赤のレジェンド2


これはオーブ国盟主、カガリ・ユラ・アスハがプラント主席秘書殺害犯を尋問した際の記録音声とされている。

 

 

――カチリ

 

「何故プラントの議長を殺そうとしたんだ」

「復讐の為、プラントのオーブ侵攻によって俺の妹は死んだ。いやザフトに殺された」

「それは違う! アスランは、いやプラントの議長はオーブを守る為に戦ってくれたんだぞ!」

「だからなんだ? 妹を殺した連中を許せと言うのか?」

「違う! もうそんな事にならない為に私達は講和を結ぼうとしたんじゃないか、それをお前が邪魔したんだぞ!」

「もう一度言う、だから何なんだ? 講和が結ばれれば妹は生き返るのか?」

「違う違う!! お前の妹だってそんな復讐望んでない筈だ、何故それが解らない!!」

「貴様に何が解る!!! 妹はモビルスーツの下敷きになって死んだんだぞ!? 最後の言葉は『死にたくない』だ!

 勝手な事を言うな!!」

「それは・・・でも、だからって、復讐したからって妹さんは生き返らないだろう? こんな事無意味じゃないか」

「無意味だから我慢しろというのか! だったら貴様も大切な物を奪われてみろ!」

「私の父上だって連合に殺された」

「知っている。勝てもしないのに無意味に連合に抵抗し、国を焦土にしたあげく自分の娘だけは安全な宇宙に逃がした

 あげく自分の仕出かした事に何の責任も取らずに自殺した最低の男だ」

「貴様、父上を侮辱する気か!!」

「何を怒っている? 無意味なんじゃないのか?」

「くっ・・・」

「そしてその娘は国家主席になったが国の混乱期に国を捨て行方不明。国は混迷を極めたあげく今度はプラントに攻め

 込まれた」

「それは・・・」

「親子そろって国を焼いたわけだ。アンタが無能じゃなければ俺の妹は死ななかったんだな」

「うっ・・・ぐっ・・・」

「私の事はいい。無能の誹りも受けよう、すまなかった」

「馬鹿にしているのか?」

「いや、だが、だからこそ同じ過ちは絶対に犯さない。お前のような人間を減らしてみせる」

「詭弁だな」

「人殺しは罪だ。お前はオーブの法の裁きを受けて罪を償え」

「・・・」

 

 

バタン(扉が閉まる音と思われる)

 

 

「カガリ、あの男をプラントに差し出すべきだ。こちらに明らかな非がある」

「それは出来ない」

「カガリ!」

「だって・・・あいつがああなってしまったのは私のせいなのだろう? 私が、あの時・・・」

「それは違う! お前がそんな責任を負う必要はない。人殺しは罪だ、そして相手はプラントの議長を殺害しよう

 とした重罪人なんだ」

「命の重さに違いは無い。あの男の罪はオーブの法で裁く」

「いけないカガリ!」

「もう決めた事だ、かの者はオーブ国の法に照らし合わせて罪を償わせる。変わりにいかようでも詫びよう。国の

 資源、技術、何でもいい、誠意を見せるつもりだと。プラントにそう返答せよ!」

「カガリ!」

「アスランなら私の気持ちを解ってくれる」

 

数分の静寂 (カガリがその場から立ち去っているのだと思われる)

 

「・・・解るわけがないだろう? お前は、結局自分の正義を標榜しながら強者に依存している事に何故気付かないんだ?」

 

 

カチリ――

 

 

音声はここで切れる。

 

 オーブの盟主がわざわざ尋問する事。盟主と呼ばれるほどの人間が全くもって感情でしか物事を語っていない事。

そして尋問される側があまりにも無礼に過ぎる事等からこれは戦後に捏造された物であると言うのが現在の常識である。

 ただ歴史家の多くはオーブ国盟主カガリ・ユラ・アスハのひととなりを調査するに、このテープの信頼性は兎も角、

似たようなやり取りは実際にあったのであろうという見解が大多数を占めている。

 国の理念を無視し、血税を使ったゲリラゴッコや、国家の一大事に何の方策もせず、親類や子飼いの仲間と共に国を捨てる

等の信じられない奇行の数々、感情論だけで喚きちらし、具体的な方策を何一つ示さなかったオーブの盟主時代。

カガリ・ユラ・アスハを調べれば調べるほどありえると言わざる追えない実績が彼女にはあった。

 そんな彼女が戦後の2大大国の一国を成した事実は驚嘆に値する。恐ろしい程の悪運の強さだけではない、

自身の失態全てを国の復興に仁力し、わずか2年でオーブを元の技術大国に復興させたロマ家に擦り付け、

ロマ家を貶める事で見事オーブを掌握した政治手腕などさすがオーブの獅子の娘と言える実力も併せ持っていたのであろう。

 

だがそこまでである。

 

 自国の軍事力を背景に正論を叩きつけるだけの外交ではいざ自国のほころびをみせればどうなるかは自明の理である。

 

カガリ・ユラ・アスハの政治などこの程度だった。

 

 

 

そして誰も望まない戦争が始まる。

 

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