「まったくもう、お兄ちゃんったら……

 あれだけ言ってあるのに忘れちゃうだから……」

コロニー標準時11時30分。つまりはお昼前。

白鳥ユキナは軍施設へと続く遊歩道を歩いていた。

片手にはゲキガンガー3の柄がプリントされている風呂敷包みがひとつ。

当然、中身はお弁当だ。

兄、九十九の昼食となるお弁当はいつもユキナが作り、持たせているのだが

今日は……ちょっと朝にいろいろあったので、渡しそびれてしまったのだ。

(それもあのミカヅチとかいう大飯喰らいのせいよ!!

 いくらお兄ちゃんが許可したからって本当に泊まっていくなんて

 図々しいったらありゃしない!!)

頭の中にあの少年の小憎らしい顔が浮かぶ。

今日の朝もあの少年は朝食を同席し、あまつさえ「おかわり!」などとぬかしたのだ。

まあ、その言葉で切れたユキナが家の中で暴れ周り

その被害から避けるべく、九十九はさっさと

家を出てしまい弁当を受け取る事ができなかったのだが

ユキナの中では全面的にミカヅチのせい、ということになっていた。

「たまたま今日が学校休みの日だから良かったものの……」

ぶつぶつ言いながら坂道を歩く。

そうしていると、時々軍服姿の人とすれ違い、頭を下げられる。

今更だが、そういう光景を見ると兄の凄さを実感でき、誇らしく思えて気分がいい。

木星圏・ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星小惑星国家間半地球連合体、

――通称『木連』においての白鳥九十九の知名度というのはかなり高い。

TVにて兄の姿をみることもあるし。

実際、学校で見知らぬ先輩・後輩からサインを求められることだって多々あった。

それ以上に、彼女自身が非常に目立つ存在であることも事実ではあるのだが。

無論、本人が認めてはいなかったが。

 

(そういえばさっきから気になってるんだけど……)

ふと、疑問を感じ立ち止まる。

九十九の勤務している軍施設に行くのはなにも今日が初めてではない。

記憶が確かならば、この道には住宅らしい建造物は殆ど無かったはずだし

当然ながら、飲食店の類も存在しない。

(なのにさっきから……)

風に乗って運ばれてくる、鼻口をくすぐるこの美味しそうな匂いは何だろうか?

 

 

 

じゅじゅ

「よう、ユッキー!奇遇だな!」

ごす!!

思いっきりこけてしまい、頭から地面につっこんでしまう。

「あ…あ…あ…」

「ん、どうしたユッキー?いきなりぶっ倒れて」

「ユッキー言うな!!」

とりあえず起き上がる。

幻覚だと思いたかったが、目の前にはやはり今日の朝に

家から追い出したはずの少年、ミカヅチが立っていた。

「あ、あんた!なんでこんなところににいるのよ!」

ちょっとこぶが出来たらしい額をさすりながら叫ぶ。

しかしミカヅチはというと飄々とした顔で

「追い出されたからなあ」

と答えた。

「違う!私が聞きたいのはそういうことじゃなくて!」

なんだか場所が変わっただけで昨日と同じことをしている気がするが

それでもユキナは聞かずにいられなかった。

 

「どうして、軍の施設の真ん前で、

 こんなものを開いてるのかって聞いてるのよ私は!」

 

「こんなもの、とは失礼な」

あまり堪えてない様子で手に持った金属の『へら』をリズム良く動かす。

そう、目の前の少年ミカヅチは、

何故か、木連の軍施設の入り口のすぐ近くで、

 

じゅじゅ〜……ざっっ!!(かきまぜる音)

 

「一つで300円だ。いくらユッキーでもこれ以上はまからんぞ」

焼きそばを焼いていた。

真剣、そのものの表情で。

 

 

 

匂いは元祖、懐かしのソース味。

 

 

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

              外伝 第3話   

        『Boys』 be ambitious

 

 

 

 

 

