小川糸著 『食堂かたつむり』




 

              2017-04-25





(作品は、小川糸著 『食堂かたつむり』   ポプラ社による。)

          

 本書 2008年(平成20年)1月刊行。書き下ろし作品。

 小川糸(「つるかめ助産院」より)
 
  1973年生まれ。作詞家・春嵐として音楽制作チームFairlifeに参加。
 著書に絵本「ちょうちょ」(講談社)。ホームページ「糸通信」
   

主な登場人物:


倫子(25歳)
<私>

トルコ料理店のバイト先から家に戻ると愛の巣の家の中が空っぽ。恋人のインド人に逃げられた。祖母の残してくれたぬか床を抱えて10年ぶりにおかんの居る山あいの静かな村に戻る。職を探すにも料理以外のことはできない。
祖母 おかんの実の母親。私はおかんが嫌いで都市の外れにある古い一軒家の祖母の家に下宿。バイト先から戻ると大好きな祖母は眠るように亡くなっていた。
インド人の恋人 そんな矢先バイト先の隣のインド料理店で働く彼と知り合い、同棲していたが・・・。

ルリコ
<おかん>

実家の御殿に住む。私はおかんの私生児。

根岸恒夫
(通称 ネオコン)

おかんの愛人。
エルメス 豚の名前。
ふくろう爺 母屋の屋根裏に住む家の守り神。夜中の十二時になるとほうほうと12回正確に鳴く。

熊さん
(本名 熊吉)

根っからの山男。強面だが根は優しい。お嫁さんのシニョリータは娘を連れて村を出て行ってしまった。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 衝撃的な失恋とともに声を失った倫子は故郷に戻り、実家の離れで食堂かたつむりを始める。ここの料理を食べると、恋や願い事が叶うという噂とともに、食堂は評判になるが…。

読後感:

 物語の出だしから、痛烈なショック状態に見舞われた倫子は祖母のぬか床を抱え、10年振りに小さな人口5千足らずの静かな村に戻らざるを得なかった。嫌いなおかんの元なんとか豚の“エルメス”の世話係として住むことを許され、料理店を開店するために高い利息をつけておかんから金を借り、店作りに取りかかる。

 料理店といっても一日一組しか取らず、お客の希望を事前に聞き取り、それでメニューを工夫するとは,そんなことでやっていけるのかとちょっと心配になるぐらい。
 でもその料理メニューのバラエティーというか、素材に対する知識とかは、豊かで理想的でまさにファンタジーといったところ。

 さらには倫子はショックが元で声が出ないハンディまで背負っているとは。でも物語の中の倫子はそんなことは何も感じさせないぐらい自然な振る舞いに気になることも感じさせない。
 村人の気持ちも優しさが溢れていてこんな世界があったらこんな幸せはないだろう。

 感動的なのは、豚のエルメスの最後である。全く人間と同じ扱いの臭いと人間味(?)が感じられて思わずうるうるときてしまう。
 ふくろう爺の種明かしも騙された!
 そして嫌いだったおかんとの関係もかくもありなんとの納得状態で・・・。

  

余談:

 先に読んだ「つるかめ助産院」(集英社文庫)の最後に掲載されていた宮沢りえさんと小川糸さんの特別対談を読み返したら、小川糸の書きたかったリアルさのイメージや、宮沢りえさんの感動シーンの表現はさすがに作家さん、俳優さんの感覚なんだなあと改めて感心させられた。

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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