『カイトも!!やっと一緒にいられるようになったんじゃない!!

 やっと……やっとお姉さんらしい事が出来ると思ってたのに……!!』

「……そう思ってくれていたとはね。ありがとう、姉さん」

姉さん。

自分にとって、唯一『家族』と呼べたはずのひと。

だからこそ、こんな所で立ち止まらせる訳にはいかない。

『そんな……』

「辛気臭い顔すんなって。これで最後になんてするつもりないんだからさあ。

 次にナデシコが来る時まで、ゆっくりとさせてもらうよ」

嘘じゃない。

自分だってこんなところで死ぬ気は無い。

まだまだするべきことは沢山あるのだから。

ゆっくりする、というのは嘘になるけれど。

『カイト……』

「んじゃあ、爬虫類とのデートが始まっちまう。……またな」

言うべきことはすべて言った。

もう会うことも無いかもしれないけど、悔いは無い。

通信を切る。

チューリップに背を向けて、蜥蜴の大軍に向き直る。

そして――――。

 

 

 

「さあて、と・・・…お手並み拝見としますかね!!」

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

              外伝 第1話   

              『Dance』

 

 

 

 

(距離300……200……100っ!!)

「りゃあああああっ!!」

正面に向かって思いっきり腕を突き出す。

エステバリスの内蔵兵器、ワイヤード・フィストが勢いよく飛び出し

敵艦の艦橋に突き刺さった。

1秒とたたない内に爆発、他にも何隻かの小型艦を巻き込んで沈んでいく。

しかし、まだ終わらない。

射出した腕が回収されるよりも早く、その場を離れる。

直後、その空間を何条ものビームが通り抜けた。

(残り稼動時間はあと341秒……敵は……)

IFSを使って周辺の状況を調べる。

本来ならこのような仕事は自分でするまでもなく、オモイカネやルリちゃんが

逐次報告してくれるものだけど、いない以上は自分でするしかない。

(彼我戦力差・・・…1対4579か。いいかげん嫌になってくるな)

首もとの汗を手で拭いながら苦笑いをする。

これでも最初は1対6000程度もあったのだ。

エステ1機でここまでやれたのだから上等だろう。

「とはいえ・・・…さすがにこれ以上はきついか・・・…」

かれこれ1時間ほど戦いつづけているカイトには、いつもの余裕の表情はなかった。

それもそうだろう。このエステには、もう殆ど武装が残されていない。

ラピッドライフルは随分前に弾切れになって捨てた。

イミデュエットナイフは20分程前に213機目のバッタを墜とした時点で

折れてしまったし、ワイヤード・フィストも既に片方が無くなってしまっている。

増装も尽き、稼働時間も残り少ない。

ついでに言えば、疲労もこたえている。

こうして敵の大群に囲まれて、まだ生きていること自体が不思議なくらいだった。

「っ!?」

思考に気をとられた為、反応が一瞬遅れてしまった。

唯一の武装ともいえる右腕のワイヤーが、敵艦の砲撃で焼き切られてしまう。

「こんの・・・…!!なめるなああああああっ!!」

幾つもの砲撃をくぐりぬけて、回収しそこねたワイヤーを腕に巻きつけ勢いよく振る。

さながらハンマーのごとく円を描いて、切り離されたフィストは何機かの

バッタと共に爆発した。

「へっ・・・…のわああああああっ!?」

だがその瞬間、背後に回っていたバッタの体当たりを受けてしまった。

軋みをあげながら、火星の大地に叩きつけられる白色のエステバリス。

機体の重力制御も追いつかないのか、コックピットにもろに振動が伝わってくる。

(んの野郎!!)

すぐに立ち上がり、迎撃しようとするが――

・・・・・…

「あら・・…・?」

いくらIFSに指示を出しても反応しない。

それだけじゃなかった。

計器のほとんどが反応を消し、モニターの映像もゆっくりと消えていった。

(・・…・機能…停止・・…・?)

ついには、非常用の緊急灯を残してコックピット内は暗闇に包まれる。

どうやら先ほどの集中攻撃の時にバッテリーの方が先にいかれてしまったらしい。

「ゲームオーバー・・…ってか」

闇の中で、溜め息をつきながらカイトはそう呟いた。

――本当に、残念そうに。

 

 

 

「ていや!!」

金属片が弾け飛び、エステバリスの胸部ハッチが火星の大地に転がる。

機体の装甲が歪んでしまい、手動では開くことすらままならなかったので

強硬手段を取ることにしたのだ。

「ただいまの蹴撃力は300キロってか・・・・…さてと」

はいあがるようにして外に出る。

「ふいい……気持ち良い……」

火星の荒野に吹き荒れる風が、火照った体に心地よかった。

これで頭上を飛び回るバッタの群れがいなければもっと最高なのだが。

「しかし・・・…エステ1機にここまでやられるとはねぇ。

 量はあるけど質悪しってところか。

 これじゃあせっかくの『工場』も宝の持ち腐れだな」

溜め息をつきながら腕を組み、考え込む。

ちなみにその頭上には殺意を持った機械兵器たちが目を光らせているのだが

その標的であるカイト自身は全く意に介していなかった。

(このままじゃあ、今は蜥蜴が押していても

 ナデシコ級が本格的に戦闘に参加してくるようなことになったら

 あっさりと勢力図が塗り替えられちまう。

 そうなったらいろいろと厄介か……ん?)

一応、多少は気にかけていたバッタ達の動きが目に見えて変わる。

どうやら攻撃準備完了、ということらしい。

人ひとり殺すのに大げさなことだ。

まあ、機動兵器たった1機であれだけの大立ち回りをしたせいで警戒されている

だけなのかもしれないが。

「……ふむ」

さすがにこれ以上、ここに居座るのは状況からみてよろしくないらしい。

(提督の方も自分の仕事は果たしたみたいだし……)

ナデシコが入ったチューリップの方を見る。

その辺りには激しい爆発の跡と、ところどころにクロッカスの残骸らしきものが

残っているのが見てとれた。

チューリップの姿は無い。

どうやらクロッカスの爆発に巻き込まれ、完全に消滅したようだった。

(引き上げ時かな)

その瞬間、火星の大地に転がったエステの残骸にバッタ達の砲撃が集中した。

「五月蝿いな……」

 

 

 

砂煙が晴れ、着弾跡が明らかになる。

そこには全身に機銃の雨を浴び、ボロボロの

鉄の塊と化したカイトのエステバリスが転がっていた。

それを確認した木星蜥蜴の艦隊は、早々に引き上げていく。

 

 

 

だが、そこにカイトの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

――――――to be contenued next stage

 

 

あとがき

 

というわけで、外伝 第1話をお送りします。

本編を読んだ方は分かると思いますが、この話は本編第9話直後の話を

カイトの視点で語っています。

話が短いのは、これが外伝の中でも『序章』に当たるからでしょうか。

次からはいつも通りの長さになる……と思います。

本編の方では現在、デルタ=フレサンジュが出張ってますが、

こっちは完全にカイト中心です。

その代わりルリの出番はほとんどありませんけどね。

まあ、代理というわけではありませんが次の話からは本編よりちょっと早くあの娘が登場。ついでにその兄も出ます。

できれば「ルリが出ないナデシコSSなんていらん!!」なんて言わずに

読んでくれると嬉しいっす。

 

それでは、外伝 第2話でまた会いましょう。

しーゆー。

 

 

                         H14、2、4

 

 

 

 

 

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