この世界、材料を生かすも殺すも

料理人の腕次第。

職人の経験と腕があってこそ生まれる究極。

親父と素材の魂のツープラトン。

「ちなみに俺はまだ親父と呼ばれるほどの歳ではないので

 『親父』ではなく『兄貴』もしくは『あんちゃん』と呼ぶように」

「はあ」

屋台近くに設置されたベンチに座っている九十九がミカヅチの言葉に生返事をする。

隣にはあからさまに不機嫌オーラを発している妹、ユキナもいた。

〜……で、ミカヅチ君はここで一体何をしてんるんだい?」

顔を引きつらせながら九十九が言う。

もちろん、理由は隣にいる妹の殺気が怖いからだ。

「焼きそば、売ってます

真面目な顔で返すミカヅチ。

その正面で、麺が香りを振りまいて鉄板を跳ねる。

横にいるユキナの不機嫌オーラが更に増したのを感じ、更に冷や汗をかく九十九。

「そ、そうじゃなくて。何でこんなところで、ってことなんだ。

 別にここじゃなくても街の方でやったほうが良いじゃないかな」

「でも、売れてますし

「それはそうなんだが……」

実際、ミカヅチが開いている焼きそばの屋台の客の入りは上々だった。

物珍しさ、というのもあるのだろうが

味のほうもしっかりしていて、尚且つお昼時ということもあって

施設に詰めている軍人の方々が次々と買っていくのだ。

「……ちなみに、この屋台とかはどこから?」

「メイド・イン・ミカヅチ君です」

「自作なのか……!?」

なんかどうでもいいことに戦慄する九十九。

その様子を黙ってみていたユキナが辛抱できずに叫んだ。

「だから、そういうことじゃなくって―――――!!」

「はい、どうぞ」

「!?」

突然ミカヅチに何かを投げつけられて驚く。

何とか落とさずに受け取るとそれは――――

「……焼きそば?」

そう、今ミカヅチが売っている焼きそばだった。

パックで2つ。

多分、一つは九十九の分だろう。

「昨日の夕食及び今日の朝食のお返し。

 まあ、割に合わないとは思うけど味には自信があるから」

「ッ!!だから人の話を――!!」

 

きゅるるるるる……

 

「……」

「……」

「///」

大人しく、ベンチに戻るユキナ。

音の元凶は言うまでもあるまい。

九十九に弁当を届けにきたユキナは、まだ昼食を食べていなかったのだ。

「しょ、しょうがないわね。そこまで言うなら食べてあげるわよ!!」

ちょっと顔を赤らめてユキナが言う。

それ苦笑いしながら見ている九十九とミカヅチ。

「あ、九十九さんもそれ、どうぞ。トッピングはご自由に。

 青海苔、ソース、マヨネーズ。基本は殆ど揃えていますから。

 なんとパンまであったりします」

「あ、ああ、有難う。遠慮なくいただくよ」

どうぞどうぞ。あ、いらっしゃい。2パック?600円になり

新しく来た客の応対に入るミカヅチ。

黙々と食事を始めるユキナと九十九。

機械で制御された昼間の陽気が、ソースの匂いを漂わせて

心地よくふりそそいでいた。

 

 

 

「さて、と。これでひと段落ついたかな」

エプロンを脱いだミカヅチが一息つく。

1時も過ぎて、ようやく客足が途絶えてきたところだった。

ちなみに九十九とユキナはまだベンチに座って、ミカヅチに出された麦茶を飲みながら

食後の余韻に浸っていた。

「どうだった、ユッキー。僕の焼きそばは?」

「……美味しかったわよ」

「おお、褒められた!!聞きました九十九さん!?ユッキーに褒められましたよ!!」

「は、ははは……」

苦笑いをするしかない九十九。

「ああ、うるさい!!その程度で騒ぐじゃないの!!ていうかユッキーって呼ぶな!!」

追いかけるユキナに逃げるミカヅチ。

完全にミカヅチはこうなる事をわかっていてやっていた。

確信犯である。

その微笑ましい(?)光景を、九十九は笑いながら眺めていた。

 

