衛星PANSATとその命名(PO-34)について


● (No.163) 衛星PANSATとその命名(PO-34)について (1999年1月25日)
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 次は、去年(1998年)の11月1日に jamsat-bb宛てに投稿した私の記事です。

> Sun, 01 Nov.1998, JE9PEL/1 Wakita Wrote;
> 
> また新しい衛星が打ち上げられたようです!?
> 『PANSAT』という、アメリカのモンテレーにある海軍大学院が製作した
> 新しいアマチュア衛星のようです。情報を集めてみました。詳細は不明。
> 
> At approximatelly 1347 EST 30OCT1998 PANSAT was successfully deployed.
> The location of the shuttle at the time of deployment was the NW corner
> of Australia, altitude 345 statute miles.  The command station is located
> at the Naval Postgraduate School in Monterey, CA.  
> 
> http://www.nps.navy.mil
> 
> Information on PANSAT is located at
> 
> http://www.sp.nps.navy.mil
> 
> Launch occurred: 1998-OCT-29 / 19:19:34.064 UTC


 この衛星PANSATについて、JAMSAT(日本アマチュア衛星通信協会)の運営する
 メーリングリスト(jamsat-bb@jamsat.or.jp)に、昨年、投稿がありました。
 JA6SNK/1 平川氏による「PANSATの解説」の記事です。

 この大変貴重な内容の記事について、著者から転載許可を受けましたので、
 次に紹介します。この記事は、1月末('99)、JAMSATニューズレター193号
 に掲載予定です。もし問い合わせのある場合は、著者までお願い致します。


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From: "Shuichiro Hirakawa"  hirakawa@da2.so-net.or.jp
Date: Sat, 14 Nov 1998 23:00:32 +0900
Subject: [jamsat-bb:3799] PANSAT HomePage

先月PANSATが打ち上げられましたが、この衛星については日本語になっている
情報が少ない様です。今までのデジタル衛星とは互換性が無く、スペクトラム拡散を
使用するので取っ付きにくそうな面も有りますが、次世代の通信であるスペクトラム
拡散通信を理解するのに格好の実験材料になると思います。
下にPANSATのホームページの情報を概要にまとめて日本語にしてみました。

PANSATはアメリカの海軍大学院(NPS)の学生と職員により設計・製作された衛星
で、The Petite Amateur Navy Satelliteの略です。(Petiteは日本語にもなってい
る’プチ’です。)主な目的は宇宙工学とシステムの運用の教育です。
PANSATは10月30日にスペースシャトルSTS-95(向井さんが乗っていたシャ
トルですね)から放出されて高度約550Km、傾斜角28.4度の円軌道にのりま
した。

PANSATはストア−アンド−フォワード型のデジタル通信の衛星で直接拡散方式
のスペクトラム拡散変調で転送速度は9842BPSです。周波数は436.5MH
zで送受信とも同じ周波数を使用するシンプレックス(半2重)方式です。(直接拡
散方式のスペクトラム拡散変調についてはJAMSATシンポジューム’98の予稿
集のPRUGのJJ1CEI真野氏の資料その他を参照下さい。)

通信プロトコルにはAX25を使用します。アマチュア局はこれをブリテンボード形
式で使用することができます。ビーコンモードで電波を連続して出していることはあ
りません。

当初は軍用の周波数帯を使用する計画だったそうですが、すでに過密状態にあること
や周波数の割り当てに時間がかかることから、海軍の周波数を割り当てる機関からア
マチュアバンドの使用をすすめられ、ARRLを通じて使用する周波数を決めてもら
うことにした。結果として承認のプロセスが大幅に簡単になり、教育の目的も達成さ
れました。

スペクトラム拡散は現行のFCC規則にあわせて7ビットレジスターの1と7の帰還
タップを使用した擬似雑音コード(PNコード)を使用しています。PNコードは
データと混合され拡散された信号はBPSK変調され送信機へ送られます。
PANSATは堅強な構造で安全率を高く取った設計がしてあり、多種のロケットでの打ち
上げに対応できるようになっています。

衛星は直径約19インチ、重量150ポンドで、姿勢制御装置や駆動装置は持ってい
ません。設計寿命は2年ですが、4〜6年位は稼動できる予定です。(寿命は乗せら
れる軌道の高度次第だそうですが、初めに予定されてた350Km程度の高度では
4〜6年だそうです。)衛星の構造は2段の装置がのるプレートとソーラーパネル、
それに円柱状のサポートからなります。外壁はアルミ製の18の正方形と8の三角形
パネルの組み合わせで構成されており、17の正方形パネルには太陽電池が取り付け
られており、三角形のパネルには4本のダイポールが取り付けられています。

衛星の主要なサブシステムとしては電源装置(EPS)、デジタルコントロール装置
(DCS)、それにコミュニケーション装置です。
送信機は最低でも2Wの出力が得られますが、出力を低下させることもできます。衛
星の送受信機は通常のナローバンドのBPSKに切り替えることもできます。

アンテナは4本のダイポールを持った無指向性のターンスタイルでゲインは0dbで
す。地上局は市販の15dbの利得を持ったアンテナを使用することを想定していま
す。コミュニケーション装置は市販の部品を使用して設計されており、放射線耐度の
高い部品は重要度の高い部分のみに使用されています。

