Pediocactus paradinei B.W.Benson 1957
      ぺディオカクタス・パラディネイ
 白くて長い毛髪状の刺をまとった愛らしい小型サボテン。和名を持たないために (「月の輪殿」が参照されることがありますが、その名前で流通しているのは別の植物です)、いまひとつ日本では知られていないのですが、ぺディオカクタス・月華玉系ではとくに美しい種です。分類のうえでは、その際立った外見から、Pilocanthus(ピロカンサス属)として扱われたこともありますが、よくよく見ればその姿は小型の月華玉 (P.simpsonii) そのものです。
 植物体はおおむね単幹。径2〜5センチくらい。高さは6センチくらいまで。けれど球体の大半は地中に潜っており、成長期に吸水しても地平からすこし顔を出す程度です。月華玉と異なり際だった中刺はなく、20本前後の側刺を持ちます。この刺は白色で先端部はわずかに黄〜褐色。径2〜3センチまでの個体では刺も短く1センチ以下。この大きさでも開花しますが、植物体は周囲に生えている Escobaria vivipara とそっくりの地味な姿です。しかしこの刺は生育とともに長くなり、径5センチくらいの個体では3センチくらいになって球体に白毛が巻きつくような様相を呈します。この姿がパラディネイの特徴であり、美しさでもあります。花は春咲きで径2〜3センチ、長さ2〜4センチ。クリーム〜ピンク色の淡くて上品な印象のものです。果実はぺディオカクタスの典型的なもので、径1.5センチくらいのポット状。このなかに黒くて大きな種子が入っています。

 自生地はアリゾナ州北部ココニノ郡の海抜1600〜2100メートル、カイバブプレートと呼ばれる標高の高い地域で、ごく近くに分布する飛鳥、天狼などの産地よりいちだんと高冷地です。パラディネィはこの高地の裾野付近、標高1600m前後の疎林地帯ではグラマグラスに紛れて暮らしています。そしてカイバブ高地をのぼっていくにつれてパラディネィのコロニーの密度は高くなります。標高2000メートルを越えると森林に近い様相となり、パラディネイは木立のなかでスポット的に開けた場所(陽光が差しこむ)を選んでそこここに生育しています。このあたりは冬季は道路が閉鎖されるような寒さの厳しい場所で、数十センチの積雪もめずらしくないと云います。パラディネイは春先、このカイバブ高地の融雪水を糧に一気に成長、開花結実します。そして初夏〜翌春までは(秋の降雨があれば別ですが)地中に球体をもぐらせて眠ります。したがって成長はとても遅いでしょう。自生地の植物の数は少なくないですが、分布は先述のごく狭い地域に限られており、そうした観点からは常に絶滅の危険に晒されている植物と云えます

 栽培は寒さにくわえて、ある程度の湿度や土中の有機質にも耐性があるようで、私は正木栽培でも腐らせたことはありません。柱モノに接ぐと特に間延びしやすい種類です。2月下旬〜5月上旬まで、土がじゅうぶん乾いたら、晴れの日を選んで水をやる感じ。暑さと極端な強光線は好まないので、夏は少し遮光して、風通しのいい場所で休眠させます。秋口にも水を与えるとすこし動きますがたいして育たないわりにリスクが高いので私は潅水していません。水をやらなくても晩秋には翌春の蕾が生長部にのぞき、春がくればよく花を咲かせます。ただ、成長期が短いため実生はなかなか育ちません。長い白毛がフワフワするまでには5〜7年くらいかかります。月華玉はマミみたいで地味だなあ、という人も、このパラディネイなら美しさを見出されるのではないでしょうか。小型だし、栽培も「難物」の仲間としてはかなり融通がききます。ぺデイオ入門の植物としても良いと思います。




 アリゾナ州ココニノ郡 2,100メートル 
 (Coconino Co. ARIZONA  2,100m)


自生地の様子。ちょっとサボテンの自生地とは思えない深い木立。グランドキャニオンのリムの上のような感じ。
5月初旬。開花したパラディネイ。花色はこんなクリーム色からややピンクがかったものもあります。
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まだ、長い刺を持たない径2センチ強の個体も花をつけます。
この年は冬の積雪が多かったそうで、パラディネイはぱんぱんに膨らんで満開でした。雨が少ないと開花をパスすることもあるそうです。
ふたつの若い個体が写っていますが、この姿は月華玉の子どもとそっくりです。
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 アリゾナ州ココニノ郡 1,900メートル 
 (Coconino Co. ARIZONA  1,900m)


上のコロニーより少し標高が低いところ。こんな感じで木立ちの切れた場所にパラディネイのコロニーがあります。
この写真に5個体写っています。コケも生えていて、ある程度湿度のある場所だとわかります。
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6月。ポット状の果実はほぼ完熟。側面が破れるようにして種子が外に出ます。
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特徴の長い白刺が出始めた個体。とても綺麗です。
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この個体くらいが最大級で径6センチ強。刺も荒々しく球体を包む感じに。
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