<山中温泉>
(やまなかおんせん)石川県加賀市(旧・江沼郡山中町)

旅行日 '95/12 97/7

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 「加賀温泉郷」のうちの一湯、山中温泉。今を遡ること約千三百年前、行基(ぎょうぎ)菩薩によって発見されたと伝えられる古湯。現在では大聖寺川沿いにホテルやら旅館やらが林立していますが、芭蕉が訪れた当時も名だたる温泉地でした。
 この地に到着したのは七月二十七日(陽暦9月10日)。江戸から旅立ってすでに4ヶ月。秋に差し掛かろうという頃でしたが残暑はまだ甚だしく、長途の旅にあって芭蕉も曽良も疲労は極みに達していたようです。二人は北陸の名湯でゆっくり湯に浸り、骨休めをします。
 ここでひとつに大きな「事件」が起きました。


 芭蕉の供をし良く世話をしてきた曽良ですが、ここで腹の病に冒されます。遠く伊勢は長嶋(現在の三重県北東部の町)の医者にかかるため、曽良のみが一足先に旅立つことになりました。

 曽良は腹を病みて伊勢の国長嶋と云う処にゆかりあれば、先立ちて旅立ち行くに、

 ゆきゆきて たおれ伏す共 萩の原  曽良
<句意>(今師に別れて先立っていくが、病身なので)歩きに歩いた末に行き倒れになって(野垂れ死にをして)も、萩の花咲く野原で死にたいものだ。

 行くものの悲しみ、残るもののうらみ、隻鳧(せきふ)の別れて、雲に迷ふがごとし。

 「隻鳧」とは一羽の“ケリ”という鳥のこと。一人取り残されることの寂しさと戸惑いを雲間に迷う鳥に例えています。




 山中温泉の共同浴場といえば菊の湯。北陸では共同浴場を「総湯」と呼ぶようです。
 近代的で大きな浴場ですが、外観は古風な天平様式(だそう)。
 朝早くから土地の常連さんたちで賑わいます。
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菊の湯(97年7月現在)
 営業時間 朝7時から夜10時 無休
 入浴料300円
 山中温泉バス停から徒歩5分


続いて、芭蕉の句(↓)へ。



<芭蕉の句>

 山中や 菊はたをらぬ 湯の匂
(やまなかや きくはたおらぬ ゆのにおい)


<句意>
 山中温泉の効能はすばらしいことだなあ。湯の匂いは、(あの長寿延命の伝説のある)菊を手折る必要もないほど(香ばしく)立ちこめている。
 左は鶴仙渓・道明ヶ淵に建つ「山中や〜」句碑(たぶん?)。


ここではもう一句紹介します。





 今日よりや 書きつけ消さん 笠の露
(きょうよりや かきつけけさん かさのつゆ)


<句意>
今日からは笠に書き付けてきた(「同行二人」の)文字を笠に置く露で消そう(おりしも笠には露がびっしょりと降りている)。
三省堂・新明解シリーズ「奥の細道」(桑原博史監修)より





<ギャラリー>

菊の湯の妻部と破風
大聖寺川河岸の芭蕉堂
鶴仙渓・あやとり橋


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