● (No.637) FO-29 周波数変動と衛星温度の推定 (2009年7月5日) ---------------------------------------------------------- FO29's Frequency Variability and Spacecraft Temperature by James A. DeYoung, N8OQ (ex KG4QWC) The AMSAT Journal March/April 2009 訳 JE9PEL/1 脇田美根夫 2007年4月20日、FO-29 (別名 JAS-2, 24278, 1996-046B) は、SV1BSX 局により ヨーロッパ上空で聞こえなくなったことがわかった[1]。 私は、2007年4月19日 にテレメトリを捕捉し その値に何も異常がないことを記した[2]。 それ以前の 2004年4月8日に 最初にN7EQF局が FO-29 が聞こえなくなったと記述し報告した AMSAT-BB記録付託のあとがきの最後に、私もまた記述した[3]。FO-29 が聞こえ なくなった というこの両方の明らかな原因は、バッテリー容量が減少したとい うことと 日照期間のフルバッテリー充電を妨げる長い蝕期間にあった。このこ とは 蝕期間の全残量パワーを供給する電源システムが働かなかったことによる。 私は、2006年7月、FO-29 V/U ループバック周波数の調整値を測定することを始 めた。その後、2007年1月にビーコン周波数の測定を始めた。両方とも周波数の ゆっくりとした変動が観測された。AO-7 の観測と報告がされたのと同様に、蝕 期間に関係している温度変動が現れた。AO-7 に関するハードウェアの詳しい基 本的情報と測定の記事が以前に公開されている[4]。 これで FO-29 の温度変動 は、局部発振器(local-oscillator, LO) の周波数安定度に影響を与え、そして 管制局が測定した周波数を衛星の平均温度に関連付ける可能性が生じた という 理論を断定できた。 この記事は、N8OQ局が測定した送受信(V/U)トランスポンダループバック周波数 変動が平均衛星モデル温度と関連している という結果を示している。さらに、 衛星モデル温度を平均化するための 70cm絶対ビーコン周波数変動が明らかにな るだろう。関連しているループバック周波数の変動 あるいは絶対ビーコン周波 数変動を測定することによって 簡単に衛星温度と結びつく。これらの関係は、 テレメトリビーコンの値が "誤り" の時であっても、あるいは ビーコン/テレ メトリのシステムがオフでも、衛星温度を得ることに使える。 FO-29 ループバックとビーコン周波数の観測値変動 まず私は、FO-29の V/Uトランスポンダーと U帯ビーコンの両方のループバック 周波数のずれを、安定しているかどうかわからなかったので それらの活動を確 かめるために観測を始めた。その測定をしていた時、スプレッドシートに 単純 な時系列と、対応する蝕の 1日の平均時間の割合(%)を入力してプロットした。 SCRAP (Satellite Contact Report Analysis and Prediction)[5] を、蝕の1日 の平均時間の割合を算出するのに使った。 蝕の時間の割合は、衛星温度に直接 物理的に関係していて、FO-29 は この蝕の割合に強い関係を示すことによって 失望させない。図1と図2は、N8OQ局が測定した 太陽光の割合に対する周波数 のプロットである。ビーコン周波数の範囲は トランスポンダー・ループバック の観測よりも遅く始めたために、全てをカバーしていない。 図1: FO-29 の太陽光の 1日の割合に関連したループバック周波数変動のプロ ットである。図中の最小二乗直線は、 LBf = -0.0667 * SI% + 5.1490 である。 LBf は SI% が太陽光の割合である時のトランスポンダー・ループバック周波数 の調整値である。 相関係数は 0.895 で、標準誤り推定値は 0.340 であった。 水準値は、明らかにおよそ 87% から 100% 太陽光の間である。同様な水準値は また、AO-7 でも見られた[4]。 図2: FO-29 の太陽光の 1日の割合に関連した絶対ビーコン周波数変動のプロ ットである。図中の最小二乗直線は、BCNf = -0.0524 * SI% + 435801.528 で ある。BCNf は、測定したビーコン周波数(kHz) で、SI% は太陽光の割合である。 相関係数は 標準誤り推定値が 0.229 である時、0.85 であった。太陽光の範囲 は、ビーコン周波数の測定を ループバック周波数よりも遅く始めたために、全 てをカバーしていない。しかし 一般的な傾向を得るための十分なデータである。 FO-29 テレメトリによる熱モデルの有効性 太陽角は、低円軌道衛星の伝熱動向を理解することに役立つパラメータである。 太陽角がゼロの時は、衛星の太陽方向ベクトルは 最大蝕時間になるような軌道 平面上にある。また太陽角が90度の時は、通常 衛星が常に全日照にあるような 太陽方向ベクトルである。