「九十九、こんなところにいたのか」

「ん?」

聞きなれた声に顔を向けると

「元一郎か」

そこには九十九の親友である木連優人部隊の佐官の一人、月臣 元一郎が立っていた。

「どこにもいないから探したぞ。こんなところで何をしているだ」

「いや、ちょっと知り合いがいたものでね」

「知り合い?」

そう呟いて九十九の視線の先を見る元一郎。

そこには屋台に置いてあったまな板を片手に銀髪の見知らぬ少年を追い掛け回している

九十九の妹、ユキナの姿があった。 

「あれはユキナちゃんか……相変わらず元気そうだな」

元一郎はユキナとも面識がある。まあ、家が近くなので当たり前といえば当たり前だが。

「知り合い、というのは彼女の事か?」

「まあそれもあるが、相手の少年も。昨日知り合っただ」

「ほう」

再び元一郎がミカヅチに視線を戻すと、ちょうどこちらに戻ってくるところだった。

ユキナはというと、疲れたのか遠くの街路樹によりかかってへばっていた。

どうやら逃げ切ったらしい。

「九十九さん、ひとつ聞きたい事があるだけどいいですか?」

「ん、なんだい?」

ミカヅチの言葉に軽く答える九十九。

「この施設……っていうか、木連全体で一番偉い人って誰ですかね?」

しかし、その質問に眉を顰めた。

横では元一郎も同じようにしている。

それもそうだろう。そんな常識、普通は聞くまでもないのだから。

「何でそんなことを―――」

「小僧……貴様、何者だ?」

「元一郎!!」

元一郎を諌める九十九。

しかし元一郎は引かず、警戒心を隠そうともしない。

「もう一度聞く、貴様……何者だ?

 そのような事はこの木連住民全てが常識として知っている事だ」

「……」

元一郎の言葉は事実である。

何しろ、当の本人はTV番組に出演するほどの有名人(?)なのだから。

知らないはずがない。

しかしミカヅチはその言葉をものともせず

いや、唯一……向こうにいるユキナには聞こえないように言った。

 

「そりゃ知りませんよ。僕は地球の人間ですから」

 

当然という感じで、飄々と。

 

「な!?」

「何だって!?」

警戒していたとはいえ、思ってもいなかった告白に言葉を失う二人。

当然だろう。

現在木連は、地球と戦争状態にある。

その敵、地球の人間が木連の本拠地ともいえるこのコロニーにいる、というのだから。

勿論、ミカヅチの言葉が真実だとして、だが。

「―――ふッ!!」

「元一郎!?」

瞬間、横にいた元一郎がミカヅチに向かって飛び出した。

「っと」

「!?」

驚くべき速さで掌打を放つ元一郎。

しかしそれをも上回る速度で、ミカヅチは後方へと跳ねていた。

(元一郎の技を避けた!?あんな子供が!?)

月臣元一郎は木連に伝わる格闘術『柔』の使い手である。

その腕前はかなりのものであり、素人や子供がそうそう簡単に見切れるものではない。

しかし、目の前の『敵』と名乗った少年はそれを完璧に避けて見せたのだ。

その衝撃に呆然となった九十九だったが、今はそんな場合じゃないと我を取り戻し

慌てて元一郎を抑える。

「落ち着け元一郎!!きっと何かの冗談―――」

「奴の右手を見ろ、九十九」

言われて、ミカヅチの手元を見る。

昨日は黒い手袋のようなものをしていた為に見る事ができなかったが今は外されている。

そこには――――。

「あれは……報告にある、地球側のパイロットの刻印!?」

「刻印って、古い言い方ですねぇ……」

ミカヅチの言葉はともかく、確かにそれは右手にあった。

知っているのとは少し形が違うが、それが木連にある技術ではないことだけは確かだ。

(では、本当に――!?)

「ねえねえ、さっきから何やってるのよ

緊迫した空間に、ユキナが乱入してくる。

会話の内容を何も知らないユキナは、平然と『敵』であるミカヅチに話しかけていた。

(しまった、ユキナ!!)

(人質か、卑劣なり地球人!!)

九十九と元一郎の頭にそんな言葉が浮かんだが……。

 

「ん、ちょっとオトコ同士の話し合い」

「はぁ?」

「ユッキーには関係のないってことだよ。アンダスタン?」

「な〜んか、気になる言い方ねぇ」

「んなこたぁないさ。ちなみにオトコっていう字は『男』ではなく『漢』って書くだよ?」

「そんなどうでもいい知識は要らないわよ」

「そか」

 

「……」

「……」

唖然とする2人。

それもそうだろう。自ら敵と名乗った少年が、別に何をするでもなく

敵側の少女(ユキナのこと)と話しているのだから。

それも、友達のように。

 

やがてユキナはその状況に飽きたのか、もと来た道を辿って家に帰ってしまった。

友達を見送るように手を振るミカヅチ。

その光景を呆然と見送る軍人気質の2人。

「どういうつもりだ?」

元一郎が声を絞り出す。九十九も同感である。

「あのねえ」

当のミカヅチはというと溜め息をついて

「確かに僕が地球の人間だとは言ったけど、あなた達に敵対するとは

 一言も言ってないでしょうが」

(そういえばそうだな)

