西暦2195年、火星ユートピアコロニーにひとつの戦艦が落ちた。

名称「チューリップ」

突如、地球に攻撃をしかけてきた謎の地球外勢力「木星蜥蜴」の

母艦と、後に認識されたものである。

火星軌道上で行われた第1次火星会戦にて、圧倒的不利を悟った宇宙軍の提督が

敵の母艦であるチューリップに特攻をかけたことが原因であると公式では発表されていた。

結果、火星への侵入コースをとっていたチューリップはその攻撃で進路をねじまげられ

本来、被害の出るはずのないユートピアコロニーへと墜落してしまった。

コロニーの地表部分は壊滅。

何とか生き残った人々も、地下シェルターに閉じこもり、木星蜥蜴の侵略に

怯えながらも、来るはずのない救助に希望を託して生きつづけている。

 

そして、彼もそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ  Another Story

           「TIME DIVER」

 

              プロローグ 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

「うわあぁ!ありがとう!」

「すいません、わざわざ」

「いいえ、どうせ仕入れの途中だったんで」

頭をさげた少女の母親に、青年は優しい顔でそう言った。

彼の名はテンカワ=アキト。

黒髪が良く似合う、気の優しそうな青年だ。

「アキトぉ?この箱ってどこに置けば良いんだ?」

アキトの後ろから声がかかる。

アキトは振り向いて、少し思案したあと答える。

「ああ、向こうの車の荷台に乗せといてくれ」

「は〜い」

「あら、妹さんですか?」

先ほどの少女の母親が、ダンボールを抱えて去っていく後姿をみながらそう言った。

「いえ……、違います。あと、あいつ男ですよ。ああ見えても」

「ええ?そうなの、てっきり女の子だと……」

「本人の前で言わないで下さいね、気にしてるみたいですから」

と、アキトはミカンを渡した少女が自分の服のすそをくいくいと引っ張っているのに

気付いて、視線をそちらに移す。

「ねぇ、お兄ちゃん!デートしよう!」

「え?」

突然放たれた場違いなセリフに、アキトは一瞬、呆然となった。

後ろでは、母親がくすくすと笑っている。

「私ね、アイっていうの!」

その言葉と同時に、アキト達がいるすぐ近くで、何かが爆発した。

 

 

 

 

「聞こえてるんだよ……ったく」

アキトに言われた車のほうへ歩きながら、少年はぼそりと呟いた。

彼には、アキトと話していた女性の言葉がはっきりと聞こえていたのだ。

『てっきり女の子だと……』

別にいまに始まったことではなかったが、それでも気になるものは気になる。

自分自身の様姿に原因があるのだから仕方がないのではあるが。

実際、長いので後ろで束ねて結んである青い髪は、女の子のようにさらさらしているし

顔の方も、年齢が13という幼さも手伝ってか、ぱっと見は完全に女の子である。

いや、注意深くみないと男にすら見てもらえない程だ。

アキトに「髪を切ればいいじゃないか」といわれた事があり、一度だけ

思いきってショートカットにしたこともあったのだが

それでも女の子に間違われたため、今ではもう不貞腐れるように伸ばしつづけている。

「上との連絡はまだとれないのか!?」

「無駄なんじゃないの?全滅したって話だぜ」

ふと、近くからそんな会話が聞こえてくる。

みると、軍人らしき男と中年の男性がなにやら口論をしていた。

口論といっても、中年の男性が一方的に軍人に絡んでいる、と言う感じではあったが。

「……」

少年はその様子を横目で見ながら、頭の中で「全滅」という言葉を反芻させていた。

(全滅……してるんだろうな、きっと)

事実、第1次火星大戦に惨敗した宇宙軍は、火星宙域からすでに撤退しているし

コロニー及び火星全域の防衛軍もチューリップの落下により、ほぼ壊滅状態であった。

四面楚歌。

昔の人は言い言葉を思いつくよな、としみじみと思う。

正に、今の自分たちはそんな状況だった。

 

 

「うわあぁぁぁぁ!!」

「に、逃げろ!殺されるぞ!!」

荷物を運び終えて、アキトのもとに帰ろうとしたのだが、突然、人が大勢

こちらに走ってきているのに気付いて足を止める。

(殺される……?)