軌道平面の歳差により、FO-29 の太陽角は 時間と共 に徐々に変化する。全歳差期間はおよそ 8.5年である。ゼロ度の太陽角は 4.25 年ごとに繰り返し、この時に最大蝕時間がやってくる。そして 衛星のいかなる 電力も欠乏状態になる。次の最大蝕期間は 2012年中頃にやってきて、FO-29 の 電源蓄積は再び危機に陥る。図3参照。 図3: FO-29 の打ち上げから 2008年10月までの太陽角変動のプロットを 黒点 で示している。そして 2008年10月の軌道要素を使って SGP4 で計算した白点で そこから先を推測している。太陽角がゼロの時に 最大蝕時間が生ずる。最大蝕 期間は 4.25年ごとに繰り返し、図を見ると 次の最大蝕期間は 2012年の夏頃に 生ずると推測される。 FO-29 は、熱制御を受けている。太陽電池セル(ヒ化ガリウム) カバーグラスと 太陽電池面でない箇所に貼られているコーティングは 許容熱制御に関わる業者 によって調整された[6]。さらに FO-29 の姿勢は、"ホイールモード" と呼ばれ る回転によって維持されている。 これは、衛星の回転軸が軌道面に対し普通の 状態であり、滑らかな温度変動になるように設計されている。 観測したループ バックと 衛星平均温度の絶対ビーコン周波数を結びつけるために、標準熱平衡 方程式に関するモデルを必要とした。 ARRLアマチュア衛星ハンドブック (ARRL Radio Amateur's Satellite Handbook)に衛星システムの章があり、そこでエネ ルギー入出力と均衡方程式による軌道衛星平均温度推定の基礎 について論じて いる[7]。次の換算式1) は、衛星に影響を与える直接的太陽輻射(Pds)を与えて いて、それは近日点と遠日点の間の地球−太陽の距離の変動を調整(3.4%変動) する式である。 Po は直接的太陽輻射定数(1366 watts/m^2) [8],[9]で、R は地球太陽間の天文 単位 AU (astronomical units) である。 熱方程式については、FO-29 が太陽光に直接当たっている面の部分と同様に 総 表面積も必要である。この衛星 FO-29 は相対的な26面の多面体なので、簡単の ために単純なほとんど球体とみなしてその面積を概算した。球の直径は 0.455m とし、通常の方法でその球の表面積を 0.6504m^2 と計算した。太陽の直接光で 照らされている領域は、単純に総表面積の 1/2、つまり 0.325m^2 である。 衛星の熱行動に適用できるもう一つの構成要素は、太陽の反射熱と 地球の輻射 エネルギーによる Earth albedo (Ae) である。次の換算式は熱のこの構成要素 を示している。 ealb は Earth albedo の平均(0.3) で、scf は衛星の高度と外形の補正(shape correction)、あるいは外形の要因(shape factor)、外形モジュール補正(shape module correction) (0.19) と呼ばれている[10],[11]。FO-29 は近地点 806km 遠地点 1338km、平均して 1072km の正しい離心軌道である。FO-29(1072km) の 平均高度で熱変動に与える総 Earth albedo は、直接太陽熱のおよそ 2.8% で ある。標準の衛星熱方程式に関係する全ての要因は、次の式で与えられる。 T は平均衛星温度のモデル、A は直接太陽光によって照らされる FO-29 の領域 (0.325m^2)、αは衛星の平均表面吸収率、βは日照時の軌道の分数 (fraction of orbit in sunlight)、<A> は効果的な捕捉領域 (effective capture area)、 つまり、FO-29 の総表面積 0.6504m^2、σはステファン・ボルツマン (Stefan Boltzmann)定数 5.67*10^(-8) [joules/(Kelvin^4)(m^2)s]、そして e は 平均 表面放射率である。 吸収率と放射率 の具体的な数値は文献には見当たらなかったが、推定にはこの 二つの値が必要であった。 FO-29 の構体に使われている外材の吸収率と放射率 の初期値が関わっている。FO-29 の外壁は総領域のおよそ 75%が太陽電池セル で覆われていて、残りの総領域の 25%は明るい反射金属である。衛星の初期吸 収率はおよそ 0.85 と推定され、放射率は 0.48 と設定した。 0.85 と設定した吸収率を使って、換算式3) を解いて 平均構体温度と比較する ことにより、テレメトリから算出された四つの構体温度から放射率を計算した。 最終的な最も良い放射率の推測値は、全日照期間になっている時、つまり 衛星 の最高平衡温度の時の 0.58 であった。生のテレメトリと すでに変換されたテ レメトリの両方とも、ほとんどは AMSAT-BB に提供されたウェブから得られた。 私もまた、ここで使われているテレメトリのいくつかを集めた。生の CW/Morse コードの全ては、JE9PEL局のプログラム fo29cwte を使ってデコードした[12]。 