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EF100マクロUSM・180マクロUSMと望遠マクロレンズ

EF100 Macro USM製品紹介ページ
EF180/3.5L Macro製品紹介ページ

世にさまざまなカメラ談義があり、その中でよく引用される定説のようなものがある。
その一つに「ズームはどうやっても単焦点にはおよばない」というのをよく聞いたことはないだろうか。またもうひとつ「マクロレンズは無限に弱い」というのも耳にするかもしれない。

この一見して別なものに見える定説には実は少々関係がある、というところから本稿をはじめたいと思う。
 
 EF100, 8群12枚, 0.31m(等倍), USM 600g
 EF180, 12群14枚,0.48m(等倍), USM 1,090g



まず始めの方だが、良くこういう風に理解されている。
「ズームは構成枚数も多くて複雑であり、単純で枚数の少ない単焦点には負ける」
本当だろうか?
ここに簡単なクイズがある。次の二つの現行レンズの構成図のうち、ひとつは単焦点レンズのものでひとつはズームレンズのものだが、どちらが単焦点だろうか?

A.

B.

答えはAが単焦点のEF180/3.5Lマクロのもので、BはズームのEF70-200/2.8Lのものだ。

EF180/3.5Lマクロは単焦点というイメージからは大きく離れた構成枚数も多くて複雑で、ごらんのように同焦点距離をカバーするズームレンズに酷似したレンズ構成となっている。
EF180は全EFレンズのラインナップ中でも最もシャープな単焦点レンズのひとつであることに異論のある人はないだろう。それが画質がいまひとつといわれるズームと同じ設計とは。。
そして、EF180/3.5Lを実際に試したものにとっては、もうひとつの方の定説である「マクロは無限に弱い」も疑わしいものに思えるだろう。

なぜこれらの単焦点レンズはズームレンズと中身は変わらないのだろうか?、そしてなぜこれらの単焦点レンズはマクロなのに無限もシャープなのだろうか?

ここで「ズームは単焦点に負ける」ということを先ほどの「ズームは構成枚数も多くて複雑な光学系になるから」という点から離れて少し別な言い方をしたいと思う。
それは「ズームはたくさんの焦点距離が選べるので、そのすべてに最適な収差補正を行うのは困難である」という点である。そうすると逆に単焦点の優位性はよりすっきりとわかる。ただひとつの焦点距離だけに最適な計算をすればよいからである。
つまりズームの性能が今ひとつというのは枚数が多いとか複雑だからではなく、単一ではなくいくつも焦点距離が変わるということに対しての収差変動を単一の光学系で吸収しなければならないということがそもそもの原因といえる。

そこでズームの設計では妥協が必要になる。
例えば上記のEF70-200/2.8Lは高性能で名をはせるけれども、チャート・テスト等の結果を見るとワイド端(70mm)・テレ端(200mm)よりも中間位置(135mm近傍)が一番性能が高いことがわかる。また16-35ではワイド端、17-40ではテレ端の方が性能が高いことも言われる。
しかし可能ならば全域で均等に性能が発揮できた方が好ましい。そのためズームではあるレンズを動かして焦点距離が変わるとともに他のレンズも動いて収差変動を打ち消すためにレンズを再配置する。これによって焦点距離が変わることによる性能低下を可能な限り防いでいることでズームがここまで高性能に発展してきたのである。

他方、焦点距離のほかにもうひとつ考慮すべき要素がある。それは撮影距離だ。
被写体がはるか遠くにあるよりもごく近くにあるほうが光が近くから発せられ、レンズに対して大きく曲げられる。そこでも収差の条件は異なってしまう。ただ一般のレンズはさほど撮影距離=倍率が変わるわけではないからたいていは無限とか1:40などを基準に最適な計算をすればよい。
しかしマクロのような撮影距離が大きく変わるレンズでは遠距離にあわせると肝心のマクロが甘くなる。しかしマクロ域の方に合わせるとあまりにも遠距離の性能が悪くなるので、たいていは妥協して1:5から1:10近辺に基準が置かれる。これが旧来からのマクロレンズの基本であり、このため無限がやや犠牲になるのは必然的ともいえた。

ここで180mmのような望遠マクロでのもうひとつ大きな問題を話に割り込ませねばならない。

通常の全群繰り出しのレンズの場合、レンズは倍率があがるに従ってレンズの繰り出し量が増えていき、等倍になったときにはほぼ元のレンズの倍の長さとなる。100mmクラスであればともかく、200mmクラスではおそろしく使いにくいものになるのは想像に難くない。
またこうしたレンズをAF化してモーター駆動するのはかなり困難をともなう。コンタックスでも定評のあるマクロプラナー100をNシステムでAF化したときにマクロプラナーという名前を捨ててまで設計を変更した理由はここにある。
その解決法はインナーフォーカスにすることである。これにより全長が変化しない使いやすいマクロが可能となる。


EF180/3.5L マクロ

またインナーフォーカスはフローティングの効果も併せ持つことが知られている。なぜならフローティングとは近接時の補正のためにレンズの一部を主群と異なる動き(フローティング)をさせて収差変動を打ち消すことなので、インナーフォーカスでレンズが動くことと似ているからだ。
そしてまた、この収差を打ち消すためにレンズを再配置するというのはズームレンズが焦点距離変動を打ち消すためにレンズを動かしていたことに似ていることに気がつかれたかもしれない。
ここで望遠マクロはズームと出会ったことになる。言い換えると先ほどあった二つの問いは一つの答えに出会ったことになるわけだ。

