「「「「弟ぉ!??」」」」」」

艦長の説明を聞いていた皆が、揃って素っ頓狂な声をあげた。あ、もちろん私を除いて、です。

「はい、そうです……って、何でみんなそんなに驚いてるんですか?」

対する艦長は、新人さんの顔を見たときは多少驚いていたみたいですけど、

今は相変わらずの「のほほん顔」に戻ってます。さすがというか何というか……。

「妹、の間違いじゃなくて!?」

「男の人なんですか!?」

ミナトさんとメグミさんがほぼ同時に言った。

成る程、皆あの人が女の人だと思っていたからあんなに驚いていたんですね。納得。

確かに映像を見た限りでは、新人さんは女の人に見えました。

というか、艦長にそっくりなので新人さんを男とパッと見で判断するのは

艦長を男と間違えるぐらい難しい=女の人にしか見えない。

「うん、ミスマル=カイト。15歳。正真正銘、私の弟だよ」

「「「「「「はあぁ……」」」」」」

ブリッジのほぼ全員が感心したような溜息をつく。

感心、というより、珍しいものを見た、って感じですけど。

「……テンカワさん、あまり驚いてませんね」

「え?」

急に私に話題をふられて、テンカワさんは驚いたようだった。

「いえ、他の皆さんより落ち着いているように見えましたから」

「ああ……一応、俺も知り合いだから」

「そうなんですか?」

私の疑問には、後ろの席から身を乗り出すようにして話を聞いていた艦長が答えた。

「うん、カイトはね、2年前まで火星にいたから」

「火星に、ですか」

その答えに、私はなんとなく思い出した。

確か、木星蜥蜴の初めての侵攻といえる「第1次火星会戦」が起こったのが2年前。

となると、弟さんは開戦の直前に地球に来たって事なんでしょうか?

「ねぇ、ルリちゃん?」

「何ですか、ミナトさん」

私の思考は、途中で話しかけてきたミナトさんによって中断された。

「その弟君、今ここに向かってきてるの?」

「多分、そうだと思いますけど……」

そう答えて、私はIFSを使い、オモイカネに接続した。

(オモイカネ、新人さんの居場所の検索、できる?)

<了解、検索中…………>

(……)

<検索終了。現在、ナデシコの重要区画を回りながらブリッジに向かっています>

重要区画を?

その言葉に少しひっかかったけど、大して気にすることなく復唱する。

「現在、展望室にいます。もう少しでここに着くと思われますが」

「そう、アリガトね。ルリちゃん」

「仕事ですから」

ミナトさんにそう一言だけ答えると、私は艦長がさっき皆に伝えた新人さんのことを

データにまとめてみた。

 

『ミスマル=カイト(本名同じ) 15歳 男性

 西暦2181年 宇宙軍提督 ミスマル=コウイチロウの長男として生まれる。

 母親は翌年病死。

 さらにその翌年、コウイチロウと姉ユリカは火星を離れ、地球へと移住するが

 カイト自身は身体の弱さのため移住を断念、遠縁の親戚へと預けられる。

 2194年、姉ユリカの勧めで地球へと移住。

 同年4月、連合宇宙軍付属大学へ飛び級で入学。

 2196年、ネルガルの新造戦艦「ナデシコ」のサブオペレーターとして着任』

 

「……」

変なところは無い。私の目から見ても普通(といって良いかは不明だが)の経歴です。

別に隠すようなものが在るわけでもない。

(たったこれだけの情報にAAAレベルのプロテクト?)

他のクルーは「艦長の弟」というインパクトから、その事実を忘れてしまっているよう

でしたが、私の頭からは、どうしてもその疑問が離れませんでした。

 

 

不意にオモイカネから<到着!!>というメッセージが送られてきた。

どうやら、考え事をしている間に時間が結構たっていたみたいです。

「艦長、到着しましたよ」

私が艦長にそう告げると、艦長だけでなく他のクルーの人達も、ブリッジの後部にある

出入り口に注目した。そんなに見られてると入りにくいと思うんですが……。

そんな事は知らずに、扉はゆっくりと開いていく。

(オモイカネが妙な演出を加えているみたいです)

そして―――――――――

 

「こんにちは!!僕が今日着任したサブオペレーターのミスマル=カイトでぇぇす!!!

 ブイッ!!!」

 

 

ナデシコにまた「馬鹿」が増えたみたいです。

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき(終わってないけどね)

 

 

しまった……、第1話だってのに主人公ほとんど出てないし……。

……ま、いいか。次の話からどんどん活躍してもらうつもりです。

 

ちなみに、この作品はTV版の第1話の終了後から始まっています。

キャラクターの性格とかも基本的には変わっていませんので、内容がわからないって人は

ビデオでも借りて確認しておくれなまし。

 

次の話ではおなじみのカイゼル髭のおっさんが登場予定。

 

泣く子も黙る彼の親馬鹿ぶりをみんなで見よう!!……ってか?(ウリバタケ風に)

 

 

                      H13、7、14 

 


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