換算式3) は周波数変動のほとんど全てを説明しているが、二次(second order) の変動がまだ残っている(図4)。[訳注:下記換算式4) を参照] 図4: 標準熱モデルに対する テレメトリから算出した温度のプロットである。 FO-29 の平均温度は、四つの全ての構体温度の単純な平均値として計算される。 二次の不一致が明白である。点線は、期待される最適な 1対1の関係をもつ傾斜 である。 全く経験的な(非科学的な) 二次の最小二乗直線は、テレメトリ算出された線形 様式の熱モデルに一致するように作られる(図5)。 図5: 経験的な線形化の後の補正熱モデルのプロット Tc は補正された衛星モデル温度で、T は換算式3) から算出される値。 C は次 の式 [訳注:T の二次式] から追加して算出される値である。 一致相関係数は 0.979 で、標準誤り推定値は 1.412 である。 一軌道あたり蝕比率 0.65〜1.0 の範囲に、日照時の評価換算式3)、および補正 した換算式4) を使うと、合理的と思える補正モデル温度が与えられる(図5)。 293°K の平均衛星温度は、ぴったり shift-sleeve weather (68°F) である。 全日照時に、衛星は 303°K (86°F) で、shift-sleeve weather である。最も 低温の衛星温度は、283.6°K (50°F) である。下記表1は 換算式3),4) (R は 1AU[天文単位] に固定) を使った補正モデル温度を表している。極端な R の値 (0.983AU〜1.017AU) を使った 評価換算式3),4) は、283.6°K 〜 303.1°K の 極端なモデル温度を与える。計算した結果のモデル温度は 大変合理的であるよ うに見え、そしてこれ以上の調整は必要であるとは考えられなかった。 表1: FO-29 の日照時の軌道における比率% および、単位 Kelvin, Celsius, Fahrenhelt で この記事中で表記している補正モデル温度を表している一覧表。 モデル温度に関係して測定したループバック周波数 都合のよいことに、換算式3),4) の太陽光の割合は 直接、衛星温度に関係して いる。この平均衛星温度モデルは、地上局で測定した周波数変動に 単純な関連 の形成に使われる。観測した FO-29 の周波数変動の科学的な基礎が、FO-29 LO 電子工学の温度に依存する。それは トランスポンダー関係・中継周波数・2mビ ーコン周波数を生成する。測定した関係するループバック周波数(kHz)をモデル 温度(Kelvin)に一致させるために、最小二乗法が使われた。換算式5) は、測定 した関係するループバック周波数からモデル温度を再生することに使われる。 LBTk は、測定されたループバック周波数の調整値 MLBf に基づく衛星平均温度 である。 相関係数は 0.924 で、標準誤り推定値は 0.291 であった。 図6は、 ループバック周波数変動および FO-29 モデル温度の最終的な関係を示しており それは大変良い。 図6:N8OQ局により測定された FO-29 ループバック周波数を、補正モデル温度 に対してプロットした。 297 Kelvin と 303 Kelvin の間に、"棚 (shelf)" が 見られる。これは AO-7 解析でも見られたのと同様である[4]。 モデル温度のために測定した 70cm ビーコン周波数に関連して、図7は FO-29 モデル温度と絶対ビーコン周波数の関係がわかる。 測定した絶対ビーコン周波 数(kHz)をモデル温度(Kelvin)に一致させるために、最小二乗法が使われた。 図7:N8OQ局により測定された FO-29 絶対ビーコン周波数を、補正モデル温度 に対してプロットした。 換算式6) は、観測した絶対ビーコン周波数から補正モデル温度を再生するため に使われる。 BCNTk は ビーコン周波数に基づく衛星平均温度で、MBf は測定されたビーコン 周波数である。 標準誤り推定値が 0.209 の時の相関係数は 0.879 であった。 図7は、ビーコン周波数変動と FO-29 モデル温度の最終的な関係を示しており それは大変良い。 論考と結論 温度と周波数における '残りの構造(left-over structure)' を AO-7 で見たよ うに、全日照と蝕期間の間の過渡期に見られる "棚(shelf)" は、時系列をさら に先まで延ばした時に説明できる可能性がある。 時系列を先に延ばす改良を考 えるために可能な三つの事柄は、FO-29 の温度に関わるもっと詳細な Earth IR のモデル、FO-29 の蝕と日照の過渡期に考えられる Earth terminator effects のモデルである。衛星のホイールモード,スピン姿勢に関わっている全てのこと は、太陽角に関係していることがわかった。換算式3) に、FO-29 の地上高度を 付加するべきかもしれない。 それは現在、scf 値に含まれている固定した平均 高度であって、大きな要素とはなっていない。 FO-29 がさらにアマチュア衛星通信局を持っていることは大変良いことである。 次に太陽角がゼロになる 2012年春あるいは夏の直前まで、それがずっと続くと 思う。