ギムノ図鑑の決定版  「ギムノカリキウム・自生地と栽培」


ここ5年くらい、ギムノカリキウムをやたら沢山蒔いています。
扱いの多い kakteen Piltz や チェコの業者から種を取り寄せてあれこれと実生するのですが、
見たことのない珍しげな名前のモノは、正直どんな顔の植物なのかも判らないままとりあえず頼んでみることも。


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               Gymnocalycium nataliae 'morroense' LB 326,Sa.del Moro SanLuis,Arg


そんななか、いい本が出たということで早速取り寄せたのがこれ、ギムノ図鑑の決定版です。
といっても、もう2年くらい前になりますから、新刊とは言えないかも知れませんが、
まだ余り知られていないと思うのでご紹介。。



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タイトルは「Gymnocalycium in habitat and culture」。
その名のとおり、栽培環境下と野生状態のそれぞれの環境で植物を見つめていて、写真も両方載っています。著者は英国のアマチュア愛好家Graham Charles氏。凄いのはほとんどすべてのギムノについて、
自生地を自分で歩き、かつ種からの栽培も試みているところ。日本では、大御所栽培家であっても、
「分類だの学名だのは学者さんに任せとけばいいんだよ」と仰る方が大半ですが、よく考えてみればサボテンの分類のような産業的価値の乏しい?領域では、専門の学者も少ないし活動条件も厳しいのです。
勢い、アマチュアのボランタリーな研究活動こそが新しい知識領域を切り開く力になる筈。
実際、サボテン分類のバイブル的な存在、New Cactus Lexicon におけるギムノの分類も、かなりの部分はG.Chareles氏の見解に基づいています。

では、さっそくページを繰ってみましょう。


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地図がいっぱい出てくる本で、こんなふうに自生地の気候区分もからはじまります。どんな環境なのか、
それぞれの典型的な風景も写真で示されていて、なるほど〜こんなところが故郷なのか、と想像が拡がります。

それからちょっとややこしいですが、彼のギムノの分類は主に種子(semineum)の特徴から属を5つの亜属に分けます。
以下、それぞれに属す種の代表的なものをあげると、
1)Macrosemineum 海王丸、天王丸のなかま(G.denudatum and ssp)などが含まれます。
2)Gymnocalycium 九紋竜(G.gibbosum)や緋花玉(G.baldianum)など。新しいberctiiもこのグループ。
3)Microsemineum 新天地(G.saglionis)、魔天竜(G.hosssei)、光琳玉(G.cardenasianum)、
  天平丸(G.spegazzinii)・・・といった人気種が揃っている。たしかに皆種が細かいですね。
4)Trichomosemineum 怪竜丸(G.bodenbenderianum)、バッテリー(G.ochoterenae'vatteri')など。
5)Muscosemineum 翠晃冠(G.anisitsii)、瑞雲丸(G.mihanovichii)など。

これだけ見ると学術書っぽいとっつきにくい印象をもたれるかも知れませんが、そこは著者も栽培家。
育て方についても土づくりから日常の管理、繁殖法まで、丁寧に数ページが割かれて説明されています。
こうした前説が終わると、種ごとのレビューが始まります。


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こちらは'蛇竜丸'(G.denudatum)のページですが、19世紀に記載されたときの絵図、自生地での写真とあり、さらに各産地ごとのタイプ違いを栽培下でずらっと並べた写真があります。
まんなかの地図は自生地を示したもので、これまた役立ちもの(いつの日か行ってみるときにね^^;)。
日本では海王丸のオリジンは、パラグアイエンセ(G.paraguayense)とする見方が主流ですが、
また、種類ごとに栽培法も書かれていて、これもとても参考になります。
私にはどうもこのdenudatum系が元になっているようにも思えてなりません。
いろいろな産地の種を集めて蒔いていますが、艶々の肌にはりつくような刺姿はなんともいえない。
園芸的には行くところまで行ってしまった感のある「海王丸」ですが、野生種の素朴さを残した味わいもまた良し。


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ギムノ最大の人気種、天平丸(G.spegazzinii)に関しては、タイプ違いの写真がズラリと掲載されていて、
さすが愛好家が書いた本だなあと感心させられました。縦長の分布域地図と見比べてみると、南北で刺タイプがどう変遷していくかなど、興味深く読むことが出来ます。昨今、その刺のすばらしさから、園芸改良の元親としても活用されている Quebrada del Toro 産天平丸の写真も素晴らしい。ここの種はなんども蒔いていますが、まだこのレベルの個体は出てこない。たぶん、山でもピカイチの個体を写真に収めたのでしょうね。

このほか、まだ日本では普及していない比較的新しいギムノたちも、余すところなく紹介されています。
名前だけを便りに'みずてん'で種を蒔いてきたギムノたちも、この本で、どんな植物なのかを知ることが出来ました。たくさんある異学名を割愛すれば全種がもれなく掲載されているのですが、この本を読んでいると、あれこもこれもと種まき欲がさらに掻きたてられてしまいそうです。



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               Gymnocalycium heidiae=baldianum GN925-3028 Humaya,Cat






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