奥田英朗著 『我が家のヒミツ』    


               
2015-12-25



(作品は、 奥田英朗著  『我が家のヒミツ』     集英社による。)

           

 
初出 「小説スバル」
      虫歯とピアニスト  2013年5月号
     正雄の秋      2014年11月号
    アンナの十二月   2014年1月号
    手紙に乗せて    2015年1月号
    妊婦と隣人     2012年11月号
    妻と選挙      2015年7月号
 本書 2015年(平成27年)9月刊行。

  
 奥田英朗:(本書より)
  
  1969年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
 1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。
 2002年「邪魔」で大藪春彦賞、2004年「空中ブランコ」で直木賞、
 2007年「家日和」で柴田錬三郎賞、
 2009年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞を受賞。
 小説に「無理」「噂の女」「沈黙の町で」「ナオミとカナコ」、
 エッセイに「どちらとも言えません」「田舎でロックンロール」など著者多数。

主な登場人物
<虫歯とピアニスト>

小松崎敦美(あつみ)
夫 孝明

東京広尾のグリーン歯科医院の事務員、31歳。クラシック愛好家。なかなか子が授からない。
夫の孝明は一級建築士で有名な建築家の事務所勤務、長男。派手なことを嫌う性格。

大西文雄 ピアニスト、30代。15年ぶりに親知らずが痛み歯科に。
<正雄の秋>

植村正雄
妻 美穂
娘 香奈
長男 大輝(ひろき)

大手機械メーカーに就職、30年、部長、53歳。営業畑出身。同期入社の河島に局長のポストが内定し、職場での出世争いに破れる。
2つ年下の妻の美穂とは社内結婚。
娘の香奈は社会人2年生、24歳。
長男の大輝は大学4年生、銀行の就職が内定している。

河島義男 次期局長に内定の河島は正雄とは反りが合わない。何かというと派閥を作り、部下に対して兄貴風を吹かせ、上役には自己アピールに余念がない。
<アンナの十二月>

江口アンナ
母親
義父
義弟 拓哉

都立多摩川高校1年生、16歳。16歳になり、実の父親のことを聞かされる。
母親はアンナが生まれてすぐ離婚、芸大出、42歳。アンナが2歳の時再婚。
義父はスーパーの雇われ店長。温厚な性格。
義弟の拓哉は5歳年下。まだアンナと異父姉弟のこと知らされていない。

・沙也香
・若菜

アンナの親友。アンナと同じ薙刀の部活。
白川和樹 その世界では名の知れた演出家、独身。
<手紙に乗せて>

若林亨(とおる)
妹 遙
父親
母親

広告代理店に勤務する社会人2年生。SP部門の一番下っ端。
母親は半月前脳梗塞で亡くなり、父は憔悴していて元気がない。

石田部長

若林亨の上司。亨の父親と同年代でやはり去年奥さんを亡くしている。
父親の様子を知り、何かとアドバイスをくれる。

<妊婦と隣人>

松坂葉子
夫 英輔

32歳の会社員、第一子出産を控えて現在は産休中。高層マンションの部屋に一日中ひとりでいることが多い。
夫の英輔は銀行員で毎晩帰りが遅い、同い年。
隣に引っ越してきた夫婦が謎めいていて葉子は気になってしようがない。

隣人 男と女の二人、引っ越してきた様子だが、夫婦して一日中部屋にこもりっきり?管理人のおばさんが訪ねていっても留守の様子。
<妻と選挙>

大塚康夫(やすお)
妻 里美
双子の息子たち
・兄 恵介
・弟 洋介

小説家、50歳。N木賞受賞経験あるも、最近は執筆量はかなり落ちている。
妻の里美 かってパート、今は専業主婦でNPO法人で高齢者へのボランティア活動をする中、市政に参加する決意を持つ、49歳。
息子たちは大学生で親離れ。兄は家を離れ一人暮らし。



物語の概要図書館の紹介文より

 どうやら自分たち夫婦には子供が出来そうにないと感じ始めた夫婦、実の父に会いに行く女子高生、母の急逝を機に実家暮らしを再開した息子…。人生が愛おしくなる、笑いと涙がつまった平成の家族小説。
 
読後感

 六話の短編であるが、どれも家庭でありそうな話で中でも自分に身近なテーマの物がなじみやすく、感慨も覚える。

<虫歯とピアニスト>では自分が何十年も歯医者に行かず、同様の内容にすごく身近に感じてしまって一気に読んでしまった。クラシックもこんな風な愛好家がいる様子に、こちらもファンになってしまいそう。

<正雄の秋>は職場での出世争い、というよりは自分が認められなかったという無念さが会社人間であった頃の厳しさを思い返すようで、身につまされた。でも相手の父親の葬儀話で郷里に向かったところで思い出されることからわだかまりが消え、心の落ち着きを取り戻す様子にほのかな安堵感が湧いてくる。

<アンナの十二月>では実の父親に会ってみたいと思う16歳の娘心。そしてふたりの親友のアンナを思って自分の両親に話し、その感想を伝え、アドバイスする様子に友達っていいなあと。
 義父に当たるスーパーの店長の温厚な人柄とそれをしっかりと理解している妻の言動も思いやりがあってほのぼのとする。

<妻と選挙>ではN木賞作家の夫の妻が市議会に立候補するというお話。夫の賛成を得る様子、子供たちの無関心から次第に母親への応援ぶりも暖かくほんわかする。特にあまり人前に出ることにおっくうな夫が応援演説を打つハメになり、その内容がすごく自然で和む場面である。

<手紙に乗せて>と<妊婦と隣人>は経験上身近に感じられなかったことで上述の作品ほどは感じなかったと言うことで。

余談:

 ごく普通の出来事をテーマに小説って書けるものだということを改めて感じる。要は出来事をいかに膨らませて描写するか。日常的であることがよけいに読者には身近に感じさせられ、感情移入されやすく。
 分かっているなら自分も小説を書いてみたら?と思ってみても・・・。
 何度思ってみたことか。

背景画は本書の表紙を利用。

                               

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