電源は太陽電池で、地球の影の部分を通過するときの電力供給にニッケル・カド
ミューム電池を持っています。スペースシャトル内にあるときは衛星が活動しないよ
うに電池は空の状態にされています。放出直後は、十分な電力がチャージされるまで
スタンバイモードになっています。
太陽電池は低価格であるが十分な効率を持っているのでシリコンタイプが使用されま
す。

デジタルコントロールシステム(DCS)はM80C186XLが使用された冗長性
があるシステムです。DCSは64KBのシステムROM、エラー訂正(EDAC)
が可能なシステム用512KBのRAM、及び4.5MBのメッセージとテレメト
リーデータが保存されるユーザーメモリーを持っています。ユーザーメモリーの内の
0.5MBにはフラッシュメモリーが試験的に使用されています。
4.5MBのユーザーメモリーは冗長性を持たせる目的で2バンクありますが、テス
ト終了後にはこれを別々に使用して倍の容量としても使用できます。

地上局側の設備は通常のアマチュア局のアンテナと送受信機の他に、パソコン、TN
C、スペクトラム拡散通信用のモデム、それに特別なソフトが必要です。
コマンド局はNSPに置かれ、これも通常のアマチュア局と同様の設備が使用されま
す。ユーザー側の地上局とほとんど同じ設備で、違うのは使用するソフトに多少の違
い、たとえばコマンドするときのパスワードを入力できるとかです。

アマチュア無線家のためにハードとソフトの安価なキットを開発している様です。こ
こでいっているキットとは部品等を集めたキットの意味ではなく、ソフトウエアと
ハードの製作に関する資料集の様なものと想像します。

(補足) PANSATのホームページはあまりアップデートされておりません。
    プログラムのアップロードがうまくいかず苦労しているようで、最後は
    12月9日付で ”We lost contact with PANSAT”となっています。

         http://www.sp.nps.navy.mil/pansat/


                          SHUICHIRO HIRAKAWA
                 INTERNET : hirakawa@da2.so-net.or.jp
                           NIFTY : GFF00711
                   TEL & FAX : +81-(0)-463-24-6483
                         HAM CALL : JA6SNK/1
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From: "Hirakawa" [hirakawa@da2.so-net.ne.jp]
Date: Sat, 15 May 1999 13:26:31 +0900
Subject: [jamsat-bb:4466] PANSAT UPDATE

昨年暮れから今年初めにかけてPANSATのホームページを時々チェック
していたのですが、「衛星とコンタクトできない」と書かれた98年12月を
最後に内容が更新されておらず失敗に終わったのかなと思っておりました。
先日久しぶりにホームページを見たら1999年2月18日付けのステータス
レポートが入っておりましたのでチョット古いですがまだjamsat-bbでは
紹介されていないと思うのでここで紹介いたします。

以下翻訳です

エアフォース・スペース・テスト・プログラムへのステータスレポート
(1999年2月18日)

簡単に言えば、私たちは衛星の運用についてはまだ開発段階にあります。
まだ衛星のチェック段階ですが、ほとんど毎日テレメトリーの受信に成功して
います。

バッテリーの寿命を延ばすために、充電の制御の改善をした新しいプログラムを
アップロードすることに成功しました。これは衛星のROMに入っているオペレー
ティングシステムの替りになるものです。現在2回目のアップロードをしています。
うまくいけば、これでアマチュアが受信できるスプレッドスペクトラムのビーコン
をスタートできるでしょう。

衛星のタンブル運動とNASA/GSFCでの最終組み立て時にアンテナを曲げたこと
によりアンテナパターンに強いナル点が発生し、コミュニケーションリンクに大きく
影響しています。管制局のゲインの向上とノイズフロアーの低減に努力していますが、
衛星のアンテナについてはどうしようも有りません。

いつ頃アマチュア通信衛星として完全な運用ができるようになるかわかりません。
BBSなどがユーザーに開放されるまでに、ソフトウエアの開発と地上でのテストを
しなければなりません。
ともかくPANSATは設計された通りに機能しています。アンテナが曲がっていても
大丈夫だとわかっていましたが、こんなに大変だとは思いませんでした。

他の問題は衛星がシャトルから放出されたときに1rpm程度のスピンを与えられた
ようです。これは太陽電池の電流のグラフやNASAが撮影したビデオからわかります。
これは私の想像ですが、衛星を放出するスプリングが伸びる時に回転モーメントが
発生したのかもしれません。

最後のグラフはバッテリーの運用に関して私たちが注目しているデータです。
2セットあるバッテリーを充電−放電サイクルを切り替えて使っています。
一つのバッテリーが充電状態にあるときは他のバッテリーが負荷に電流を供給し、
充電中のバッテリーが容量の100%に近くになるとバッテリーを切り替えます。
グラフがとぎれているところがありますが、ダウンロード中にデータを取れなかった
ところです。

以上

グラフはファイルサイズの関係で省略しました。興味がある方はPANSATのホーム
ページをごらん下さい。
         http://www.sp.nps.navy.mil/pansat/


                          SHUICHIRO HIRAKAWA
                 INTERNET : hirakawa@da2.so-net.ne.jp
                           NIFTY : GFF00711
                   TEL & FAX : +81-(0)-463-24-6483
                         HAM CALL : JA6SNK/1
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