現在、太陽角がゼロから離れて FO-29 が復旧したことに、FO-29 管制局 の努力に感謝する。 参考文献 [1] SV1BSX, "FO-29 Problem", 20 Apr 2007 06:10:08, The AMSAT Bulletin Board, (AMSAT- BB), http://www.amsat.org/amsat/archive/amsat-bb/index.html [2] DeYoung, James (KG4QWC), "FO-29 Off, 20 Apr 2007 15:31:09, The AMSAT Bulletin Board, (AMSAT- BB), http://www.amsat.org/amsat/archive/amsat-bb/index.html [3] Albert Ozias (N7EQF), "FO-29 Batteries?", 8 Apr 2004 23:36:03, The AMSAT Bulletin Board, (AMSAT- BB), http://www.amsat.org/amsat/archive/amsat-bb/index.html [4] DeYoung, James A. (KG4QWC), "AO-7's Frequency Variability as a Proxy for Spacecraft Temperature", AMSAT J., May/June 2007, pp.23-26. [5] SCRAP, http://www.amsat.org/amsat/catalog/software.html [6] Yamashita, Fujio (JS1UKR), (1995), "JAS-2 Now Under Preparation", AMSAT J, Vol. 18, Sept/Oct, pp.24-29. [7] Davidoff, M. (2000), The Radio Amateur's Satellite Handbook, 1st Revised ed., ARRL, Newington, CT, p.14-12. [8] Froehlich, C., and Lean, J, (1998), "The Sun's total irradiance: Cycles and trend in the past two decades and associated climate change uncertainties", Geophys. Res. Let., 25, p.4377-4380. [9] http://www.pmodwrc.ch/pmod.php?topic=tsi/composite/SolarConstant [10] Cunningham, EG., (1961), "Power Input to a Small Flat Plate from a Diffusely Radiating Sphere, with Application to Earth Satellites, NASA Technical Note D-710, pll-12. [11] "Earth Orbit Environmental Heating", NASA GD-AP-2301, NASA Preferred Reliability Practices, pp.1-5, http://arioch.gsfc.nasa.gov/302/pdf/2301.pdf [12] JE9PEL, Mineo Wakita, fo29cwte. http://www.ne.jp/asahi/hamradio/je9pel/fo29cwth.htm 原文 FO29's Frequency Variability and Spacecraft Temperature by N8OQ http://www.ne.jp/asahi/hamradio/je9pel/fo29esti.htm [訳者補足] 最小二乗法 について この『FO-29 周波数変動と衛星温度の推定』の記事の中で、『最小二乗法』を 使って回帰直線を推定している所があります。 統計学的に難しい内容ですが、 また おもしろい所でもあります。この『最小二乗法』について、次の Web で 詳細に解説しています。 [(2),(3) は訳者自著] (1) http://szksrv.isc.chubu.ac.jp/lms/lms1.html (2) http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/statme13.htm (3) http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/statme14.htm FO-29 日陰率計算 http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr683.htm
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