しかし、その答えは別の問いをも含んでいる。もしマクロとズームが似たようなものなら、逆に他のレンズとの違いはなんだろうか?
ここでレンズというものを「単焦点」と「ズーム」という風にカテゴライズするやり方ではなく別な分け方の必要がある。それは「各レンズエレメント間の間隔が変わらない」レンズと「エレメント間隔が変わる」レンズだ。

ズームレンズでは焦点距離が変わることで収差変動に対する条件も変わるのでそれをレンズを動かすことで補正する。
マクロレンズでは撮影距離(倍率)が変わることで収差変動に対する条件も変わるのでそれをレンズを動かすことで補正する。
つまりエレメント間隔が固定のレンズ(Legacyな全群繰り出しの単焦点)の場合はある特定の条件(ただひとつの焦点距離と撮影距離の組み合わせ)においてのみ最適に補正できていたのに対して、エレメント間隔が可変のレンズ(新世代の単焦点とズーム)は撮影距離や焦点距離などさまざまな条件で変わる収差補正にレンズ間隔を変えることで柔軟に対応しているということだろう。
そうした幅広い収差変動に対応するという意味で望遠マクロとズームレンズは似ている。そのためその解であるレンズ構成もおのずと似たようになるというのが、始めの問いの答えと言えるだろう。近年こうしたレンズが可能になってきたのはズームレンズの発展(と需要)によるおかげであるそうだ。それが単焦点にもよい影響を与えているというのも興味深い。


EF100 マクロ USM w/EOS-1D

レンズの歴史は光軸近傍だけのアプラナートから周辺まで良いアナスチグマットへという風に部分だけではなく全域での高性能を目指してきた歴史ともいえる。そしてEF180マクロは2群移動インナーフォーカスを導入することでこうして望遠マクロとしての全域高性能を得ることができた。

いまやデジタル時代の必携レンズとも言われるEF100マクロUSMはEF180マクロのすぐれた考え方を引き継いだものと捉えられる。実際EF180マクロに似た構成図となっていて、やはりズームレンズに似たエレメントを見ることができる。またEF100マクロUSMは3群移動に改良されている。



では180mmと100mmの違いはどこにあるのだろうか。それはワーキングディスタンスと背景処理にあるといえる。
ワーキングディスタンスの方は等倍になる距離がEF180/3.5Lでは48cmだがEF100/2.8マクロUSMでは31cmである。
つまりこれだけ遠い場所から撮れるので昆虫などの生物にたいして有利なわけだ。またこれに関した優位性はよくライティングの余地があげられる。

最短距離についてインナーフォーカスと全群繰り出しでは面白い考察がある。コンタックスの有名な等倍マクロのMP100は最短距離が41cmであるのにたいしてEF100マクロUSMは31cmである。どちらも100mmで最大倍率は1:1であるのにどうしたことかというと、インナーフォーカスタイプのEF100は近接域で焦点距離が短くなるために(つまり100mmでなくなる)より近づく必要があるからだ。
ただしMP100は単純な全群繰り出しではなくフローティングであり、フローティングも上記に書いたようにエレメントが動くためMP100やライカRのAME100も厳密には単純な全群繰り出しのものに比べてやや短くなる。カタログ上の焦点距離は無限でのものであり、エレメントが動くレンズは焦点距離も変動してしまうからだ。

既述したようにズームもインナーフォーカスと同じなので構成によって倍率と最短距離の関係は異なる。
例えば新しいところではタムロンのXR28-75/2.8とEF24-70/2.8ではタムロンの方が最短は短いがEFの方が倍率は高い。
(XR28-75は全域0.33mに対して最大倍率が約0.25倍でEF24-70は全域0.38mにたいして最大倍率が約0.29倍)
マクロにおいて重要なのは最終的には倍率であるから最短距離だけを見てレンズの近接能力を判断しないように気をつけねばならない。(この辺にカタログのトリックがある)


また背景処理の方はどうかというと、たとえば通常きれいな花があっても背景がいまひとつ冴えない道端にあると撮る気が失せてしまう。しかし180mmマクロだと画角が小さいことで背景が写りこまないし、ボケ量が大きいのできれいに背景が吹き飛ぶ。このためどんな場所においても180mmマクロであれば絵にすることができる。


しかしさすがに180mmマクロでは重いし三脚が必須という点ではやや機動力を欠く。
また180マクロの欠点は中間絞りで点光源のボケが絞りの形で欠けるということで、これは改善してほしい点の筆頭だと思う。

他方で100mmであれば180mmに比べると少し背景とか被写体の重なりを生かした作画に向いていると思う。
またマクロ以外では手持ちでも使えるし、近接から無限まで強い万能レンズとしてスナップにも活躍する。
ただし欠点はテレコンバーターが使えないところだろうか(180は使用可能)。

また両レンズとも内部に可動式の副絞りとしてのフレアカッターをもっていて不要な光束をカットし、迷光を減らせるようになっている。そこまでしてコントラストの維持を図るところにも望遠マクロの厳しさがあると思う。

両レンズともマクロという先入観を捨てて汎用に使える高性能レンズとして価値のある存在だと思う。

 

(2004.2.5)