適当にその辺を走っていた男の手を掴んで、立ち止まらせると

出来るだけ冷静な顔で尋ねた。

「何があったんですか?」

「異星人だよ!!奴等のロボットが一機、第3区画に出たんだ!!」

「第3区画に!?」

まずい、第3区画はアキトがいた場所に近い!

「もういいなら俺は行くぞ!?嬢ちゃんも早く逃げな!!」

「嬢ちゃん!?」

また女に間違われたことに気付き文句を言おうとするが、その時には

男はとっくに通路の奥に消えていた。

(って、そんな場合じゃないだろ!?)

そう思った少年はアキトのいる第3区画へと、全力で走り出した。

 

 

 

「俺が奴を食い止めます!!その間に皆さんは避難を!!」

「お兄ちゃん!?」

アキトは、アイと名乗った少女に「大丈夫だよ」という視線を送ると

運搬用の車に乗り込んでIFSを接続し、一気に最大速で走らせた。

「いっけええええええぇぇ!!」

脳を揺らすような強烈な振動と共に、敵のロボットに車が体当たりをしかける。

敵の虫型ロボットはふんばりがきかず、そのまま車と壁に挟まれるような形で

移動不能に陥る。

「まだまだぁぁ!!!」

さらにアキトは車の出力を上げてロボットを挟み込む。

しばらくは抵抗するように足をばたつかせていたロボットだったが、

耐え切れなくなったのか、やがて電源が落ちたように動かなくなる。

「「「おぉ〜!!!」」」

「お兄ちゃん、すごい!!」

後ろで非難していた人達から、アキトに向けて歓声があがる。

そして「よし、開いたぞ!」という声。

ロボットが現れてから別区画への扉を手動で開けようとしていたのでその事だろう。

自分も避難しようと車から降りようとした時……。

 

 

 

「!?……爆発音!?こっちか!」

少年は聞こえた爆発音の方へ、再び走り出す。

ようやく現場に着いた少年がその場で見たものは……。

「あ……ああ……」

目の前は赤で埋め尽くされていた。

血の赤、炎の赤、無数のロボットの目で光る赤、赤赤赤……。

「うわあぁぁぁぁ!!」

自分のものではない叫び声に我に返った少年は、車に乗っている見知った顔を見つけて

安堵した。アキトだ!まだ生きている!

「アキト!」と叫び、そこへ走り出そうとしたが、不意に聞こえた

「お兄ちゃん!!」という女の子の声に足を止める。

(生きてる人が他にも!?)

声のした方を向くと、自分と同じようにアキトのもとへ走っていこうとする

8歳ぐらいの女の子が見えた。そして、その子を狙う、ロボットの銃身も……!!

「あ、危ない!!」

別に自分が行った所でどうこうできるはずもなかったのだが、それでも少年は

少女のもとへ駆け出していた。

 

少年の手が、少女の肩に触れたとき

 

ロボットの銃身が光ったとき

 

「うわあぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

光が、あふれた。

 

 

 

 

 

――――――――――――to be contenued 

 

 

後書き……というか中書き

 

初めてのネット投稿作になります。えでん、と申すものです。

まぁ、読んでくれている人ならご存知だとは思いますが。

 

読んでいただいて気付かれたと思いますが、この小説は基本的にTV版の話に

オリジナルキャラを登場させる、いわゆるTV改訂版となっています。

「先が読めるからつまらない」なんて事を言わず、心を広く持って読んでいただけると

嬉しく思います。

ちなみに、主人公の名はカイト。

次の話でわかりますが、実は○○○の弟です。

……設定に無理があるとか言わないで下さい。自分でも分かってますから(泣)。

とりあえず、暇があれば書いているのでどんどん更新できると思います。

どぞ、よろしく。

 

ところで……ガイ(仮)は生きてたほうがいいですか?

 

最後に、この小説を掲載してくれる許可をくださった

管理人のムタ氏に感謝します。                01、7、6


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