沢木耕太郎著 
             『あなたがいる場所』



                 2015-01-25



 (作品は、沢木耕太郎著 『あなたがいる場所』   新潮社による。)

              

 本書 2011年(平成23年)3月刊行。

 沢木耕太郎:(ウィキペディアを参考に。)
 
 1947年東京都生まれ、横浜国立大学経済学部卒。ノンフィクション作家、エッセイスト、小説家、写真家。沢木耕太朗はペンネーム。1970年ルポライターとして「防人のブルース」でデビューし、1979年「テロルの決算」で第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
 1982年「一瞬の夏」で第1回新田次郎文学賞、1985年「バーボン・ストリート」で第1回講談社エッセイ賞、1993年「深夜特急 第三便」で第2回JTB紀行文学賞、2003年これまでの作家活動で第51回菊池寛賞を受賞。2006年「凍」で第28回講談社ノンフィクション賞、2013年「キャバの十字架」で第17回司馬遼太郎賞を受賞。
物語の概要:

バスを降りたその街で、人々は傷つき憂えながら、静かに痛みを超える…。9つの物語が呼び覚ます、あの日の記憶。深い孤独の底に一筋の光が差し込む、沢木耕太郎初の短編小説集。

主な登場人物:

<銃を撃つ>
中学受験以降疎遠になっていたナツミとマキの高校生。
バスで二人掛けの席に。“不幸の手紙”のことで・・・。
<迷子>
小学5年生のユウスケ。マンションの公園にいる迷子?の女の子のことが気になり交番に連れて行こうと・・・。嘘つき?
<虹の髪>
淫したことのない村井、バスの前の席に座る女性の虹の髪に魅せられ・・・。
<ピアノのある場所>
父親が変になり、転校することになったユミコ、マリちゃんの家で遊ぶ約束で行ったのにマリちゃんは出掛けていない・・・。
<天使のおやつ>
小学3年生の娘のアサミが滑り台の上から突き落とされ頭を打つ。妻は出張中で木村は・・・。
<音符>
妻子のあった夫を離婚させ強引に結婚させた静子。夫の好きなアジサイを嫌っていたが、夫が寝たきりになり訳の分からないことを口走るように。アジサイの咲く様子が音符のように見えて・・・。
<白い鳩>
中学3年の森島竣、学校で自分は無実なのにやがてイジメの標的に。バスから白い鳩が黒いカラスに突っつかれているのを目撃して・・。
<自分の神様>
中学受験の亜矢ちゃんの家庭教師であった奈緒。亜矢ちゃんの父親に誘われ付き合うことに抵抗を覚え別れたいとお気に入りの小さな神社で・・・。
<クリスマス・プレゼント>
亡くなった妻に頼まれ息子に送るクリスマスプレゼントの荷物を準備する中で思い出に浸る石川。会社勤めを辞め2年、物忘れも。送る先の宛先は・・・。

読後感

 ひとつひとつの話には誰もが経験したり感じたこと思ったりしたことであり、その時自分は果たしてどんな行動を取ったのだろうかと考えさせられたり、同感したりの作品ばかりである。短編ばかりであるので読み始めてすぐにでもその世界に入り込めるような内容で、しかも本書の後記にあるように“どんなに幼い子でも読んでわかるものが書けたら”“最後まで読み通すことのできるわかりやすさだけは持っていてほしいと願った”との思いがあったようだ。そうした<わかりやすい>短編小説を出発点として、文学の森に分け入ることができるようになった著者の記憶があったようだ。

 この作品はたまたま次の小説が届くまでの間に読み告げるものとして手に取ったものだけれど、偉いもうけものの作品であった(ごめんなさい)。
 
 さて作品に出てくる話は興味深いものばかりであったが、中で特に印象深かったものに<天使のおやつ>がある。
 小学生のアサミが滑り台から突き落とされて頭を打ち、鎖骨を骨折。妻は出張中で自分が面倒を見ることに。頭を打っていることからレントゲンでは特に異常なし。なんでもなさそうなアサミだが、ピザを一口しか食べず、直後吐いてしまう。妻はすぐに救急病院に連れて行ってと。夜中救急車で病院に、CTで少し血腫が・・・。

 入院中アサミの「天使のおやつ」を食べたいと言われても自分は理解できず・・・。その後の経過にショックを受けてしまう。
 誰に、どこにその怒りをぶつけたらいいのか。責任をどう追求すればよいのか。でもアサミの「天使のおやつ」を理解してやれなかったくやしさが伝わってきて胸に迫る。

「ピアノのある場所」での転校することになりユミコが最後に一緒に家で遊ぼと誘われ喜んで行ったマリちゃんは忘れてしまって出掛けていた時のマユミの心情を察すると読み手側は何ともいたたまれなくなってしまう(文章には表現されなくても読み手側に感じさせてしまう)。マリちゃんの両親の優しさに自分の家庭との違いをこれまた感じるマユミ。そして自分の家に帰ってきて父親と妹の反応に涙するマユミ。この涙は一体どういう涙だったのだろうかと考えさせられてしまった。
 とにかく全編がぐっとくるものに満たされた作品群であった。


余談:

 死またはそれに関連するものを扱った内容のものが9編の5編ある。何故かこのことが入ってくると身につまされされる。
 小説ってごく身近なことでも小説になることを再確認。描写の仕方によって琴線に触れるものがあると、ドラマでもそうだが、なんでもないことなのに何故かキュンとなり引き込まれてしまう。おもしろい。  

背景画は事件のバックになった幼稚園の滑り台をイメージして。  

                    

                          

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