(作品は、漱石全集第四巻 岩波書店による) 小説を初めて読み出して、すぐに引き込まれていくものと、なんだか最初は面白くなくて、段々に引き込まれていくものがある。 この虞美人草は、最初の出だしから、妙にその運び、語調が美文調で好ましく、どうなっていくのだろうと興味がふくらんでいく。 ただ、登場人物の関係が最初は判らないので、ノートにメモってみて判ってくる。 評論家の先生の、この作品に対する評価は芳しくなさそうだが、一般人には好かれているようだ。(どうやら自分も一般人並みのようだ。) 藤尾が独り悪者にされ、小夜子さんが理想の女性とはちょっと思えないけれど。 時代を考えるとそういうことなのかなあ? |
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主な登場人物とその相関関係、人物像: ◇甲野欽吾27才 ―(妹)藤尾24才 (母親)謎の女 ◇宗近一(はじめ)28才―(妹)糸子22才 (父親)宗近(老人)和尚 ◇小野さん27才 ◇孤堂先生(老人)―(娘)小夜子 ・甲野さん:哲学的思考に傾く。 謎の女の、実の子供ではない。 謎の女からは、口では家を出てくれるなと言われている。 が、財産は藤尾に継がせ、自分は家を出て行く覚悟で居る。 「−−−だから、僕は表向母の意思に逆らって、内実は母の希望通りにしてやるのさ。−−−見給え、僕が家を出たあとは、母が僕がわるくって出たように云うから、世間もさう信じるから−−−僕はそれだけの犠牲を敢えてして、母や妹の為に計ってやるんだ」 ・宗近君 :楽天的な実際主義者。 外交官試験に落第し、再挑戦中。 藤尾を好いている。 しかし、藤尾は小野が好き。 藤尾の兄である甲野さんは、宗近君に対し、 ・小野さん :屈折した文学的発想の持ち主。 博士論文を執筆中の、将来有望の秀才。 若いとき、京都で孤堂先生に大いに世話になった。 その恩がある。 娘小夜子は小野さんが好き。 孤堂先生もそうなることを望んではいる。が、小野さんは藤尾を好いている。 |
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虞美人草について: 科名 ケシ科 和名 ヒナゲシ 英名 corn poppy, field poppy, flanders poppy 別名 虞美人草 ポピーの仲間。 かの有名な中国の虞の項羽の妻虞美人が、みずから命を落としたときに血の跡から咲いたとされる花。 きゃしゃな容姿。 |
余談1: 漱石を評した書物は世の中に沢山溢れている。 それに、明治時代の文学史上の発展に、大きく寄与した偉大さもさることながら、自分が好きなのは、簡潔な表現をとんとんと積み上げていき、情景を鮮やかに頭の中に実現させてくれるその技量。 また、人の心理、情感を実に細やかに、あらわしてやまない表現力。 さらに随所にユーモアを散らばせているところである。 小説を読んで、そういう所を感じられない作家の作品は、あまり読む気がしない。そういう点では、翻訳物にとかく手が伸びないのはいたしかたないかな? |
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余談2: この作品の題名『虞美人草』は、漱石が縁日で偶然見付けた鉢植えから取って、平気でいられた、という話が、『漱石とその時代』(江藤淳著 新潮選書)にあった。 そして次の『門』の予告では、その題名も、漱石山房と呼ばれた弟子の森田草平に頼んでいるという。 こんな作品の出来るまでの、時代背景や、作家の人となり、裏話などを知ると、さらに作品に愛着が沸くものである。 |
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余談3: 背景画像は、久里浜花の国ポピー園にて撮った(平成15年5月下旬撮影)。 背景画には、出来るだけ関連のあるものを取り込んでいきたいと思っている。 |