エスコバリア属はレーイやミニマ、ジルジアナなど人気種もあるので、みなさんのなかにも栽培されている方は多いと思います。しかし存外ややこしい属で、分類上コリファンタやギムノカクタスなど様々な属に出たり入ったりを繰り返している種もあり、それだけバラエティに富むグループと云えます。分布域も北米サボテン随一の広さで、北極丸ことviviparaがカナダ・アルバータ州の恐ろしく寒い草原に生えている一方、cubensisはその名のとおりカリブ海のキューバ産。このエリアの広さは、大きく目立つ果実が鳥類によって拡散されたからではないかと指摘されています。
　この属の多くの植物は、白いガラス質の繊細な刺で球体を包み、なかなかに優美です。花も決して大輪ではありませんが、味わい深い上品な色合いのものが多い。ぱっと見、どれがどれだか区別がつかない、と思う方もいると思いますが、手元に置いて日々眺めていると、ひとつひとつの顔の違いがだんだんと見えてきます。そうなるともう、兜やランポーより細やかで深いエスコの世界にはまってしまうかも知れません。
　写真を並べて見てもよくわかるとおり、この属には良く似た種が多く識別はとても難しい。ことに、アメリカ産の白刺種は各州の山ごとに種名がつけられていますが、植物体を一見するだけでは専門家も同定できないくらい近似しています。いろいろな名前をつけすぎた（種類を分けすぎた）感は否めません。ことにわかりにくいのが、tuberculosa の系統と duncanii の系統。私見では前者のグループに属するものとしてalbicolumnaria, organensis, villardii 等があり、いずれも細い剣弁の淡ピンク花を咲かせます。そして後者のグループとしては、chaffeyi, dasyacantha, runyoni 等が考えられ、これらの共通点は柱頭（めしべ）が緑がかっていること、花色が多色であることなどです。不思議なのは、たとえば今あげた tuberculosa 系の３種は、自生地では tuberculosa そのものと一緒に生えています。まさに並んで生えているような状況ですが、種間雑種と思われる中間的個体はまれにしか見つかりません。コロニー全体を見れば両者はあくまで別種のように見えます。開花期も訪花昆虫もおそらくかぶっているでしょうし、両者が明確な線を引けるまで分化した理由が大変興味深いところです。
　とまあそんな状態なので、国内で流通している植物はかなり混乱しており、業者のカタログや同好会のセリなどでもかなり出鱈目な名前（よくある間違いが、レーイをダンカニーとするもの）がつけられているのを目にします。正確なコレクションを指向するならフィールドナンバーが命、みたいなところがあります。まあ園芸なので堅苦しいことを言う必要はないのですが、種名の取り違えは出来たら直したいですね。
　こうしたことを書くと、そんなに難しい植物なんて・・と敬遠されそうですが、それだけタイプ差、顔のバリエーションが幅広い植物と云うことでもあり、植物のこまやかな「芸」を見出す日本人にはうってつけともいえます。総じて白刺が密生する美種ぞろいで、小型で場所もとりません。栽培は、暑さ寒さにも強く、過湿にしなければ丈夫です。成長はゆっくりですが、実生も野生株に負けない刺姿となり花つきも良い、と長所ばかりです。種から育てるのが楽しい植物ですが、接ぎ木は間延びして本来の刺姿を失いがちです。そんなに大きくするものではないので、正木で栽培してみてください。以下の写真は同定の参考程度にしかなりませんが、それぞれの「種」の魅力を知っていただく手がかりになればと思います。