妙なところで関心してしまう九十九。

しかし元一郎は「信用できるか!!」と叫んでいる。

んなこといわれてもねえ……」

 

ちょうどその時、ユキナと入れ替わるように

門の前で言い争いをする3人(正確には元一郎だけ)の前に1台の高級車が現れた。

3人が門を塞ぐような位置にいるために、中に入る事ができないのだ。

それを見かねたのか、車の中から大柄な人物が顔を出す。

「おいおい、こんなところで何をしているだ?」

「秋山!!」

そして、もう一人

「く、草壁中将!!」

「何!?」

慌てて敬礼の形をとる九十九と元一郎。

(中将?ってことは偉いさんか)

逆に冷静なミカヅチ。

大柄な男の次に車から降りてきたのは、九十九達のような白色の軍服ではなく

紺色の軍服に身を包んだ、いかにも威厳を漂わせた中年だった。

「これは何の騒ぎだ、月臣」

「はっ、それが……」

「あんたが木連の総大将なの?」

ミカヅチの言葉に振り向く草壁。

「……そうだが。少年よ、君は何者だ?」

律儀にそう返してきた。

憤怒の表情で元一郎が

「貴様!!閣下から離れろ!!」と叫ぶが

「いや、離れたら話出来ないし」とミカヅチはなんなく流す。

 

「状況がよくわからんな。白鳥、どういうことだ?」

呆れた顔をした秋山源八郎が九十九に問いかける。

言葉にはしていないが、きっと草壁も同じ気分だろう。

「あ〜、はい。閣下、報告いたします。

 あの少年――風間 御雷と名乗っているのですが

 どうやら……地球の人間らしいです。間違いはありません」

包み隠さずに報告する。

しかし、なんとも間の抜けた話だなあ、とも思う。

その言葉を聴いた秋山も、驚くというよりは「何で?」という顔をしていた。

「少年よ」

草壁が、一歩前に出てミカヅチに話しかける。

「話は聞いた。君が地球の人間だということも、だ。

 しかし解せないことが2つほどある」

流石というべきか、こんな状況でも草壁は落ち着いていた。

ミカヅチのほうも話ができる人物だと解したのか、真面目な顔つき(のつもり)になる。

続きを口にしたのはミカヅチのほうが早かった。

「一つは何をしに来たのか、でしょう?」

黙って頷く草壁。

「簡単に言えば、あなた方の助けをしに来ました。

 もう一つ言えばこれは僕が単独でしていることで

 他に仲間はいませんのであしからず」

「助けに、だと!!ふざけるな!!」

再び激昂する元一郎を、草壁が手で制する。

「言いたいことは分かった。

 しかし君のような子供が我々の味方になったところで

 何の益があるというのだね?」

「ああ、それはもう一つの質問の答えにも重なります」

そう言ってミカヅチは、頭にしたままだった三角巾を外すと

「もう一つの質問、どうやってここに来た

……いや、来れたのかっていうのはこういうことですよ」

 

 

 

光が収束して

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

消えた。

 

 

 

 

「分かりましたか?」

後方からの声に一斉に振り返る。

そこには今、目の前で消えたはずのミカヅチが、車のボンネットに腰掛けていた。

「これは……」

「馬鹿な!?」

「跳躍だと!?しかも単体で!?」

「……」

驚きを明らかに表現する九十九、元一郎、秋山。

草壁も、声にこそ出さないが明らかに目の前の出来事に目を剥いていた。

 

「どうです、木連の総大将さん?」

 

ミカヅチは、そんな面々をからかうように笑って

 

「買いませんか、この僕を?」

 

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき

 

こういうのもなんですが、外伝を書くのは本当に骨が折れます。

本編は、原作のストーリー+αなんで比較的すいすいと書けるですけど

外伝は完全にオリジナルですからね。

まあ、補完するためには仕方がないことなんですが。

自業自得とも言いますけどね。

 

今回は木連士官組がいずいと出てきましたね〜。

草壁の表現に少し不安が残ります。

なんだかんだ言っても原作でも出番少ないですし、彼。キーパーソンなのに。

 

 

 

では今回はこの辺で。

んで、ここからはいつもの言葉。

でもちょっと違いますよ〜。

 

んじゃ

 

感想下さい!!マジで!お願いします!!

 

 

物語の方向性、これでいいのか!?とか凄く不安なんですよ。

つっこみメールも大歓迎。

 

では、次は多分本編で。

 

 

 

 

                   H14、6、2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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