Ferocactus hamatacanthus(大碇・大虹・紅鶴丸)

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 かつてはハマトカクタス属(Hamatocactus)と呼ばれ大変親しまれたサボテンですが、あまりに栽培容易であることと、旧来国内に流布したクローンがさほど魅力的なタイプではなかったことなどから、次第に駄モノ扱いされるようになり、いまは売店の花ものサボテンとして見かけるくらいです。しかし、自生地で出会うこのサボテンには、鯱頭に勝るとも劣らない、目の覚めるような赤巻き刺タイプもあり、昨今の栽培技術をもってすれば園芸的にも素晴らしい作品に仕上がるものと思います。
 自生地はアメリカ・テキサス州〜メキシコ、ロッキー山系東側の広い範囲に分布。かつては細かく分類されており、基本種・大虹(Hamatocactus hamatacanthus )のほか、大碇(var. crassispinus) 、紅鶴丸(var. davisii)、夕虹(var.sinuatus) などの名前がありました。いまは Ferocactus hamatacanthus 一種に統合されていますが、産地によるタイプ差はかなりあるようで、刺の強い魅力的なクローンはテキサス西部〜メキシコの比較的標高の高い地域に生えているようです。
 先に書いたように栽培は容易で、花は咲きやすく種もたくさん実ります。実生もよく生え、高温多湿にすればどんどん大きく育ちます。このため売店用などに用いられることが多いのですが、あまり勢いよく成長させると、肉質も軟弱になり刺座の間隔があいてぱっとしない姿になります。直射下で鯱頭などを育てるつもりで締めて作るのが良いと思いますが、このサボテンには日焼けしやすいと言う弱点もあり、密生刺の豪壮な株に育てるのはなかなかテクニックがいりそうです。古くから栽培されてきた「古典」とも言うべき種ですが、見事な標本にはあまりお目にかかったことがありません。今後優良クローンの種子から、かつての「紅鶴丸」の名に相応しい美球が育つことを期待しています。まさに、温故知新のサボテンとして、再度注目してもらいたいものです。
     
       near Shafter, Presidio co, TX
     (シャフター、テキサス州プレシディオ郡)

刺が細く女性的なタイプ。このコロニーは大株になってもあまり刺は巻かないようだ。




       west of Lajitas, Presidio co, TX
     (ラジータスの西、テキサス州プレシディオ郡)

明るい赤〜麦色の刺が球体を巻く美しい株。鯱頭のように見えた。これで径12センチくらい。国内で売られている苗とは同じ種と思えない。



       east of Lajitas, Presidio co, TX
     (ラジータスの東、テキサス州ブレウスター郡)

刺は豪壮だが、フライパンのような岩盤上に生えるストレスで刺色が褪せてしまっている。このサボテンの実は種が多いが甘くて美味だった。




      near Studybutte Brewster co, TX
    (ストゥディビュッテ、テキサス州ブレウスター郡)

中刺が長く突出するタイプ。かつての大碇(var. crassispinus)にあたるタイプか?遠目に目立つ美しい個体。




      Boquillas Canyon, Brewster co, TX
    (ボクイラス・キャニオン、テキサス州ブレウスター郡)

メキシコ国境に近い山岳地帯。岩山を数時間歩くうち、幾度かこのサボテンに出会う。どれも彼方から目を射る鮮やかさで、刺色は明るいオレンジ赤から紫色まで幅がある。まさに一級品の強刺サボテンだった。