ご存じ伊達60万石お家騒動を扱ったものだが、よく状況は知らないので、初めての体験である。この作品に出てくる原田甲斐なる人物像は大変穏やかで、かつ決断力があり、懐の深い人物で、とても魅力ある人間に描かれている。しかし、絶対的な権力をもつ酒井雅楽頭(うたのかみ)一派の陰謀の前に、次第に味方方が死に追いやられ、どうしようもない状態に追い込まれ、孤独さに打ちひしがれようとして、最後の賭に出た結果の最後の場面で、雅楽頭の放った刺客に討たれながら、原田甲斐の乱心ということで伊達62万石を安泰に導いたとする結末は、なんともすっきりしない気持ちが残ってしまった。
物語の概要:
物語の最初は、万治3年の、伊達陸奥守逼塞の沙汰による、その要因をつくったとされる坂本・渡辺・畑・宮本の4人が上意討ちの描写に、何やら風雲急を呼ぶ予感をさせる。そして、その家族の子供達(宮本新八と、畑宇乃と弟虎之助)が頼ったところにより、その後の運命に差が生じてくる。
宮本新八の生きざまの描写はたくみで、苦しみが読者にひしひしと伝わってくる。宇乃は原田甲斐の保護に入り、甲斐を次第に慕うように穏やかな生活を過ごしつつ、甲斐の最後を迎えることになる。
伊達安芸(涌谷)、茂庭周防(松山)、原田甲斐(船岡)の三人で、酒井雅楽頭・伊達兵部(一ノ関)の陰謀(伊達62万石を分割し、一ノ関に30万石を与える)を、茂庭は外から、甲斐は一ノ関の懐に入り、内と外から協力して伊達藩を守ろうという密約をする。しかし、一ノ関側の監視はきつく、色々と伊達藩内の内紛をあおってくる。そして時間が経つにしたがって、次第に心変わりをしているのか、意思が通じなくなっていく場面も出て来たりする。
また、一ノ関側の策略の前に、自分の心の内を打ち明けられないばかりに、甲斐の周りからは次々と頼りにしている人々が離れていったり、死に追いやられたりして、限りなく孤独に陥ってしまう姿が痛ましく描写される。
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